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ブルーカーボンとは・意味

ブルーカーボンとは・意味

ブルーカーボンとは、海洋生態系によって海中に隔離・貯留される炭素のこと。海中での海洋生物の作用によって吸収・固定された炭素を定量化し取引可能にすること(炭素のクレジット化)をブルーカーボンと呼ぶこともある。

ブルーカーボンという言葉は、世界中で生態系によって吸収される炭素の半数以上は海洋生態系によるものであるとして、2009年に国連環境計画(UNEP)が名付けた。

ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系は「ブルーカーボン生態系」と呼ばれ、隔離・貯留の場としては具体的に、アマモなどが生息する海草(うみくさ)藻場、コンブやワカメなどが生息する海藻(うみも)藻場、湿地・干潟、マングローブ林などが挙げられる。これらの場所は生物多様性に富んでいるため「海のゆりかご」とも呼ばれている。

近年、こうしたブルーカーボン生態系はCO2吸収源として注目されている。大気中のCO2が光合成によって、浅海域に生息するブルーカーボン生態系に取り込まれ、そこで生育するコンブやワカメなどの海藻のちぎれた葉が、水深500m以上の海洋の中深層以深に運ばれる。たとえ分解されてCO2に戻ってしまっても、長期間深層などに留まり、大気と隔離されて炭素は蓄積される仕組みだ(カーボンシンク)。

国内でも、2017年2月に学識経験者や関係団体等で構成される「ブルーカーボン研究会」が設立されたり、2020年に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にもブルーカーボンについて記載されたり、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が、ブルーカーボンによるカーボンオフセットプログラムである「Jブルークレジット」を発行したりと、取り組みを推進している。

グリーンカーボンとの違い

生物の作用によって吸収されるCO2のうち、森林をはじめとする陸地で吸収されるものをグリーンカーボンという。一般的に「光合成」と呼ばれているものは、グリーンカーボンに値する。2009年に国連環境計画(UNEP)がブルーカーボンについて言及したことをきっかけに、グリーンカーボンとブルーカーボンは区別して定義されるようになった。

グリーンカーボンと比較して、ブルーカーボンの方が炭素貯留能力は高く、沿岸生態系の面積当たりのCO2の吸収速度は、森林生態系に比べて5-10倍であると言われている。森林の場合、木の老齢化とともに炭素の吸収量は減り、伐採や山火事などでCO2は大気に放出されてしまうからだ。海底に沈むブルーカーボンは、数千年にわたって安定的に貯留される。

ブルーカーボンと海外事例

ブルーカーボン生態系の生息面積が広いオーストラリアやインドネシアでは、特にブルーカーボン貯留の取り組みに力を入れている。

オーストラリアでは、9つの先住民が持つマングローブの保全や修復について議論するプログラムをフィジーと共に展開している。先住民の文化的慣習を知的財産として守る取り組みだ。

インドネシアでは、世界の4分の1程度のマングローブがインドネシアに存在すると言われている。一方で、エビの養殖のためにマングローブ林を大量伐採してきた歴史もある。Selva Shrimpは、マングローブを保護しながらサステナブルな魚介類養殖を推進している。

ブルーカーボンの課題とアイデア事例

藻場の把握と計測

ブルーカーボンの量や経年変化の推移を計測するのが難しい。特に自然藻場の場合は活動エリアやその効果の及ぶ範囲が不明確で、さらに陸地と異なり電波が届きにくい。そのため、ダイバーが潜水して目視確認することが多い。

KDDI総合研究所は、2020年11月にスマートフォンで遠隔制御が可能な水上ドローンを開発。航路を自律航行し、搭載した水中カメラで対象の藻場を撮影した。撮影映像の分析により、海草や海藻が占める面積の割合(被度)の把握が可能なことを確認したという。

