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白人の脆弱性(White Fragility)とは・意味

白人の脆弱性

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白人の脆弱性(White Fragility)とは?

白人が人種問題について議論したり、差別について指摘されたりした時に、不快感、罪悪感を感じうまく向き合えず自己防衛的な行動や反応をとること。アメリカの社会学者であるロビン・ディアンジェロが2011年に提唱した概念で、2018年には同タイトルの本「White Fragility : Why It’s So Hard for White People to Talk about Racism(私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?)」を執筆している。

この本は、2020年5月にアメリカ・ミネソタ州ミネアポリスでアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドが白人警官に殺害された事件をきっかけに人種差別抗議運動Black Lives Matterが再燃したことで注目され、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに97週にわたってランクインした。彼女は同書の中で、この白人の脆弱性(White Fragility)が、より深い対話や理解を妨げ、結局は差別構造を維持することにつながっていると指摘している。

ちなみに、ディアンジェロ氏自身は白人女性であるが、白人性に関する研究を続け、20年以上にわたり、学校や非営利団体、企業向けに人種問題や社会正義に関するトレーニングを実施している。

白人の脆弱性(White Fragility)が生まれる背景と特徴

ディアンジェロ氏によると、白人は生まれながらにして政治や司法、教育など特権に守られていることが多いが、特にエリート層、リベラル層の白人においてそれを認識している人は少ないという。奴隷制や植民地支配などの歴史の中で構造的差別が生まれたが、一般的に特権を持つとされている人種的マジョリティである白人の人たちは、自身がそうした境遇にあるということに気づいていないことが多い。

そのため、無意識に行っていることが、マイノリティの人々に対する差別(例えば「flesh-toned(肌色)」のクレヨンがベージュであることなど)ではないかと指摘されると、動揺したり怒ったりし、「人種差別は一部の不道徳な個人による行い」とし、自分たちの問題とは考えようとしない傾向がある。

その特徴は、非難されることに慣れておらず議論をすることを避ける、自分が今の地位にあるのは人種や性別ではなく個人の努力によるものだと考える、といった構造的差別を見ないふりや、反人種差別主義であるふりをするなど、問題に向き合えない弱さを隠すための自己防衛的なものであるとしている。

白人の脆弱性(White Fragility)に向き合う必要性

さらに彼女は、自分はレイシスト(人種差別主義者)ではないと思っているような人々の無自覚な偏見や社会システムに根づいた不平等が、無意識のうちに人種差別を維持・助長していると主張する。白人以外の人々は欧米社会において、自分の人種を意識せざるを得ない状況下に置かれることが多いが、白人は自分たちを人種とみなさず世の中のデフォルトとして行動する。

こうした振る舞いによって問題の本質が見えにくくなり、根本的な解決につながっていないことを懸念している。まずは白人の人々が自身の脆弱性(White Fragility)を自覚することが必要とされている。

克服するためのアプローチ

では、白人の脆弱性(White Fragility)に対しては、どのように対処し、改善につなげるのが良いのだろうか?個人的、社会的のそれぞれのレベルにおいてのアプローチが考えられる。

個人的アプローチ

  • さまざまな視点で書かれた人種差別やWhite Privilegeと言われる白人の特権に関する本や記事を読み理解を深める
  • 自分の言葉や行動を振り返り内省する時間を持つ
  • 差別される側の声に耳を傾けたり共感をする

社会的アプローチ

  • 歴史背景や構造的差別、レイシズムなどについて正しい教育やトレーニングを行う
  • 人種の多様性を考慮し、機会格差をなくすといった構造的な改革につながる政策をの実施する
  • 異なるバックグラウンドを持つ人々が安心して話し合える場を設けるなどオープンな対話をの促進する

個人レベルでの内省や行動が、社会レベルでの構造的変化につながるような環境や仕組みづくりが求められる。

白人の脆弱性(White Fragility)に対する批判や議論

ディアンジェロ氏の講演や多様性のトレーニングは多くの企業などから依頼がある一方で、彼女のアプローチやその効果については批判や疑問の声も上がっている。個人レベルの議論に偏っていて実質的な社会変革につながらない、むしろ白人の罪悪感を増幅させている、白人と黒人の関係性として単純化されておりその他の人種について触れられていないといった意見などがその例だ。

まとめ

長い歴史の中で生まれた構造的な差別は簡単に解消されるものではなく、また多様な意見が存在する。そうした中、ディアンジェロ氏が投げかけた「白人の脆弱性(White Fragility)」に対する考え方は、対話を生むひとつのきっかけとなっている。

差別の問題は明らかなレイシストによるものだけではなく、社会全体の構造に関わるもので、私たちの誰もが責任を持つ必要がある。一人ひとりが差別のある社会を維持している無意識の行動や態度に気づき、より公正で平等な未来に向けて歩みをともに進めていかなければならないだろう。

【関連記事】Black Lives Matterとは・意味
【関連記事】ホワイトギルトとは・意味
【参照サイト】The New Yorker | A Sociologist Examines the “White Fragility” That Prevents White Americans from Confronting Racism
【参照サイト】CNN | Robin DiAngelo: How ‘white fragility’ supports racism and how whites can stop it
【参照サイト】The New York Times | ‘White Fragility’ Is Everywhere. But Does Antiracism Training Work?
【参照サイト】朝日新聞GLOBE+ | ブラック・ライブズ・マターの時代 差別する側の「弱さ」にも眼を向ける
【参照サイト】書評:ロビン・ディアンジェロ(著) 貴堂嘉之(監修)上田勢子(翻訳) 『ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』
【参照サイト】じんぶん堂 | 日本人はなぜレイシズム(人種差別主義)に向き合えないのか?――『ホワイト・フラジリティ』の射程
【参照サイト】 ダイヤモンド・オンライン | “白人は「生まれる前から」レイシスト”。リベラルな白人こそが差別の元凶という過激な主張の真意とは? | 日々刻々 橘玲




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