プラグマティズムとは・意味
プラグマティズムとは?
プラグマティズムとは、「人間の生活に実際に役立つことを重んじて、さまざまな問題を解決していこうとする思想」のこと(出典:NHK高校講座 – 倫理 第3章 現代を生きる人間の倫理「社会変革の思想」)。日本語では「実用主義」「実際主義」「行為主義」とも訳される。
プラグマティズムの一般的な考え方には、「すべての哲学的概念は科学的な実験によって検証されるべきであり、主張が真実であるのはそれが有用である場合のみである」「先の主張に関連して、哲学的理論が社会の進歩に直接貢献しないのであれば、その価値はあまりない」などがあげられる。
ヨーロッパとアメリカ合衆国の哲学の違い
プラグマティズムはアメリカ合衆国(以下、アメリカ)で発展した哲学として知られる。
元々は17世紀〜18世紀にかけてイギリスを中心に起こった考え方である「経験論」を一つの基盤としている。従来のヨーロッパの「観念論」的哲学とは、概念や認識を科学的に検証し、客観的な結果を表そうとする志向を持つ点で異なる。
経験論と観念論
経験論、観念論ともに17〜18世紀にかけてヨーロッパで主流となっていた哲学理論である。
経験論は「人間の認識や知識といった観念は経験(感覚)から得られる、生まれながらに備わっているものではない。経験できない事柄の真理を考えることはできない(=経験することによって学び、真理を導き出すことができる)」という考えを示す。経験論を提唱したイギリスの哲学者フランシス=ベーコンは、観察や実験で得られたデータから一般的な理論を導き出す方法である「帰納法」を主張した。
対して、観念論は「この世界にあるものは観念に裏づけられて存在している(=精神や意識が世界をつくりだしている)」とする考え方を示す。哲学上、「物質または自然に対して、精神または意識のほうをより根源的な原理として考える立場」をとる(出典:精選版 日本国語大辞典)。
プラグマティズムの歴史
プラグマティズムは1870年代にアメリカで、人間の理性の限界から生じる問題解決の手法として提起された。
中川淳平『プラグマティズムと経営管理論』(駒澤大学経営学部研究紀要第42号、2013年)によれば、プラグマティズムの考え方は、多元的な社会階層や人々の多様な考え方などから生じる利害対立といったアメリカ独特の問題を克服するうえで非常に有益なものだったと記されている。
チャールズ・サンダーズ・パース(1839~1914)、ウィリアム・ジェームズ(1842~1910)、ジョン・デューイ(1859~1952)はプラグマティズムの流れを知る上で重要な人物だ。
パースによるプラグマティズム
1870年代、チャールズ・サンダーズ・パースがプラグマティズムの手法を最初に提示した。
富増章成『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken、2023年)では、パースによるプラグマティズムを「観念は結果でわかる」と説明している。「観念は結果でわかる」とは、小学館から出版された『日本大百科全書(ニッポニカ)』が例にあげる、「もろい」という観念の説明がわかりやすい。
パースによれば、観念の意味は、その観念の対象が、行為にかかわりのあるどのような結果をもたらすかにある。たとえば「もろい」という観念の意味は、その対象に力を加えるとすぐ壊れる、ということである。このようにある観念の意味を明らかにするためには、その観念の対象になんらかの実験を行うことによって、どのような結果が生まれるかを考えてみればよい。
(出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ))
ジェームズによるプラグマティズム
19世紀末にパースの親友であり同僚だったウィリアム・ジェームズがプラグマティズムを全世界に広めた。
ジェームズは、観念の意味を明らかにする方法として提案されたパースのプラグマティズムを、より実用的に解釈し、真理に関する理論に応用した。
ジェームズは、いかなる観念であっても、それが人生において実際に有用な効果をもたらすならば、それが真理である、と主張する。たとえば神という概念も、神を信じることで勇気づけられる(という結果をもたらす)ならば、実用的な意義があり、真理であるということになる。
『日本大百科全書(ニッポニカ)』では、ジェームズがパースのプラグマティズムを発展させた意図の一つは、19世紀以降に深刻化していた科学的世界観と宗教的信条との対立を取り成すことだったと記されているが、一般にジェームズのプラグマティズムは「役にたつものはすべて真理である」とみなされた。
デューイによるプラグマティズム
20世紀前半には、ジョン・デューイがプラグマティズムを社会哲学および教育学の分野に発展させた。
デューイの代表的な哲学的思想に「道具主義」がある。
道具主義は、科学を対象とする哲学的な考察において、科学的概念や理論の価値は、それが文字どおり真実であるか、現実に対応しているかどうかではなく、経験的な事象によって得られた予測や概念的問題の解決にどの程度役立つかによって決まる、という考え方。いうなれば、科学理論は自然界について意味のある説明としてよりも、むしろ「現実的な問題を解決するための道具」として主に考えるべきだという思想である。
デューイはプラグマティズムを大成させた中心的な人物として知られているが、自身の立場をプラグマティストとは考えずに、「道具主義者」と称した。
教育思想家でもあったデューイは、子どもたちが学ぶ際、暗記することよりも実際に経験することによって学ぶことを強調。子どもたちの学びの姿勢には、不必要に長く形式的な学びより、実生活の行動に関わることのほうが向いていると考えたのだ。たとえば数学を学ぶ際、教室で授業を受けたり教科書を読んだりするよりも、料理中に食材の比率を数字化したり、交通手段を使って移動する際の距離を数字化したりすることで学ぶことができるとした。このことから、デューイは、講義や読書課題よりも生徒中心の活動を重視する進歩的教育理論に関連している。
