他者化(Othering)とは?
自分が属するグループ以外の人や集団を自分とは異なる存在とみなし、排除すること。英語の「Other」を動詞として使用し、ingをつけたもの。OxfordやCambridgeの辞書では以下のように定義されている。
a process whereby individuals and groups are treated and marked as different and inferior from the dominant social group.(個人や集団が支配的な社会集団とは異なる劣った存在として扱われ、特定の対象とされるプロセス)
▶Cambridge dictionary
the act of treating someone as though they are not part of a group and are different in some way.(ある人をグループの一員ではなく、何らかの点で異なっているように扱う行為)
人とのつながりや人間関係を「Us(私たち)」と「Them(彼ら)」に分け、仲間でないものは異質なものとする考え。主にマジョリティ(大多数)側の人からマイノリティ(少数派)の人々に対して使用されることが多い。
人種差別、性差別、障害者差別、宗教的差別、同性愛者嫌悪やトランスフォビア、労働階級への差別などさまざまなシーンで起こりうるが、エスカレートすると迫害や暴力行為、戦争の原因となる。ナチスによるユダヤ人の迫害やミャンマーのロヒンギャ虐殺などは他者化が極端な形で現れてしまった例のひとつである。
日常に潜む他者化
意識をしていなくても自分でも気づかないうちに、無意識のバイアスが働き、社会的排除や疎外行為に関与してしまうことがあるかもしれない。以下に他者化の兆候の例をいくつか挙げる。
- 自分と似ている人には肯定的、自分と異なる人には否定的な資質を当てはめる
- 自分や自分が属する社会的グループと異なる人は、自身やその生き方を脅かす存在であると考える
- ある社会集団の人々に対し、その集団の誰も知らないにもかかわらず、不信感や動揺を感じる
- 自分や自分が属する社会的グループと異なるという理由で、その人たちとの交流を拒否する
- 自分が属する社会的グループ以外の人々は、自分や自分たちのグループほど知識や技術もなく、特別な存在でないと考える
- 人々を個人として考えず、特定の社会集団との関係においてだけ考える
例えば、「○○のエリアに住んでいる人はガラが悪い」や「○○の仕事は学歴やスキルがなくても誰でもできる」などは特定の地域や職業に対する偏見であるし、「マイノリティの人たちを受け入れる」といった発言も、受け入れる側の自分たちが主体で、相手側を異質なものとして捉えている可能性がある。自分の考えや行動が意図せずフレーミングされていないか、客観的に見つめ直すことも必要だろう。
他者化の原因と回避方法
他者化はなぜ起きるのだろうか。ここではその原因と、他者化による弊害を極力無くすための方法を紹介する。
他者化の原因
集団バイアス
人は自分と違う集団のメンバーより、自分が所属する集団の人々を評価や贔屓する心理的傾向があると言われている。これを「内集団バイアス」と呼ぶ。一方で、自分の集団のメンバーの個人差や多様性に気づく一方で、それ以外の集団や組織は皆あまり違いがなくステレオタイプなものと考える傾向があり、これを「外集団同質性バイアス」と呼ぶ。こうした固定観念が、差別意識の形成につながることがある。
社会的同一性
ある集団に属することは、その集団に属する人の行動やアイデンティティに大きな影響を与える。人は自分が特定の社会集団に属しているとみなすと、その集団のメンバーでない人を差別したり、敵対的な行動をとったりする傾向がある。
知識の欠如
人は自分が実際に知らない人を他者として扱うことが多い。個人的な知識や人との関係性の不足によって、その人たちに対する思い込みが強くなり、彼らを異質な存在、あるいは人間的でない存在として認識しやすくなる。
その他にも、文化的背景や社会的な肩書き、経済的不安定、またメディアなどの影響で一般化された思い込みなど、複雑で多面的な要素が、他者化を引き起こす要素として考えられている。
他者化による弊害を無くす方法
人を個人として見るように心がける
人を所属するグループなどで判断せず、人はそれぞれにユニークで独自の歴史や経験を持ち、複雑な感情や思考、動機を持っていることを忘れないようにする。
無意識のバイアスに気づく
人は、過去の経験や環境、周囲の人々の影響などで、無意識のうちに刷り込まれた価値観の偏りを持っており、何気ない発言や行動として現れることがある。ただ、自身はたいしたことでないと思っていても、受け取る側にとっては差別的であったり、傷つけられたりしている可能性があることを知ることが重要だ。
正しい知識を持つ
他者化によってこれまで疎外されてきた集団や組織について、事実を正しく学ぶことが大切である。また、異なる集団間での類似点と相違点の双方を認めることや、人種的不平等が根強く残る背景、差別的とされる言葉の何が問題なのか、といった根本的な原因を知ろうという姿勢を持つようにしよう。
新しい人々に会い、ソーシャルサークルを広げる
人は自分と似たような人を求める傾向があるが、身近なグループや集団の外に目を向け、多様な背景を持つ人と交流することで、新たな価値観を持つことができる。社会心理学では「接触仮説」という理論があるが、これは異なる集団に属する人々が互いに時間を過ごすことで、対立や偏見を減らすことができるという考え方である。自分が認識している内集団と、いわゆる外集団とのギャップを埋め、ソーシャルサークルを広げていこう。
声を上げる
特定の人たちを疎外するような行動に対して、反対の声を上げないことは、同じような行動を取ることを容認することであり、差別や偏見を助長する。人は社会的に容認されていないことであれば、他者への偏見を持ちにくくなるので、差別や偏見につながる行動を見かけたら、声を上げていくことが大切だ。
アイデンティティは多次元的かつ交差的であることを意識する
人は、性別、ジェンダー、人種、宗教、志向、国籍などに基づいて、複数のグループに属している。これらのさまざまなアイデンティティが交差し、個人が形成されていることを認識し、それぞれのグループや多様性を理解し、優劣をつけたり、否定をしたりしないよう意識しよう。
まとめ
人間の脳は無意識に出会った人を分類する傾向があると言われている。また、意識的、無意識的にかかわらず、私たちの心に刻まれているカテゴリーの境界や社会的な意味はその行動や意思決定に影響を及ぼす。さらに集団化することで、その影響力は大きくなり、政治や社会の分断を生み出す。そして「ダイバーシティ(多様性)」といった一見、個性の違いを認める際に使われる言葉でさえも使い方や捉え方によっては、「私たち(Us)」と「多様性のある人たち(Them)」の間に見えない壁を作る危険性を孕んでいることを知っておく必要があるだろう。
英語で「Othering」の反対語は「Belonging」と言われる。日本語では帰属意識、つまり自分の居場所がここにあるという安心感や、相互信頼といった意味を持つ。他者化の弊害を無くすためには、まず相手に関心を持ち、思いやる想像力を持って接することで、「Belonging」な状況を作り出すことを心掛けてはどうだろうか?
【参照サイト】Harvard Business Reviw | Are Your Diversity Efforts Othering Underrepresented Groups?
【参照サイト】Othering and Belonging | The Problem of Othering: Towards Inclusiveness and Belonging
【参照サイト】CMHR | Us vs. Them: The process of othering
【参照サイト】MasterClass | Othering Definition: How to Combat Othering in Your Daily Life – 2024
【参照サイト】verywell mind | How Othering Contributes to Discrimination and Prejudice
【参照サイト】Oxford Reference | Othering
【参照サイト】Cambridge 英語辞書 | OTHERING







