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リジェネラティブ・アーバニズム(環境再生型都市)とは・意味

アーバニズム

リジェネラティブ・アーバニズムとは?

リジェネラティブ・アーバニズム(環境再生型都市)は、自然環境を修復・改善しながら、自然のシステムと共に私たちが生きられる都市をデザインすること。「環境負荷をなるべく減らす(マイナスをゼロに近づける)」従来の“サステナブル”な都市計画とは違い、むしろ積極的に自然環境を再生させていくことを目指す。

都市研究の科学分野の学術雑誌CIDADESに掲載された論文によると、リジェネラティブ・アーバニズムはより挑戦的で新しい文明の先駆的な取り組みであり、下記のような内容が含まれるという。

  • 建物と輸送機関は電化され、電源は再生可能エネルギーである
  • 移動手段は音がせず、空気を汚染せず、大抵無料である
  • 市内と近郊では、天然ガスやディーゼル、石油、ガソリンを燃やすことが禁止されている
  • 食べ物は、市内や近郊で多様性に富んだ都市農業コミュニティによって作られ、供給される
  • 空き地を作るために住宅は集約され、都市は森林のようになる
  • 造園されたテラスや路上の分離帯は、鳥類やポリネーター(花粉媒介者)にとっての「サンクチュアリ(=聖域)」になる
  • 地元や地方でつくられた食べ物や衣類が、差し支えない程度に、遠方で製造されたものに取って代わる
  • 車道や駐車場は、住宅や公園、庭園、レクレーションの場になる
  • 都市は車のものではなく、人間や動物、小川が横切れるように設計される
  • どの自治体にも、食べ物や産業廃棄物の堆肥化を行う施設があり、廃棄物ゼロである
  • インフラは破壊的な気象現象に対応できるようになり、レジリエンスがより高い状態になる

などの内容が含まれている。これは幻想のように聞こえることだろうか?しかし、考えてもみれば、都市は文明の誕生の地であり、このような取り組みは世界中の都市で生まれ、実践されている。このような都市が、新しい文明の先駆者として必要とされている。

循環のループの系、解放系か閉鎖系か

近年サーキュラーエコノミー(循環経済)という概念が注目を浴びているなか、Ecological Memes発起人の小林泰紘は、「知見にふれる、未来がひらく」をコンセプトとしたWebメディアにて、次のようなことを述べている。

サーキュラーエコノミーでは「クローズドループ(閉ループ)」と呼び、マテリアルレベルでデザイン・トラッキングし、資源を使い捨てることなく循環させていくことが基本作法となっており、これは環境負荷の軽減という観点で重要であると同時に、今のところ多くの活動は人間の経済のなかでの循環に主眼が置かれているのである。

しかし、当然ながら人間の暮らしや生産活動は、食糧や資源の供給や生息環境の提供などさまざまな自然環境の恵み(生態系サービスと呼ばれる)を享受し、多分に依存しており、これまでの都市における循環や流通というのは、人の世界に閉じており、地球環境に対しては一方通行(搾取的)だった。

言い換えると、自然環境から資源を享受し、取り込むことはあっても、自然環境とともに繁栄し、生命多様性を高めていくような視点やメカニズムを上手く組み込めてこなかったのだ。

THINK ABOUT – 社会の変化を牽引するリ・ジェネラティブな都市の在り方 より

このように、循環経済や循環型社会を考えるにしても、それを人間社会に閉じた「閉鎖系」として考えるのではなく、外界とのつながり、自然界とのつながり、地球の生命生態系の一部として人を捉える「解放系」としての都市づくりを考えていく必要がある。

GIVE SPACE という考え方

リジェネラティブ・アーバニズムにおいてもう一つ大切な考え方が、「GIVE SPACE」というものだ。この考え方は、実際に都市計画を行うときに、どのような価値観に基づいて行うのかの指針を与えてくれるものだ。ベルリン在住のエコロジカルアーティストの井口奈保さんを過去に取材したときに出てきた。

