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スフィア基準(スフィアスタンダード)とは・意味

災害避難所

Image via tolga ildun / Shutterstock.com

スフィア基準(スフィアスタンダード)とは?

災害や紛争の被災者が尊厳ある生活を営むための人道支援活動における最低基準のこと。正式名称は「人道憲章と人道対応に関する最低基準」である。「スフィア(sphere)」とは、英語で「球体」を意味し、地球上のどこであっても通用する国際的な基準であることを表している。

被災者は劣悪な環境の避難所などで我慢を強いられるのではなく、今後の生活の再建に希望を持てることが必要である。そのためにスフィアの原理は以下の2つの基本理念に基づいている。

  • 災害や紛争の影響を受けた人々には、尊厳ある生活を営む権利があり、従って、支援を受ける権利がある
  • 災害や紛争による苦痛を軽減するために、実行可能なあらゆる手段が尽くされなくてはならない

策定の経緯

スフィア基準が生まれたきっかけは、1994年に起きたアフリカ・ルワンダの悲劇に遡る。民族間の争いにより80〜100万人もの市民が殺害され、虐殺を逃れるために多くの人が周辺諸国へ避難し、各地に難民キャンプが設けられた。しかし、各国政府や国連、NGOなどの支援が行われたにもかかわらず、赤痢やコレラなどの感染症で3万人近い難民が命を落とした。

この守られるはずの命を守れなかった反省から、国際赤十字やNGOなどが1997年にスフィアプロジェクト(2018年以降「スフィア」に改称)を発足し、支援活動のプロセスの見直しを行った。この検証を通じて得られた知見は「スフィア基準」として発表され、支援活動従事者などの指針としてハンドブックが作成された。1998年の試版から改訂を重ね、現在は2018年版が最新となっている。

スフィア基準の内容

スフィアハンドブックは、以下の8つの章で構成されている。

  • 基本的なことが書かれた4章:概説および行動規範、人道憲章、権利保護の原則、人道支援の必須基準(CHS)
  • 技術的なことが書かれた4章:給水、衛生および衛生促進 (WASH)、食料安全保障と栄養、避難所および避難先の居住地、保健医療

スフィア基準の原則と基盤ともなっている人道支援の必須基準(CHS)は、より質の高い支援を効果的に提供するために考えられており、支援における9つのコミットメントを定めている。このCHSは2014年に策定され、2024年には世界の状況の変化や気候変動などの新しい課題への対応を考慮し、以下の内容に改訂された。

  • 自分たちの権利を行使し、自分たちに影響を与える行動や決定に参加できる
  • 自分たちの具体的なニーズや優先事項に応じたタイムリーかつ効果的な支援を受けることができる
  • 潜在的な危機に対してより良い準備をし、レジリエンスを高めることができる
  • 人々や環境に害を与えない支援を受けることができる
  • 懸念や苦情を安全に報告し、それらが対処されることを期待できる
  • 調整され、補完的な支援を受けることができる
  • フィードバックや学習に基づいて継続的に適応・改善された支援を受けることができる
  • 敬意を持ち、能力があり、よく管理されたスタッフやボランティアと交流することができる
  • 資源が倫理的かつ責任を持って管理されることを期待できる

また、技術的な支援の方法については、それぞれ基本行動と基本指標、追加情報を記載したガイダンスノートにまとめられている。

例えば「給水、衛生および衛生促進(WASH)」の項目では、基本行動の1つに「環境に及ぼす影響に配慮しながら、最も適切な地下水や地表水の水源を特定する」を掲げ、基本指標として飲料水と衛生的な生活に必要な水の平均量を「1人1日最低15L」、最大利用者数を「蛇口1つにつき250人」としている。トイレについては、20人につき最低1つ設置、男女比は1:3が必要とされている。

「避難所および避難先の住居」では、「1人あたりのスペースは、最低3.5平方メートル確保すること」を基本指標の1つとして掲げている。

日本の現状

海外では、被災者が環境の悪い中で生活することは人道的な問題と捉えられており、多くの避難所でスフィア基準が採用されている。

日本でも2016年に内閣府が『避難所運営ガイドライン』でスフィア基準を参考にすべき国際基準として取り上げ、同年に熊本地震が発生したことでも注目された。しかし2024年1月の能登半島地震では、各避難所で雑魚寝を余儀なくされるなど、スフィア基準を満たさない環境が見受けられ、各方面から指摘の声が上がった。

こうした中、同年11月に政府はスフィア基準をより具体的に反映させる方針を示し、12月に「自治体向けの避難所に関する取組指針・ガイドライン」の改訂を発表した。これにより、避難所環境の改善が進むことが期待されている。

まとめ

スフィア基準では、災害の現場で誰もが活用しやすいよう、基本指標やガイダンスノートを細かく設定している。ただし、スフィア基準はあくまでガイドラインであり、例えば「トイレの男女比が1:3」ということを必ず守らなければいけない、というものではない。本来の目的はその上位にある基準の「人々は十分な数の、適切かつ受け入れられるトイレを安心で安全にいつでもすぐに使用することができる」である。

数値にとらわれるのではなく、被災者の声に耳を傾け、それぞれの場所や状況に応じた解決策を考えることが重要だ。災害時に被災者が尊厳ある生活を営むことができる環境を提供するために、支援する側も支援される側もスフィア基準を正しく学ぶことが求められる。

【参照サイト】Sphere | The Sphere Handbook 2018
【参照サイト】内閣府 | 第55回 人道憲章と人道対応に関する最低基準(スフィア基準)
【参照サイト】こころのかまえ研究会 | スフィアハンドブック の構成 : スフィアパーソン
【参照サイト】こころのかまえ研究会 | 人道支援の質を高める道しるべ:CHSとは何か、そしてなぜ重要なのか
【参照サイト】情報労連リポート| 被災者が尊厳ある暮らしを送るために 人道支援の国際基準「スフィア基準」を知る – 特集
【参照サイト】内閣府 | 自治体向けの避難所に関する取組指針・ガイドラインの改訂




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