2024年12月に設立された富士通発の新会社「BLUABLE」では、全国16か所で藻場造成の実証実験を行い、藻場造成からCO2吸収量の測定・認証申請まで一貫対応可能な体制を構築。独自の造成キットは、海藻の着生促進により短期間・低コストでの藻場整備を実現する。今後、IoTやAIを活用したCO2吸収量の測定も推進していく。

CO2吸収量の担保

また、森林のCO2吸収量である年間3000~5000万トンに到達するには、海藻が不足している課題もある。大量養殖に向けたアイデアや資金も必要である。

合同会社シーベジタブルでは、海藻の研究・製造販売・さまざまな食べ方の提案をしている。同社共同代表が理事を務める一般社団法人グッドシーは、2024年12月、海藻の養殖が海洋環境を改善することを定量的に証明した。海藻の消費人口を増やし、日本が誇る食文化をさらに発展させることで、ブルーカーボン生態系を守る取り組みだ。

ウニノミクス株式会社は、気候変動、環境汚染、捕食種の乱獲などにより、藻場が食い荒らされる磯焼けの原因となるウニを買取り、畜養。ウニを間引き、天然藻場を回復させることで、CO2吸収が認められ、カーボンクレジットを認証・取得している。

クレジットとして取引可能にするインフラの整備

神奈川県横浜市と福岡県福岡市は、行政が主体となってブルーカーボンクレジットを発行している。

横浜市に存在する140キロメートルの海岸線のうち、金沢区に位置する約1メートルを拠点にアマモ場として整備している。2014年に立ち上げられた、横浜市の海洋沿岸でのエネルギー活用によってCO2を削減しそれを取引する「ブルーリソース」とブルーカーボンを合わせたカーボン・オフセット認証取引制度「横浜ブルーカーボン」事業は、世界でも例がない先進的な取り組みである。2019年にはブルーカーボンによるクレジットの認証も行った。

この横浜の「Jブルークレジット制度」の認証を獲得したのは大阪府阪南市のアマモ場。高度経済成長期を中心に大阪湾で失われた藻場や干潟の再生を目指し、関西エアポート株式会社と阪南市が共同でブルーカーボンプロジェクトを推進している。関西国際空港の計画当初から藻場再生に力を入れ、海の環境保全、資源活用に取り組んできた。この成果は大阪・関西万博を通じて世界に発信される。

2020年には福岡市でも「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」がスタートした。博多港の入港料の一部や企業からの寄付金、ブルーカーボン・クレジット取引の売上などを、アマモ場づくりをはじめとした環境保全活動に活用している。

ブルーカーボンのこれから

UNEPの報告書『ブルーカーボン』では、「ブルーカーボン生態系の炭素貯留量は、陸上のすべての植物が貯留する炭素量に匹敵する」と、記している。しかし、「この貴重な生態系は、年間2~7%ずつ消失している(消失率は熱帯雨林の4倍)」と、警鐘を鳴らしている。

その中でも顕著なのは、マングローブ林の減少だ。過去50年で、森林伐採や沿岸開発により、世界中のマングローブ林の50%が失われ、現在も毎年2%の割合で失われている。これらの生態系が失われると、今後その分の炭素が隔離・貯留できなくなるだけではなく、それまでその場所で貯留されていた炭素が放出されてしまうことも大きな問題だ。

ブルーカーボン生態系は産卵場や稚魚の成育場として水産資源を供給してくれるほか、水質の浄化や、教育やレジャーの場の提供など、人間にさまざまな恩恵をもたらす貴重な生態系である。

森林の保全と同じように、ブルーカーボン生態系の保全・再生が欠かせない。

【参照サイト】環境省|カーボンオフセットフォーラム
【参照サイト】海の森 ブルカーボン
【参照サイト】ブルーカーボンについて(環境省)
【参照サイト】UNEP|Blue Carbon – The Role of Healthy Oceans in Binding Carbon
【参照記事】海を守り、地域を潤す。横浜市のサステナブルな循環型事業「横浜ブルーカーボン」




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