サイレントクライシスとは・意味
サイレントクライシスとは?
サイレントクライシス(Silennt Cricis)とは、報道されず社会に知られないところで起きる人道危機のこと。日本語で「静かなる危機」を意味するサイレントクライシスは、人道危機に限らず、一般に認知されないところで起きる社会問題全般を指す言葉として使われる。
例えば報道されない難民問題、認知されづらい精神的な危機、コロナ禍の裏で起きる金融危機などだ。サイレントクライシスが意味する「危機」は事柄や文脈によって様々だが、ここでは主に南半球を中心に起きる報道されない人道危機をサイレントクライシスとして解説する。
報道されず静かに起きる人道危機
2022年2月に勃発したウクライナ戦争はメディアが多く報道していることから、現地で起こる人道危機についての認知度が高く、国際的な支援も集まっている。しかし世界ではウクライナ戦争以前から深刻な人道危機が続いているにも関わらず、報道されず世界にほとんど知られていない地域も多く存在する。
国連人道問題調整事務所(OCHA)が発表した「2022年世界人道概況」によると、2022年6月時点で世界では3億600万人もの人が支援を必要としており、そのためには6兆円以上が必要だという。
これはすでに過去最大であった2021年の2億3500万人を記録的に上回る数字で、こうした人道危機の多くが緊急度の低いニュースの裏で世界に認知されず進行している。
さらにコロナウイルス感染症などの影響も相まって、支援を必要とする人の数は日々増加しているのが現状だ。
サイレントクライシスの事例
こうしたサイレントクライシスは、とくに南半球の国々で多く起こっている。そしてその多くが、十分な報道をされていない。
世界食糧計画(WFP)によるとアフリカ北東部のエチオピア、ケニア、ソマリアでは2022年2月時点で1300万人以上が深刻な飢餓に直面しているという。3年連続雨季に雨が降らず、干ばつの影響により作物が打撃を受け、異常な数の家畜が死亡、水や牧草地なども不足しているためだ。
アフリカ以外の地域にも、世界にはさまざまなサイレントクライシスが存在している。
スリランカの食糧危機
スリランカは独立以来、深刻な経済危機に陥っており、それに伴う食糧危機が問題となっている。食料インフレや燃料不足、通貨の下落などのさまざまな原因から食料が不足し、約570万人が支援を必要としている。
イエメンの紛争に伴う食糧危機
イエメンでは2015年に内戦が勃発して以来、経済不安が続いている。それに伴い食糧危機が深刻化しており、飢餓に直面している16万1000人を含めた、1900万人が深刻な食料不足に陥っている。
それにもかかわらず、資金不足により一部の食料援助や衛生活動が削減される事態も起きており、追加支援がなければ45万人以上の栄養失調の子供が支援を受けられなくなる可能性もあるという。
ハイチの深刻な貧困と食料不安
ハイチは政治・経済的不安にコロナウイルス感染症や地震の影響が相まって、世界の中でも特に深刻な食料不安を抱えている。人口の45%に当たる450万人が緊急の食糧援助を必要としており、人口の60%が貧困ライン以下で生活しているという。
アフガニスタンの政治経済の混乱と干ばつ
アフガニスタンでは政治経済の混乱に加えて、過去27年で最悪の干ばつにより食糧危機が続いており、2400万人以上が緊急の支援を必要としている。武装勢力タリバンがアフガニスタンを制圧したことにより情勢が悪化し、児童労働や児童婚などのリスクも高まっている。
ミャンマーの政治不安による人道危機
ミャンマーでは2021年に起きた軍事クーデターにより、多くの人々が前例のない人権・人道の危機に直面している。コロナウイルス感染症の影響も加わって、現地では1,440万人が人道的支援を必要としている。
ベネズエラで貧困が深刻化
ベネズエラでは政治的混乱とハイパーインフレーションによる経済危機で、国民が深刻な貧困に陥っている。2015年末以降、約600万人が国外への避難を余儀なくされており、これはシリアに続いて2番目に多い数字だ。しかし紛争などが原因ではなく生活苦による避難と見なされ、避難先で必要な社会的支援を受けられない人も多くいる。
また、上記にあげた国以外にもザンビア、マラウィ、グアテマラ、コロンビア、ブルンジなどアフリカや中南米のあらゆる国で深刻な人道危機が起きている。
サイレントクライシスの問題点
こうしたサイレントクライシスの最大の問題点は、向けられるべき世界の関心がほかの緊急度の低い問題に向いてしまうことにより、必要な支援・対策が行き届かないことだ。
サイレントクライシスが起こる多くの国は政治経済の混乱など社会に根深い問題を抱えており、継続的な支援と、そのための多くの資金を必要としている。
しかし、報道されず世界の人々に意識されなければ、必要な資金も人手も集まらず、各国政府の方針によっては必要な国際援助の予算が削減されてしまうこともある。そうなると援助に優先順位をつけざるを得なくなるほか、貧困や食糧危機、人権侵害といった人道的問題が長期化してしまう。
また、気候変動がこうした人道危機を引き起こしている場合、世界に認識されなければ、必要な対策がなされないまま環境問題が深刻化してしまう可能性もある。
サイレントクライシスの今後
サイレントクライシスの問題を解決する上で大切なことは、まず報道機関が世界各地の人道危機を偏りなく把握・報道し、人々に広く認知させることだ。
世界のどの国でも、自国に関わりの少ない場所で起きる問題は報道されにくく、報道される地域の偏りも大きい。日本の報道は欧米に比べてその傾向がさらに強く、国際報道の量自体も十分でないのが現状だ。
これからサイレントクライシスを少しでも減らしていくには、報道のあり方そのものを見直し、国家間の立場にかかわらず世界で起こる出来事を幅広く伝えていく必要がある。
また、私たち個人も報道されないサイレントクライシスが存在することを認識し、必要な支援を届けるための情報を求めていかなければならない。現地で起きている危機そのものに限らず、日頃から南半球の国々の政治や経済に関心を持つことも大切だ。
【参照サイト】Global Humanitarian Overview 2022|OCHA
【参照サイト】数字で見る難民情勢(2021年)|UNHCR
【参照サイト】2021年度 最も報道されなかった10の人道危機|公益財団法人 ケア・インターナショナル ジャパン
【参照サイト】ウクライナ戦争だけでない、世界の人道危機|alterna
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あ行
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