なお、デューイ以降、パースに始まり、ジェームズによって広がったプラグマティズムは衰退していったが、現代においてこれらのプラグマティズムを「古典的プラグマティズム」「伝統的プラグマティズム」と呼び、今一度見直す動きもある。またアメリカの哲学者リチャード・マッケイ・ローティらによって「ネオ・プラグマティズム」への発展も見られる。
プラグマティズムの基本的な特徴
プラグマティズムの特徴は、以下の4つにまとめられる。
- 行為(プラグマ)の重視
- 有用性の重視
- 経験的・実験的方法
- 社会の進歩への信頼
(出典:新本豊三『倫理思想―原典からの思索』p. 173、第一学習社、1990 年)
先述したプラグマティズムの歴史を振り返ると捉えやすい。
「行為(プラグマ)の重視」は「観念は結果でわかる」というパースの主張、「有用性の重視」はジェームズの主張の具体例である神の観念とつながり、デューイの「道具主義」や教育に対する姿勢にも「行為(プラグマ)の重視」と「有用性の重視」が表れている。「経験的・実験的方法」はプラグマティズムの元となった経験論から引き継がれたものだ。
そして「社会の進歩への信頼」はプラグマティズムの難点を支える。
日本の哲学者・谷川嘉浩は、株式会社インフォマートが運営するメディア「Less is More. 」のインタビューで、「プラグマティズムは、何が一番良いとか、唯一の理想は描きません」と答え、プラグマティズムの思想についてこう説明した。
プラグマティズムから導けるのは、究極的には何が正しいか分からないので実験してみようという態度、そして、色々な考え(仮説)の実験を続けられる環境を整えることの重要性、ここまでです。良し悪しは別途議論すべきことで、それとこれとは別の水準の話という感じですね。
プラグマティズムは個々人の経験や有用性を重視するが、何らかの目的に対して明確な1つの答え、谷川氏の言葉を借りれば良し悪しを導き出すこと、は目的としていない。これはプラグマティズムの難点ともいえる。
だが、「社会の進歩への信頼」という、社会をより良くしようという個々人の考えがプラグマティズムの思想を成り立たせているともいえるのだ。
プラグマティズムに期待されること
昨今の環境問題に関する話題の中で「環境プラグマティズム」という言葉が登場している。
環境プラグマティズムとは、環境問題についての理論的な議論や倫理的な理想よりも、実際に機能する現実的な解決策を重視する思想のこと。
環境プラグマティズムは、抽象的な哲学的議論に焦点を当てた「環境倫理学」に対し、現実的に環境問題を解決するための議論に方向転換することを求めた主張でもある。先述したデューイの「道具主義」や教育思想を思い出す内容だ。
環境プラグマティズムでは、人々が自然環境に見出す価値が多様であることを前提に、その多様な価値が開かれた議論を通じて共有され、積極的に環境政策に反映されることを求める。そのため、人々の価値や信念が対立する可能性があるし、公共的議論の中で合意に到達しない状況に陥ることもあるだろう。
しかし日本の哲学者・谷川嘉浩の言葉にもあった通り、プラグマティズムの目的は是か非かを導き出すことではない。環境プラグマティズムもまた合意できるか否かに重点を置いていない。環境問題の解決について、理論ではなく実践を求めるからこそ、合意形成が難しい可能性を十二分に理解しながら、合意に向けて働きかけ続けるものなのだ。
またプラグマティズムの認識として広く受け入れられている「誤りを受け入れる寛容さ」と「誤りを修正する意欲」も今日の生き方において重要な姿勢といえよう。
たとえば今日、私たちは仮説を提示し、それを実験で何度も検証することで科学を実践している。そして科学者は仮説や理論が世の中でどのように機能するかに基づき、その真偽を常に見極めている。プラグマティズムを提唱したパースによれば、「調査のどの段階においても(実験の)結論には多かれ少なかれ誤りである可能性があるが、同じ方法をさらに適用すれば、誤りが修正されるに違いない」。つまり、社会がより多くの情報に接するようになればなるほど、私たちはますます真実に近づくことになるはずだ。
このことは、将来の社会が、現在私たちが真実と呼んでいるものを修正する可能性があることを受け入れるということでもある。だが、繰り返しになるが、問題解決のために何度も検証を繰り返すこと、それ自体が重要なのだ。
参考文献
清水雅博、鷲野鷹哉、大磯仁志『倫理:大学受験らくらくブック (新マンガゼミナール)』(学研プラス、2005年)
富増章成『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken、2023年)
任雅楠『デューイのプラグマティズムと認識論に関する一考察』(広島大学学術情報リポジトリ、2023年)
中川淳平『プラグマティズムと経営管理論』(駒澤大学経営学部研究紀要 42 号、2013年)
【参照サイト】Pragmatism (Stanford Encyclopedia of Philosophy)
【参照サイト】【高校世界史B】「近代的な世界観が構築される時代」 | 映像授業のTry IT (トライイット)
【参照サイト】【高校世界史B】「人々が時代にあわせてとった思考プロセスとは!?」 | 映像授業のTry IT (トライイット)
【参照サイト】John Dewey Theory & Impact | What is John Dewey’s Philosophy of Education? – Lesson | Study.com.
【参照サイト】Instrumentalism | Definition & Facts | Britannica
【参照サイト】プラグマティズムと非合理な情熱。学びの果ての衝動。哲学者・谷川嘉浩氏インタビュー。
【参照サイト】Pragmatism: How Americans define truth – Big Think
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