アファーマティブ・アクションとは・意味
アファーマティブ・アクションとは?
歴史的・構造的に不利な立場に置かれてきた人々(黒人、少数派民族、女性など)に対し、格差を是正する目的で一定の優遇措置を講じ、機会均等の実現を目指すこと。日本語では「積極的格差是正措置」などと訳される。
似た意味の言葉に「ポジティブアクション」があり、日本やヨーロッパでは主に、男女間の格差を無くし、均等な機会を与える取り組みを指すことが多い。
アファーマティブ・アクションが生まれた背景
アファーマティブ・アクションという言葉は、1961年に雇用機会均等委員会を設立したジョン・F・ケネディ大統領が署名した大統領令の中で使われたことで世の中に広まった。
その中で連邦政府の請負業者に対し「応募者を雇用し、雇用中の従業員を人種、信条、肌の色、国籍に関係なく扱うことを確実にするために、積極的な行動(affirmative action)を取る」ことを求めた。
さらに、1964年には「公民権法」が成立し、その翌年リンドン・B・ジョンソン大統領が署名した大統領令によって、差別禁止条項がより具体的かつ広範に規定された。
その後、1972年に「雇用機会均等法」が制定され、人種だけでなく性別による差別の禁止や、教育機会の重要性などにも目が向けられるようになった。こうした背景の中、女性の雇用差別問題を解消する取り組みが行われ、また大学入試においても少数派の人々に対して優遇措置が講じられるようになった。
アファーマティブ・アクションの代表的な手法
クォータ制
組織の中で、性別等を基準に一定の人数や比率を割り当てる制度。2020年の時点で世界の118の国と地域で、政治分野における性別によるクォータ制が国政レベルで導入されている。憲法や法律によって議席数や候補者を割り当てる国もあるが、女性議員の数が47%と高い割合を誇るスウェーデンでは、法による強制的な是正措置ではなく、政党による自発的な取り組みによってこれを実現している。企業などで、役員や管理職など役職ごとに一定の女性比率の数値目標を設定し、人員配置を行うこともクォータ制と言える。
ゴール・アンド・タイムテーブル方式
達成すべき目標と達成までの期間の目安を示し、強制ではなく、あくまで目標として掲げながら機会均等の実現に努力する手法。例えば、日本で2003年に男女共同参画推進本部によって決定された「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する。」という目標はこれにあたる。しかし、2020年までにこの数字は達成されず、目標は2030年まで先送りされた。
アファーマティブ・アクションが引き起こす問題
アファーマティブ・アクションは差別や不平等をなくし、様々な立場の人にとって暮らしやすい社会の実現を目指すための取り組みである。一方で、いわゆる多数派と言われる人々(白人、男性など)が入学や就職できないケースが発生し逆差別を生んだり、差別を助長したりするのではないかという意見もある。他にも、試験の合格や昇進などがアファーマティブ・アクションによるものか、個人の資質によるものかという基準が見えづらく、性別や人種などによるものではない個人の本来の能力が評価されにくい、という点も問題視されている。
また、アメリカでは導入間もないころから、「公正さ」をめぐりアファーマティブ・アクションは合憲か違憲かという議論が司法の場で繰り返されてきた歴史がある。いくつかの判決ではその運用の方法や基準などに対し違憲とされたものもあるが、これまで概ねアファーマティブ・アクション自体は合憲であると認められていた。
しかし、近年アファーマティブ・アクションの存在を揺るがす動きが起こった。2014年にNPO「SFFA(公平な入学選考を求める学生たち)」がアメリカのハーバード大学に対し訴えを起こした。入学選考において黒人やヒスパニック系の人々が優遇され、比較的成績が優秀とされているアジア系の学生が差別されているとし、公民権法や憲法修正第14条に反すると主張したのだ。
2019年には、連邦地裁と連邦控訴裁共に、大学側が入学選考で人種を考慮に入れるのは適切だとして、SFFA側の主張を退けた。だが最高裁が上告を受理し、審理が継続されることになり、2022年10月に開かれた口頭弁論で、保守派の判事の多くがアファーマティブアクションの継続に懐疑的な見方を示した。そして2023年6月、連邦最高裁判所がアファーマティブ・アクションを憲法違反と判断したのだ。
このように、現在アファーマティブ・アクションは大学の入学選考において逆風にさらされており、こうした動きが企業の採用活動にも影響することが懸念されている。
まとめ
アファーマティブ・アクションは、人々の間の格差をなくし、平等な機会を提供するために始められたものだ。だが、本来であれば、アファーマティブ・アクション自体が必要のない世の中が、本当の意味で公平な社会なのかもしれない。多様性が叫ばれる現代において、それぞれの立場の人々が差別を感じることなく、輝ける社会を実現するために、いま一度課題と未来について考えることが求められているのではないだろうか。
【参照サイト】The New York Times | What Is the History Behind Affirmative Action?
【参照サイト】The Economist | What is affirmative action?
【参照サイト】男女共同参画局 | 諸外国における政治分野の男女共同参画のための取組
【参照サイト】男女共同参画局 | ポジティブ・アクション
【参照サイト】Yahoo!ニュース | 「公正さ」とは何か:アメリカのアファーマティブ・アクションをめぐる論争
【参照サイト】週刊エコノミスト Online | 日本人の知らないアメリカ:ハーバードは「人種差別」をしているのか㊤ 黒人に大学への道を開いたアファーマティブ・アクション
【参照サイト】日本経済新聞 | 米最高裁、入学選考の人種考慮を審理 アジア系差別焦点
【参照サイト】米国大学入学選考時のアファーマティブ・アクションの禁止とその影響
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