ドリームバータイジングとは?
ドリームバータイジング(Dreamvertising)とは、睡眠中に見る夢を媒体とした広告キャンペーン手法のこと。ドリームバータイジングでは、企業が映像や音などの感覚的な刺激を使って人々がみる夢を誘導または形成することでPRを行う。
こうした夢を意図的に操作する技術はターゲット・ドリーム・インキュベーション(TDI )と呼ばれる。瞑想や絵画などを利用して夢の内容を変える方法は古代でも使われていたが、それを現代科学の知見により最新のテクノロジーにアップデートしたのがTDIだ。
現代科学では脳波や目の動き、いびきなどを研究することにより夢をみる睡眠の段階を特定できる。また、音・匂い・光・言葉などの外的刺激が睡眠中の夢に影響する可能性があることが解明されており、臨床現場ではTDIを使用した研究の結果、喫煙や人種的偏見を減らすことに成功したという報告もある。
ドリームバータイジングはこうしたTDIの技術をマーケティングに活用しようとする試みである。
ドリームバータイジングの事例
ドリームバータイジングを実際の商品のPRとして使用し話題となったのが、アメリカのビールメーカーモルソン・クアーズの広告だ。同社は2021年1月、ハーバード大学の夢心理学者ディアドル・バレット氏の協力のもと、アメリカンフットボールリーグ「NFL」の優勝決定戦である「スーパーボウル」の数日前に自社製品をPRするドリームバータイジングの実験を行った。
その内容はまず対象者に流れる滝、涼しい空気といった爽快な山の情景と自社ビールの映像を90秒間視聴してもらい、その後、夜通し8時間のサウンドスケープを流して夢を見てもらうというものだ。この試みの結果、18人のうち5人が「クアーズビールまたはセルツァー(同社の炭酸水)の夢を見た」と答えたという。
また別の事例として2018年には、バーガーキングがハロウィーンの「ナイトメアバーガー」を宣伝するためにTDI広告を使用し、実際に悪夢を誘発することが臨床的に証明されている。
広告コスト削減に期待
ドリームバータイジングは、広告媒体が人間の脳そのものであるため、広告費用を大幅に節約できるとしてマーケティング業界で注目されている。
2021年に行われた調査で、アメリカのマーケティング担当者の77%が「今後3年間でドリームバータイジングを使用する予定だ」と答えたという。
将来、企業がすでに広く普及しているアレクサなどのスマートスピーカーを広告のツールとして使用し、人々の夢や行動に影響を与える音を流すといった広告手法が当たり前に使われるようになるかもしれない。
ドリームバータイジングの懸念点
しかしドリームバータイジングにはいくつか懸念点もあり、実用化にはターゲット・ドリーム・インキュベーション(TDI)技術へのより深い理解と規制が必要だとされている。
倫理的問題
まず専門家が指摘しているのは、TDIがマインドコントロールやサブリミナルメッセージとして誤用される危険性である。
先述したドリームバータイジングの事例では対象者が自発的に動画や音を視聴し広告キャンペーンに参加したが、今後企業が既存のスマートスピーカーなどを使って無意識のうちに人々の夢に介入しPRを行う可能性も否定できない。
このように人々を無意識のうちに操作する行為は倫理的な問題などから、日本やアメリカをはじめとしたいくつかの国々で禁止されている。
また、ドリームバータイジングでアルコールや薬物など中毒性がある製品のPRを行う場合はさらに注意が必要だ。
脳への影響
加えて、人々の夢に介入する行為が脳に何らかの影響を与える可能性も危惧されている。
科学的に人の夢は記憶の整理や精神の健康管理に深く関係しているといい、脳が必要以上に無関係な情報を学習してしまう「過剰適合」を防ぎ、脳の働きを最適化する役割もあるといわれている。ドリームバータイジングがこうした脳機能にどう影響するかは、現在のところ明らかになっていない。
こうした懸念から2021年6月に北米やヨーロッパの睡眠や夢に関する研究者35人が、夢を広告に利用する手法に対して警鐘を鳴らす公開書簡を発表している。
ドリームバータイジングの今後
ドリームバータイジングはコストを大幅に節約できる効果的なプロモーションの手法として企業の期待が高まっているが、今後の検証でよほど顕著な結果が出ない限り、現時点では十分な広告効果があるとはいいきれないという。
ドリームバータイジングの普及にあたっては、人間の睡眠や身体への影響を注視しながら、倫理的に容認される範囲や規制をより明確にしていくことが求められる。
政府や公正取引委員会などの機関が専門家の科学的知見を適切に取り入れ、法整備を進めていくことが必要だろう。
【参照サイト】Coors Big Game Commercial of Your Dreams: Dream Study
【参照サイト】Are advertisers coming for your dreams?|Science
【参照サイト】Trend #39 Dreamvertising|Wunderman Thompson
【参照サイト】Nightmare scenario: alarm as advertisers seek to plug into our dreams|The Guardian
【参照サイト】Advertising in Dreams is Coming: Now What?|Dream Engineering
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