サイノ・フューチャリズム(Sinofuturism)とは・意味
サイノ・フューチャリズムとは?
サイノ・フューチャリズム(Sinofuturism)とは、中国にこそ、われわれ人類の未来の姿があるのではないかという機運が急速に高まることを指す。日本語で「中華未来主義」とも呼ばれている。以降、サイノ・フューチャリズムのことを中華未来主義と述べることとする。
「中国は繁栄する市場になる、中国は世界支配への道を歩んでいる、中国は将来の統治モデルとなる」。中国の改革開放(※1)時代から40年が経過した今、経済の飛躍や集約的な都市化、デジタル技術を伴う中国の世界的な台頭は、こうした未来像を描くこととなっている。
※1 改革開放とは、中国を社会主義経済から資本主義経済にする過程のことをさす。
一方で、西側諸国では、「没落する西洋」「引き篭もるアメリカ」そして「失われた日本」という形で、日米欧は著しく停滞している。その結果、世界が成長中の中国を憧憬の眼で見る状況が生じており、中華未来主義は日本でもひそかに広がりを見せている。
中華未来主義を補強する思想
中華未来主義には、中国とは必ずしも関連のない世界的な思想的潮流が関与しており、その思想に後押しされる形で中華未来主義がさらに加速的に拡大している。
世界的な思想的潮流の一つが、「加速主義(アクセラレーショニズム/Accelerationism)」だ。加速主義は、産業革命以降進んできた近代化を、AIなどの最新技術を使ってさらに加速していくことが正しい方針だと考える思想だ。その結果、無限の資本の増殖を求め、あらゆる資源を無限に使い発展しようとする。
二つ目の思想として、「暗黒啓蒙(ダークエンライトメント/Darkenlightement)」あるいは「新反動主義(ネオ・リアクショニズム/Neoreactionism)」があげられる。これらの思想は、民主主義の国々が停滞しているという現状を背景に生じた思想である。「民主主義を乗り越えた反動的な運動こそが今、求められており、古い民主主義にこだわっていることは害悪だ」と主張しているのだ。
三つ目の思想として「脱政治家」がある。脱政治家は、AI(人工知能)などの最新技術を徹底的に進めれば、あらゆる問題が解消し、政治そのものの必要性が縮小していくと考える思想である。
中国未来主義が台頭した背景
中国未来主義が生じた背景には、「西洋の疲弊」「中国独自の政治の統治構造」「グローバリゼーション」の三つの要因があると考えられている。
01. 西洋の疲弊
欧米世界には、国民国家の枠組みを超えて唱えられてきた人権・寛容・多様性などの啓蒙的理念がある。ここに異を唱えることはできず、ある意味自由さえも失っている状況がある、と専門家は分析している。このような状況下で、上述した「加速主義」や「新反動主義」は生じた。
「啓蒙的理念が不自由をもたらしたのだとすれば、人権・寛容・多様性を否定し、それらを保障している国民国家や民主主義も否定しよう。そして、自由だけを、つまり資本主義を加速しよう。そうすればいつか資本主義自体を乗り越える瞬間がくるはずだ」そのような考えから、超人たちの加速主義国家である中国を讃えていく考えも生まれた。
02. 中国独自の政治の統治構造
歴史学者であり批評家の與那覇 潤は、統治ー被統治の関係を、西洋、日本、中国でそれぞれ「西洋型民主主義」「日本型民主主義」「中国型徳治主義」で分類している。その中でも、「中国型徳治主義」とは、統治ー被統治の関係が完全に分離しており、権威(イデオロギー)を独占した統治権力が、人民を管理する政治構造をとっている。
政治は特権的な支配者、皇帝のみが営めばよく、人民は、そのパターナルな恩恵によって、経済的自由と物質的利便性を享受しておけば良いと考える。そして権威は権力となり、共産党支配とも親和性が高く、経済的自由も徹底するので、市場は加速的に繁栄していく。
しかし、私利私欲を追求する庶民はアナーキー(※2)になりがちなため、それを規制する手段が昔であれば、思想統制だったが、今や環境管理のAIがそれにとって代わり始めている状況である。この結果、AIによる人民の管理が進み、ますますデジタル技術が拡大している。
※2 無政府状態のことをさす。
03. グローバル化
思想家であり経済学者でもある柴山桂太は、中華未来主義が生じた背景にグローバル化があると述べている。
戦後の日本経済は、輸出に対する依存度はGDPの10%もないような極めて内需主導であり経済発展に伴って平等化も進んでいくという現象が見られていた。一方で中国の経済成長は、リーマンショック前だとGDPの40%が輸出に依存している「輸出指向型」の発展モデルである。その結果格差が開き、中間層ができにくい構造をしており、グローバル経済に依存した経済成長をしている。
グローバル化は、国境線を無くして色々なものが出たり入ったりするが、その時に中国では共同体原理に基づく秩序形成を行うのではなく、監視社会とも呼べれるような、ばらばらな個人の動きに関わる情報を収集して、AIなどのテクノロジーによる環境権力型統治を行うのである。
民族の文化を持ってきたり、宗教の原理を組み込んだりするなど、さまざまな方法で国民のまとまりを維持するのが欧米のやり方だった。しかし、中国の場合はそれらを文化大革命で破壊してしまったため、理念上は文化的な負荷を持たない人民と、それを独占的に統治する共産党政府という構造になっている。よって、グローバルな出入りの激しい経済に極めて適合しやすい状況になっているのである。
このように中国は、独自の政治構造により、より効率的に市場を拡張し、AI等のデジタル技術を積極的に取り入れ人民の管理を進めている。そしてその波は、疲弊した西洋とグローバル化した世界を背景にますます加速的に広がりを見せているのである。
まとめ
このように、中華未来主義は、グローバル社会における国家体制での大規模な市場拡大とデジタル技術の拡張のもと、加速的に発展を遂げた。日米欧が激しく停滞する中、ますます中国への関心が高まっている。一方で中華未来主義の背景にある加速主義やグローバル経済は、さらなる地球環境課題や格差を生み出す危険性があり、正しく吟味をしていく必要がある。
【参照書籍】「中華未来主義」との対決 (別冊クライテリオン)
【参照書籍】広井良典「無と無意識の人類史ー私たちはどこへ向かうのか」
【参照サイト】Studies in Global Asias「Sinofuturism
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- SaaS(Software as a Service)
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