効果的利他主義とは?

効果的利他主義とは?
効果的利他主義(Effective Altruism)は、他者に貢献して社会をより良くするうえで、効率とインパクトの最大化を目的とする考え方を指す。米国の倫理学者ピーター・シンガーは1972年に発表した論文で、途上国支援での効率的な寄付の必要性について主張し、元となる考えが初めて提唱された。
2013年以降、ピーター・シンガーが積極的にTED Talkの出演や出版を行い、関心の広まりや研究の増加など社会的な注目が増加している。
効果的利他主義が注目される理由
効果的利他主義が注目された背景として、途上国支援や慈善活動などを通した「他者への貢献」の広まりが挙げられる。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災以降、利益だけでなく社会的なインパクトを目指すスタートアップや企業活動、市民による活動が活発化して以降、注目され始めた。
2008年には、政府や慈善団体による教育やヘルスケア、雇用の改善に関する事業の75%が影響力が小さいか、インパクトを生まないか、さらに悪い影響さえ生んでいるという公共政策学者デイビット・アンダーソンによる推計が行われたこともあり、「社会貢献の効果」が重要なテーマとなったという背景もある。
特徴的な考え方としては、「社会へのインパクトの定量化」「普遍的な価値の存在」「無理のない利他主義」などが挙げられている。
社会へのインパクトの定量化
効果的利他主義では、他人や社会に対して行う「良いこと」を定量的に測定することを重視しているのが特徴だ。
この「良いこと」が実際に、「想定している相手に望ましい影響を与えているのか」「どれだけ影響を与えているのか」「何をすれば影響が最大化できるのか」を定量的な測定・推計や費用対効果などの数値を用いて把握する。感情での判断ではなく、理性や数字を判断の根拠とすることが求められる。
普遍的な価値の存在
社会貢献の効果を数値的に把握して最大化するためには、「効果」の指標を統一する必要がある。そのために効果的利他主義では、「すべての命は平等である」「苦しみが少ない方が良い」「他の条件が同じであれば寿命は長い方がよい」といった考え方が大前提になっている。
このような前提を念頭に、「利他主義」の効果を最大化することが求められる。
無理のない利他主義
上記の普遍的な価値やインパクトへの例外として、「自分の家族を優先すること」や「利他的な行動を人生の一部分にとどめること」の必要性も説いている。
自分の家族と他人の幸福を同じ基準で捉えることや、生活のすべてを利他的な行動にささげる事の限界は念頭においている形だ。
批判や問題点
効果的利他主義には批判もあり、中心的な議論としては「効果測定が難しい分野の疎外」「社会構造の変化につながらない」などがある。
効果測定が難しい分野の測定
効果的利他主義では定量的な「貢献」の最大化が求められる。そのため、治療法の研究が進んでいない疾患治療への研究費の寄付や、効果測定が難しい分野への慈善活動などは、効果が測定しやすい分野と比較して「効果的でない」と定義される。
このような要因で「貢献」を最大化しやすい分野が偏ることが問題視されている。
社会構造の変化につながらない
効果的利他主義に則ると、最も「効果的」な分野は途上国の絶対的貧困などであり、慈善活動や寄付による「効果」が非常に大きいとされている。
しかし、途上国の絶対的貧困などの社会的課題は、そもそも先進国と途上国間の経済格差や産業構造が大きな要因だ。効果的利他主義はあくまで慈善活動などの他者貢献に限った概念なので、そのような問題を根本的に変えるための、社会構造の変化につながらないという批判がある。
現実社会でどう活用されるか
効果的利他主義の考え方は、慈善活動の分野に大きな影響を与えたと言われている。元々慈善団体は、経営状況や調達した資金による効果などの測定が行われてこなかった背景がある。
効果的利他主義の考えの登場によって、寄付者が効果を求める意識が大きくなり、具体的な測定手法の開発につながった。その結果慈善活動の効果測定が広がり、寄付者への透明性向上に貢献したと言える。
また、近年NPOやNGOなどの非営利組織による社会的事業の効果を測定する「社会的インパクト評価」という概念とも非常に近しく、社会貢献のインパクト最大化を標榜する考え方の主流の一つとなっている。
今後もソーシャルグッドな取り組みを評価する上で、中心的な考え方として参照されるだろう。
【参照サイト】Effective Altruism
【参照サイト】Effective Social Program
【参照サイト】Effective Altruism/Concepts
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