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文化相対主義とは・意味

文化

文化相対主義とは?

文化相対主義(Cultural Relativism)は、すべての文化は対等であり、外から見た価値観によって優劣をつけられるもののではないという思想である。

ある文化で正しいとされることが、別の文化では間違っているとされることがある。文化相対主義はある文化が他の文化より優れているということはなく、単に異なるだけだということを意味する。

この「文化の優劣をつけない」と言う概念自体は、アメリカの文化人類学者フランツ・ボアズによって提唱されたが、「文化相対主義」という言葉自体が直接的に使ったのは、1948年に発刊されたAmerican Anthropologist誌(執筆者はジュリアン・スチュワート)である。

文化相対主義の具体例

文化相対主義の観点から異なる文化や社会について考えるとき、重要なのは以下の2点である。

  • 何が正しいか間違っているかという自分たちの基準で、文化を判断しないこと
  • 異なる文化的慣習を、その文化的文脈の中で理解しようとすること

教育系非営利団体「カーンアカデミー」は、食べ物の慣習を例に文化相対主義について紹介している。メキシコでは、オアハカの郷土料理に「チャプリネス」と呼ばれるバッタを使った揚げ物が食べられている。

日本でも長野県などの山間部を中心にイナゴを佃煮にした料理が親しまれている。カーンアカデミーは文化相対主義を解説する中で、文化相対主義でこれらの慣習を捉える場合には「コオロギの唐揚げは気持ち悪い」「なぜ、コオロギの唐揚げは美味しいのか」と考えるのではなく、「なぜこの地域では昆虫のフライを食べる文化があるのか」と問うべきだ、と述べている。

ほかにも、一夫多妻制という慣習もまた文化によって捉え方が異なる。頻繁に移動する牧民の間では、複数の妻を持つことは経済的に理にかなっているのかもしれない。このような理解によって、一夫多妻制は文化的に意味を持つ。

文化相対主義のジレンマ

文化相対主義は時にジレンマを抱えることがある。「カーンアカデミー」では文化相対主義のジレンマの例として、捕鯨行為を挙げている。

多くの国や国際機関が、環境保護や動物福祉を理由に捕鯨行為に反対している。反対する側は鯨の絶滅を危惧し、そのような漁法は止めるべきだと主張する。一方で、他の国々は、捕鯨は何千年も続いている文化的行為であると主張する。文化の違いを理由に、他の国の文化的慣習が反対されるべきではないと主張するかもしれない。二つの異なる文化が、まったく異なる答えを出すことが考えられるのだ。

また文化相対主義は、道徳的な問題も抱えている。

「嬰児(えいじ)殺し」の文化を例に挙げよう。古代ギリシアの都市国家スパルタでは、奇形児は生まれてすぐに殺されることになっていた。文化とはいえ、経済的、宗教的な理由など、さまざまな理由から生まれて間もない赤ん坊を殺してしまうことは、現代の価値観からすると正当化できるとはいえない。けれど文化相対主義の観点からは、その慣行は現に受け入れられていることとして捉えられる。そのため、文化なのだから正当化できる、となる。

一部の国や地域で行われている「女性器切除」についても同様で、地元では文化的慣習であると主張されているが、多くの国際人権団体の間では女性に対する人権侵害であり、心身にも有害な影響を及ぼすとして懸念を呼んでいる。

文化相対主義と対をなす「自文化中心主義」と、文化相対主義と異なる「普遍主義」

文化相対主義と対をなす概念に「自文化中心主義」がある。自文化中心主義とは、自分の育ってきた民族、人種の文化を基準として他の文化を否定的に判断したり、低く評価したりする態度や姿勢のことをいう。

自分の持っている常識が普遍的に優れており、他の文化は劣っていると考える自文化中心主義は、度々レイシズムや外国人嫌悪などの問題と関連づけられる。自文化や自民族が優位であるという意識を伴った自文化中心主義の例として、過去のナチスドイツによるユダヤ人の迫害があげられる。

「普遍主義」もまた、文化相対主義とは異なる考え方である。普遍主義は「個別のものよりも、多くの、あるいはすべてのものに共通する事柄を尊重する立場」を意味する(出典:小学館 デジタル大辞泉)。

普遍主義の問題といえば、フランスにおけるイスラム教徒の女性が着用するブルカやニカブを巡る論争が挙げられる。フランスでは2011年にブルカやニカブなど、顔のすべてを覆うベールを公共の場で着用することを禁じる法律が施行された。

フランスは共和国原理として普遍主義を掲げている。フランスの普遍主義は文化、人種、宗教、民族、性によって区別されることなく、法のもとで市民の平等を保障する立場をとる。その一方で、少数派、特に民族や人種を取り上げると社会に分断を生むとされ、人々に文化的同化を唱えている。すなわち、公的空間では文化的な差異を認めていないことになる。

ブルカ着用を禁じる理由には、女性への差別解消、男女平等などが挙げられているが、女性たちは必ずしも強いられてブルカを着用しているわけではない。

そもそも普遍主義は、どの文化・価値観が普遍なのかという難しい問題を抱えている。仮にある文化を普遍の基準として定めたとしても、基準から外れた他の文化について否定的に判断したり、低く評価したりすれば、それは自文化中心主義に近づき、レイシズムなどの新たな問題を生み出す可能性もある。

異なる文化を知り、受け入れる姿勢を持つために

文化相対主義の考え方は時にジレンマに陥り、道徳面においては問題点を抱えている。

だが「すべての文化は対等で、優劣で比べるものではない」という思想は、異なる文化に出会ったとき、広い心でその文化を受け入れる姿勢を持たせてくれるはずだし、新しい価値観に出会えた喜びを与えてくれるだろう。

【参照サイト】Cultural relativism: definition & examples (article) | Khan Academy
【参照サイト】Cultural Relativism | Definition & Examples – Simply Psychology
【参照サイト】文化相対主義 – Center for Design Fundamentals Research, Kyushu University
【参照サイト】What is Cultural Relativism? – PHI220 Ethics and Society.
【参照サイト】The Problems with French Universalism – The Sundial Press
【参照サイト】普遍性の原理と移民 ―― フランスとヨーロッパの現在
【参考文献】ルイス・E・ナヴィア著、富松保文訳『哲学の冒険』(武蔵野美術大学出版局、2002年)




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