ベルリン在住のアーティストに聞く、人間と動物のちょうどいい距離感とは?【ウェルビーイング特集 #10 再生】

井口さんによれば、私たちが今生きている社会は他の生き物たちの社会と切り離されたものだという。ここ数百年間は、私たちが作り上げた幻想によって社会・経済・政治システムが構築されてきたが、地球環境や人間社会に綻びが生じている。人類は、他の生きものや、他の人間に「スペースを明け渡す」能力を失ってしまったというのだ。

そこで彼女は、人間という動物の役割が、他の生き物たちに土地を返していくこと、生息地を守っていくことであると考え、GIVE SPACEの概念と実践を広めている。

「GIVE SPACE」 は、建造環境作り方を物理的に変えることで他の生き物に生息地を返すだけでなく、人間同士が日々のコミュニケーションを通じて、メンタルや感情の間(スペース)を譲り合うことを学びぶものだ。さらに、一人一人の内にある己とつながるスペースを培う技を身につけることによって、当たり前に享受している環境の重要さに気づき、慈愛を育めるようになることを狙いとしている。物理的なスペースだけでなく、内的な精神的なスペースも扱うことから、全体的で包括的なアプローチを目指す。

東日本大震災から学ぶこと、災害から生まれる都市の物語

東日本大震災を機に開催された第3回国連防災世界会議(2015年)で採択された「仙台防災枠組2015-2030」では、災害に対応できる社会を一つの目指す姿としている。そのなかで、UCLA xLABとIRIDeSが中心となって動く国際共同プロジェクトが「リジェネラティブ・アーバニズム展ー災害から生まれる都市の物語」という展覧会を企画。2022年4月に、東京で開催された。

彼らは、リジェネラティブ・アーバニズムをこのように定義している。

リジェネラティブ・アーバニズムは、気候変動に伴い急増する災害の脅威によって生み出された都市デザインの新しいパラダイムです。

このパラダイムは、現状維持や現状復帰を基本とした従来の防御的な災害対策ではなく、回復力(レジリエンス)をテーマとする都市開発の新たなアプローチを求めています。 自然との軋轢が引き起こす災害のリスクを受け入れ、安全に対処する柔軟な構造を構築するだけでなく、さらに重要なこととして、日常においてもより多様で、豊かな環境形成につながる革新的な防災システムが、ソフトとハードの両面において必要なのです。

リジェネラティブ・アーバニズムは、適応性、柔軟性、突然変異、共生の思想をその手法と技術に組み込むことで、より公正で強固で調和のとれた市民社会の実現を目指す、緩和的で先見的な都市のデザイン戦略なのです。

展示室に配置した井戸のなかには、沿岸部の低地、乾燥した砂漠、強風が吹く森林地帯など、それぞれ異なる気候や地理的条件下に置かれた架空の都市群に、様々な災害のシナリオが投影されており、その内容は主に7つの都市に分けられる。

  1.  水成都市 水の循環と一体化し洪水や干ばつと共存する。
  2.  群島都市 集中から分散へと進化した防災都市ネットワーク
  3.  時制都市 「時間」をテーマに構築された都市存続のシナリオ
  4.  火成都市 境界のデザインが森林火災と都市生活に均衡をもたらす
  5. 共生都市 人間と動植物が共同で作り上げる都市生命体
  6. 遊牧都市 自然現象の変化に応答するレジリエントな都市生活
  7. 対話都市 災害に抗する対話と協働は格差をも是正する

東日本大震災を経験し、気候変動が進み、ますますレジリエンスが求められる今。人間と自然と再びつなげるリジェネラティブ・アーバニズムの考え方から学ぶことは多い。

【関連記事】ベルリン在住のアーティストに聞く、人間と動物のちょうどいい距離感とは?【ウェルビーイング特集#10再生】
【関連記事】サーキュラーエコノミーとは・意味
【参照サイト】都市研究の科学分野の学術雑誌CIDADES
【参照サイト】Towards a necessary regenerative urban planning
【参照サイト】Ecological Memes「ポスト人間中心時代の暮らし、空間作り、アーバンデザインに挑戦する4ヶ月 GIVE SPACE 実践者コミュニティプログラム#1」レポート
【参照サイト】「リジェネラティブ・アーバニズム展ー災害から生まれる都市の物語」
【参照文献】リジェネレーション〈再生〉 気候危機を今の世代で終わらせる




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