PPP(汚染者負担原則)とは・意味
汚染者負担原則(PPP)とは?
汚染者負担原則(Poluter Pays Principle:以下、PPP)とは、環境を汚染したり、損なったりした者が、その汚染や損害に対する費用を負担すべきだという考え方のことだ。具体的には、以下のようなポイントが含まれる。
- 費用の内部化:汚染や環境への影響にかかる費用を、汚染を引き起こす者が負担することで、その行為が経済的にコストを伴うことを促し、汚染行為の削減を目指す。
- インセンティブの提供:汚染者がその行為を減らすために、よりクリーンな技術やプロセスを採用するインセンティブを提供する。これにより、持続可能な環境管理が促進される。
- 公平性の確保:環境への悪影響を直接引き起こした者がその影響を修復することで、社会全体が負担を分担せず、より公平な負担の分配が実現する。
この原則は、多くの国や地域で環境政策の策定や実施において基礎となっており、環境保護のための経済的なアプローチの一環として広く認識されている。ただ、ここでいうコストについては、一般的な理解と日本における考え方の間には違いがある。
一般的には、汚染物質の除去や汚染に伴って発生した損害保障に掛かる費用のことを指すが、日本の場合は汚染を防ぐために必要な対策費用のほか、汚染した環境をもとに戻し、被害者を救済する責任といった金銭面以外の負担も含まれている。
また、コストを負担するのは「汚染者」であるため、製品やサービスの「生産者」のみならず、それらを使用する「ユーザー」も含まれている。
PPPが生まれた背景と目的
PPPは、経済協力開発機構(以下、OECD)が1972年に開いた理事会で採択した勧告「環境政策の国際経済面に関するガイディング・プリンシプル」の中ではじめて提唱された。それまでは環境汚染の対策費用を政府が負担する国と企業が負担する国があったため、国際競争上の不公平を防ぐことが目的だった。
OECDはPPPを提唱するにあたって、大気や水、土地といった環境資源の利用に伴う費用負担がないことが環境汚染の原因であると考えていた。そこで、製品やサービスの生産から消費までのいずれかのプロセスで環境汚染を伴う場合はコストに反映させるべきとすることで、汚染者自身が環境汚染の削減に取り組む動機になると考えていた。
1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)では、環境と開発に関する国際的な原則を定めた「リオ・デ・ジャネイロ宣言」として、27つある原則の一つにPPPが掲げられている。
「環境と開発に関するリオ・デ・ジャネイロ宣言」第16原則
国の機関は、汚染者が原則として汚染による費用を負担するとの方策を考慮しつつ、また、公益に適切に配慮し、国際的な貿易及び投資を歪めることなく、環境費用の内部化と経済的手段の使用の促進に努めるべきである。
日本における公害問題とPPP
PPPが提唱された翌年の1973年、日本では「公害健康被害の補償等に関する法律」が制定されたが、その目的は公害による健康被害を補うために医療費や補償費を支給し、被害者を保護することだった。つまり、環境汚染にかかるコストは汚染者が負担すべきであるという前提は、日本ではPPPが提唱される以前からあった。
1950年代から水俣病をはじめとする公害は社会的な問題となっていた。1967年に制定された、公害防止対策の基本となった「公害対策基本法」では公害の定義や事業者による費用負担が明記され、1993年に廃止されたあとも、その内容は現行の「環境基本法」へと引き継がれている。1970年に制定された「公害対策事業費事業者負担法」には、事業者が費用負担する範囲や金額の算定方法などのより具体的な内容が定められている。
こうした公害問題を背景として、OECDが提唱するPPPが経済的な視点に立っているのに対して、日本では事業者による汚染除去費用に加えて、環境の復元や被害者の救済措置にも比重が置かれており、法学的な視点に立って過去の行為に対しても負担が求められる場合もある。
EPRやPL法との関係
製品やサービスのユーザーを含む「汚染者」が環境汚染のコストを負担すべきというPPPの考え方に加えて、一般家庭が出す廃棄物を自治体がまとめて処理するという考え方や方法を「共同負担原則」または「公共負担原則」といい、日本ではPPPが提唱される以前からこれらの考えに基づいて廃棄物の処理方法が制定・実行されていた。
しかし、家電や自動車といった複雑な製品の廃棄物処理の方法についてはユーザーだと分からない部分も多く、特にリサイクルに関してはメーカーでなければできないという課題があった。また、「汚染者」という表現では、責任の主体が曖昧になってしまい環境汚染の議論が収束しないという懸念も考えられた。そこで、90年代になるとより明確な責任主体としての「生産者」が廃棄からリサイクルの段階まで責任を負う「拡大生産者責任(EPR)」という考え方が欧米を中心に広がり、2001年にはOECDがマニュアルを策定した。
現在では責任の主体が「汚染者」からより明確な「生産者」となり、その対象は人的な損害や製品の欠陥に対して適用される「製造物責任法(PL法)」から、環境というより広い概念へと拡大したEPRが主流になりつつある。ポスト人間中心、循環型経済への移行が叫ばれるいま、私たち一人ひとりが環境への負荷を考慮した責任ある行動をを心掛けたい。
【関連サイト】 環境用語集:「公害健康被害補償法」|EICネット
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