インターセクショナリティとは

インターセクショナリティとは、人種、性別、階級、性的指向、性自認など複数の個人のアイデンティティが組み合わさることによって起こる様々な差別の現状に目を向け、マイノリティの中でもさらに焦点の当たりづらい差別を受けている当事者を可視化するための概念。

とりわけ、ブラック・ライブズ・マター（以下、BLM）運動およびフェミニズムにとって、重要な概念だとされている。

インターセクショナリティの発祥

「インターセクショナリティ」という言葉の発祥は、アメリカの法学博士であるキンバリー・クレンショーによる論文『人種と性の交差点を脱周縁化する：反差別の教義、フェミニスト理論、反人種差別主義政治に対するブラック・フェミニスト批評（1989年）』によって提唱された。

論文が発表された当時、フェミニズム運動の中心は、白人中産階級の女性による、伝統的な家庭内の性役割からの解放であった。クレンショーは同論文の中で、白人女性が中心となって発展しているフェミニズム運動が黒人女性の受けて来た差別の経験を置き去りにしていることを批判。白人中産階級の女性が受ける差別と黒人女性の受ける差別は、家庭内で女性が受ける扱いの文化的な違い、さらに黒人が男女ともに社会で受ける差別の問題から、全く種類の違うものであることを指摘した。

クレンショーは論文の中で、黒人同性愛女性の受ける差別を例に上げ、いくつもの要因が絡み合いながら、差別が個人に襲いかかることを明らかにした。彼女が受ける差別とは女性差別、黒人差別、同性愛差別など種類の違う差別がバラバラに存在し、それらが足し合わされたものではない。黒人同性愛女性として、固有の差別の様相を呈すのである。

インターセクショナリティはクレンショーが発明した概念ではなく、ブラック・フェミニスト（黒人のフェミニスト）として、差別を受けつづけた当事者でもある彼女が、それまでの多くのブラック・フェミニスト（アンジェラ・ディヴィスなど）たちの活動の歴史、思想の中から見つけ出し、黒人女性以外にも、あらゆる差別問題に適用するために開発した概念でもある。

インターセクショナリティの現在

インターセクショナリティは、第4波フェミニズムの中で再注目された。実は、2020年にBLM運動が大きく盛り上がるまでは、プライドなどのLGBTQ＋運動は白人中心で行われていたのだ。

しかし、現実の人種差別を無視した活動に疑問を持つ人々の中で批判意識が生まれたこと、今世紀最大の政治運動と言われるほど大きな動きとなったBLM運動に賛同する人々が増加したことで、人種差別運動にも目を向け、包括的に差別問題へ立ち向かうための活動となったのである。

インターセクショナリティの必要性

インターセクショナリティはなぜ必要なのか？それは、世界を見る視点を画一化しないためだ。わたしたちは自分が受けている差別を他の人も同様に受けていると思いがちだ。相手が自分と共通している要素（性別、出身地、人種、年齢、職種等）のうち一つでも共通点があるならば、「同じ経験をしているからわかってくれるだろう」という期待を相手に寄せてしまう。

しかし、 たとえ共通点の多くあるコミュニティであっても、人によって生きている環境は大きく違う。性別、収入、生まれ育った環境、家庭環境、通った学校、その他多くの「違うこと」によって、人間は成り立ち、社会は形成される。

日本国内には、メディアに映らず、あなた自身の目に違いが映らないだけで多種多様な人々が存在している。また、あなたの目に映っていない問題がたくさんあるだろう。

あなたの周りの環境や人々について考えてみよう。その時、インターセクショナリティの概念をぜひ使ってみてほしい。インターセクショナリティは、社会システムの歪みによって理不尽な差別を受けているものと、特権を享受するものがいることを教えてくれる道具なのだ。

きっと、あなた自身の持っている無自覚な思い込みを顕にし、自身が社会の中で享受していた特権について気づかせてくれるだろう。

【参照サイト】抄訳: キンバリー・クレンショー『人種と性の交差点を脱周縁化する：反差別の教義、フェミニスト理論、反人種差別主義政治に対するブラック・フェミニスト批評』（1989）　Murtipul Spirits
【参照サイト】「インターセクショナリティ」を理解することから始める、差別のない社会への第一歩。【コトバから考える社会とこれから】VOGUE
【参照サイト】フェミニズムに（も）「インターセクショナル」な視点が必要な理由。【VOGUEと学ぶフェミニズム Vol.5】VOGUE
【参照サイト】#BlackOutPride protest halts Chicago Pride Parade　Youtube
【参照サイト】LGBTQ用語解説　インターセクショナリティ　PRIDE JAPAN
【関連記事】Black Lives Matter（BLM）とは・意味

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