ワクチン・ナショナリズムとは？

ワクチン・ナショナリズムとは、一部の国によってワクチン供給が独占されること。2020年、世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、先進国を中心にワクチン開発が進められた。しかし、資金力のある国がワクチンを買いだめし、自国民に優先的にワクチンを提供する動きがあったのだ。

資金力のある国がワクチンを独占すると、低所得国やワクチン開発力の無い国では、ワクチンの提供が滞ってしまう。その結果、途上国を中心に感染拡大や経済混乱がより長引く恐れがある。

ワクチン・ナショナリズムの現状

新型コロナウイルスのワクチン普及を目指し、2022年中旬までに世界人口の約7割がワクチン接種を完了することを、世界保健機関（WHO）は目標として掲げた。WHOの発表では、2022年9月末時点で、WHO加盟国全人口の63%が一次接種を完了している。

しかし、接種状況は国によって大きく異なるのが現状だ。194の加盟国のうち、63ヶ国が接種率40%未満、11か国が接種率10%未満である。特に、低所得国での接種率は18%と低い。国連は、2021年末時点でワクチン全体の4分の3が先進国に流れており、ワクチン・ナショナリズムが起きていることを指摘した。

また、ワクチン接種時に必要となる特殊な注射器も、国によって供給に偏りが生じている。WHOが目標とする世界人口の約7割のワクチン接種完了には、数十億本の注射器が必要だ。しかし、低中所得国で最大22億本の注射器が不足していると、国際連合児童基金（UNICEF）は警鐘を鳴らす。

ワクチン・ナショナリズムの課題

自国民の安全確保は、各国政府の役目だ。しかし、一部の国がワクチンや注射器を買いだめすることで、以下のような影響が懸念される。

• 途上国を中心にワクチン供給が遅れ、多くの人命が危険にさらされてしまう
• 国際標準から見て安全性が確認されていないワクチンが流通する恐れがある
• 感染拡大が長引くと、人の移動や経済活動が制限され、景気停滞が長引く恐れがある

ワクチン・ナショナリズムの解決に向けた取り組み

ワクチン・ナショナリズムを防ぎ、より公平なワクチン供給を目指すため、国際的な取り組みが始まっている。「COVAXファシリティ」（COVID-19 Vaccines Global Access、コバックス）が、その一例だ。高中所得国が資金を拠出し自国向けにワクチンを購入する仕組みと、ドナー国や団体からの寄付で低所得国向けのワクチン供給を支援する仕組みで構成されている。WHOに加え、ワクチン普及を目指す国際団体が主体となっており、2021年１月時点で約190ヶ国が参加を表明している。

複数国で共同購入することで、一国がワクチンメーカーと直接購入するよりも低い単価で購入ができる。また、「購入オプション」という方式もあり、高所得国がもし自国に十分なワクチン量を確保できた場合、COVAXを通したワクチン購入を辞退することで、その分のワクチンを他国に回すことができるのだ。

COVAXファシリティを通し、

• 合計 9 億 5100 回分のワクチンが144 か国へ出荷された（2022年1月時点）
• 低所得国向け支援の対象国の過半数以上（49 ヶ国）が、ワクチン供給の 50％以上をCOVAXファシリティに頼っており、20か国が90％以上を頼っている（2021年9月時点）

まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大により、ワクチンや医療機器、生活必需品の在庫確保のため、多くの国が奔走した。各国政府が、自国民の保健衛生と安全確保を優先するのは当然のことかもしれない。しかし、COVAXの仕組みのように、国際協調を通して高所得国、低所得国それぞれがワクチン供給を確保できるような取り組みが、今後も求められていくだろう。

【参照サイト】ワクチン・ナショナリズムとは？ ワクチン独占の動きにローマ教皇も警告「私たちは皆、同じ船に乗っている」（Huffpost）
【参照サイト】注射器ナショナリズムとは ― 新型コロナワクチンの普及をどのように妨げているのか（World Economic Forum）
【参照サイト】新型コロナウイルス感染症（COVID-19）WHO公式情報特設ページ（World Health Organization）
【参照サイト】若林真美、高橋麻奈、 磯博康　著（2022）、COVAXファシリティ等を通じた新型コロナワクチン支援—太平洋島嶼国を事例として—（国際保健医療）
【参照サイト】新型コロナ　公平なワクチン分配と日本の役割（読売新聞）
【参照サイト】Vaccine Nationalism, Hoarding Putting Us All at Risk, Secretary‑General Tells World Health Summit, Warning COVID‑19 Will Not Be Last Global Pandemic（United Nations）
【参照サイト】COVAX（UNICEF)

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