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移行リスク(トランジションリスク)とは・意味

気候変動

移行リスク(トランジションリスク)とは?

移行リスク(トランジションリスク)とは、低炭素社会への移行に際して生じる企業等の事業上および財務上のリスクである。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が2017年6月に公表した最終報告書のなかで、この移行リスクと自然災害や海面上昇等による物理リスクの二つを気候関連リスクと定めた。

移行リスクの種類

TCFDはさらに、移行リスクとして以下の4種類のリスクを挙げている。TCFDは、IEA(国際エネルギー機関)が毎年公表する「世界エネルギー見通し」などを用いたシナリオ分析を行い、短期・中期・長期の時間軸でこれらのリスクが企業におよぼす財務的な影響を開示することを推奨している。

    1. 政策・法規制のリスク
    炭素税導入や再生エネルギーの利用促進等の政策、環境関連法令等の施行による、既存の製品・サービスの売上高減少、法令違反による訴訟や罰金のリスク
    2. 技術のリスク
    再生エネルギー、蓄電池、CCS(炭素回収・貯留)など様々な分野で起きると予想される技術革新による、既存の技術や製品等の陳腐化リスク
    3. 市場のリスク
    低炭素社会への移行が進むに伴い生じる、特定の製品・サービスに対する顧客の需要や変化、原材料の高騰等によるコスト上昇などのリスク
    4. 評判上のリスク
    低炭素社会への移行に貢献していない、あるいは移行を阻害していると顧客や社会から認識されるリスク

注目されるエネルギー関連企業の座礁資産

さまざまな移行リスクの影響として注目されているのが、座礁資産(ストランデッド・アセット)だ。座礁資産とは、社会環境の変化により価値が大きく毀損する資産を意味するが、低炭素社会への移行により最も大きな影響を受けるのが、石炭、石油・ガスなどエネルギー関連企業の生産設備である。

英国オックスフォード大学が2016年5月に公表したレポートによると、日本の電力会社が全国に保有する石炭火力発電所がすべて座礁資産化した場合の損失額は、6兆8,570億円~8兆9,240億円に上るとされる。

会計基準の統一と情報開示義務化の動き

上場企業の株式に投資する機関投資家や、事業資金の貸し出しを行う銀行では、投資先ないしは融資先企業の企業価値を評価する際、座礁資産を独自に試算して意思決定に反映している。一方、各国の金融当局は、こうした気候関連リスクの影響を含むサステナビリティ会計基準の統一に向けた検討を進めると同時に、企業に情報開示を義務付ける動きが広がっている。

当面は情報開示を行う企業側も、投資家や金融機関側も手探りが続くだろうが、移行リスクを含む気候関連リスクの財務的影響に関する透明性向上が期待される。

  • 日本
  • 2022年4月の東京証券取引所の市場区分見直しによりプライム市場に上場する企業にはTCFDに基づく情報開示が義務付けられた。

  • 米国
  • 米国証券取引委員会(SEC)が、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく情報開示を上場企業等に義務づける規則案を2022年3月に公表し、早ければ2023年から実施される見通し。

  • EU
  • 「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」により加盟国に2023年から気候変動を含むさまざまなサステナビリティ関連情報の開示を義務付けるよう定めた。

【関連用語】 TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とは・意味
【関連記事】 生物多様性はなぜ大事?その必要性や世界の潮流を解説
【参照サイト】 Final Report (bbhub.io) TCFD最終報告書
【参照サイト】 TCFD Guidance 2_0_2.pdf (tcfd-consortium.jp) TCFDコンソーシアム
【参照サイト】 TCFD.pdf (env.go.jp) TCFD提言に沿った気候変動リスク・機会の シナリオ分析実践ガイド(銀行セクター向け)環境省
【参照サイト】 PowerPoint Presentation (kikonet.org) Stranded Assets and Thermal Coal in Japan(2016,Oxford)




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