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クリティカル・デザインとは・意味

クリティカルデザイン

クリティカル・デザインとは?

クリティカル・デザイン(Critical Design)は、議論を提起するためのデザインのこと。クリティカルは直訳すると「批判的な」「危機的な」という意味で、デザインで議論を起こすことで、それを見た人の自己反省を促す姿勢や、疑問をうながす立場を意味している。

イギリスの国立大学Royal College of Art(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)の教授であるアンソニー・ダンが著書『Hertzian Tales』(1999年)で初めてこの用語を用いた。

デザインは従来、日常生活におけるあらゆる出来事をより効率的に、より快適にする機能的なものだ。言い換えれば、「問題を解決するため」のものといえる。一方でクリティカル・デザインは、日常生活において製品が果たす役割への前提や先入観、既成概念を明らかにし、議論を活性化させ、現状を打破する行動につなげるを目的としている。

アンソニー・ダン教授は、自身のデザインスタジオ「Dunne & Raby」のウェブサイト上で、クリティカル・デザインについて以下のように解説する。

クリティカル・デザインは、日常生活において製品が果たす役割への視野の狭い思い込みや先入観、既成概念に挑戦するために、思索的なデザインの提案を行う。クリティカル・デザインはデザインの手法というよりもデザインに対する立場、姿勢を表すものである。

「アファーマティブデザイン」や「デザイン思考」との違い

クリティカル・デザインと一緒に議論される言葉として、アファーマティブ・デザイン(Affirmative Design)や、デザイン思考(Design thinking、デザイン・シンキングとも呼ばれる)がある。

アファーマティブ・デザインは、クリティカル・デザインと対をなす概念だとして、デザイナーのイアン・ゴンシャーが書いた記事に解説されている。簡単に言うと、クリティカル・デザインが「問題発見」だとするならば、アファーマティブデザインは「問題解決」をするためのデザインだ。

デザイン思考とは、製品やサービスを生み出すときの考え方だ。使うであろうユーザーを観察して課題を定義し、アイデアを出し、そのアイデアを元に試作品を作り、テストを行う、という「共感→定義→概念化→試作→テスト」の5つの段階を繰り返すことで、イノベーティブなデザインができると言うもの。一方でクリティカル・デザインは、手順でも手法でもなく、姿勢や立場を表し、人々に考えさせることを主な目的とする。

クリティカル・デザインの事例

「Dunne & Raby」によるインスタレーション「Is this your future?」(2004年)のためにデザインされたランチボックスには、食料を入れるスペースと排泄物を入れるスペースがある。ランチボックスは2つの円筒が接合された形で、赤い蓋があり、左側の蓋には「Lunch(ランチ)」、右側の蓋には「Poo(ウンチ)」というラベルが貼られている。

© The Board of Trustees of the Science Museum

© The Board of Trustees of the Science Museum

このインスタレーションでは、未来の代替エネルギーとして、水素、リサイクルされた人間の排泄物、動物の血液という3つのシナリオを想定していた。このランチボックスは、電気を使わないエネルギー源というテーマに応えるように、未来に焦点を当て、挑発したデザインとなっている。

プロダクトデザイナーのユルゲン・ベイは、発泡スチロールで作られた模型が完成品のデザインとして提示されることに疑問を投げかける。家具を作るという文脈上、発泡スチロールは家具を作る素材として適さないからだ。そこでベイは《The Model World Maquette》(2007年)で、発泡スチロール性の機能的ではない家具を作りあげた。

これらの事例を見ていると、クリティカル・デザインは単なる前衛的なアート作品のようにも感じられるが、この言葉を提唱したアンソニー・ダン教授は「Dunne & Raby」のホームページ上で「クリティカル・デザインはアートではない」と説明している。

手法やアプローチの面でアートを大いに参考にしているかもしれないが、それだけである。アートには衝撃的で過激であることを期待する一方、クリティカル・デザインは日常に近いものであるべきで、そこにクリティカル・デザインの意義があると考える。あまりに奇妙すぎるとアートとして見過ごされ、あまりに普通すぎると日常に同化してしまう。アートとしてなら扱いやすいが、デザインとして扱われるとより不穏なものに感じられる。そのおかげで、私たちが知っている日常や物事に起こり得る変化について提唱できる。

まとめ

クリティカル・デザインによる問題提起の方法は、既成概念に迫ったり、議論を巻き起こしたりするような批判的なものばかりではない。映画や文学のような人々を楽しませる方法で問題提起されることもある。

とはいえクリティカル・デザインは基本的に、思索的、概念的、挑発的なものであり、時に暗く風刺的だ。

しかしそんなクリティカル・デザインだからこそ、長期的な考え方や複雑な顧客の思考の捉え方、常に起こり得る変化への代替的な解決策を生み出す、とされている。より広いデザインの分野や用途の発展のために、自ら実践してきたことを覆すことができ、そして人々を集め、議論する場や関係性を生み出すものともいえる。

【参照サイト】Critical Design | MoMA
【参照サイト】Critical Design FAQ
【参照サイト】What is Critical Design? | Central Saint Martins
【参照サイト】Provocative design for unprovocative designers — DRS2016
【参照サイト】What is Design Thinking and Why Is It So Popular? | Interaction Design Foundation (IxDF)
【参照サイト】Is this your future?: ‘Poo’ lunch box | Science Museum Group Collection
【参照サイト】Wouldn’t It Be Nice – Wishful Thinking In Art and Design | DeTnk
【参考書籍】Matt Malpass, Critical Design in Context: History, Theory, and Practice, Bloomsbury USA Academic, 2017




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