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ゼノフォビア(Xenophobia)とは・意味

ゼノフォビア

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ゼノフォビア(Xenophobia)とは?

外国人や異民族など、異なる国籍や文化に対する強い不信感や恐怖からその人や集団を嫌悪、排斥すること。移民排斥や外国人差別の原因となり、ヘイトクライムにつながることもある。ギリシャ語のxeno-(外国人、見知らぬ人)とphobos(恐怖)に由来する。日本語では外国人嫌悪、外国人恐怖症などと言われることが多い。

古くから世界各国でこうした気質や考え方は存在したが、2016年にイギリスがEU(欧州連合)から離脱を表明したことや、同年に当時のアメリカのオバマ大統領がドナルド・トランプ氏の発言に対しこの言葉を用いたことなどで注目度が高まった。2024年には、当時のアメリカのバイデン大統領が「ゼノフォビア(外国人嫌悪)」が経済成長の妨げになっていると発言し、移民の受け入れが米国経済にとって重要であると述べた。この発言は、日本や他の国々における外国人に対する態度にも影響を与えたと言われている。

ゼノフォビアの例

ゼノフォビアと一言で言っても、その背景や事例などはさまざまである。ここではいくつか例を紹介する。

移民に対する嫌悪や恐怖

欧米諸国や、南アフリカなど移民を多く受け入れている国では、自国民の雇用機会などが移民に奪われるといった思想が生まれ、その不満がゼノフォビアにつながることがある。また、それがエスカレートするとヘイトクライム(人種、宗教、性的指向を理由とする偏見や差別などが原因で起こる犯罪)に発展することもある。南アフリカでは2008年と2015年に、近隣諸国であるモザンビーク、ジンバブエなどからの移民を襲撃する事件が多発した。また、ドイツでは戦後の労働者不足を補うために一時的に受け入れるはずだったトルコ人の多くがそのまま定住しており、不況で失業率が高まると一部のトルコ人労働者が偏見や攻撃の的となることがある。

治安や犯罪の懸念

一部の国では、移民や難民の人々が犯罪を起こしたり、治安を悪化させたりしているという風評などからゼノフォビアが発生することがある。日本で起きているクルド人に対するヘイトや、アメリカでトランプ氏が「不法滞在者を大量強制送還する」と主張していたことなどは、そうした考え方が背景にあると考えられる。

コロナウイルス

2019年の終わり頃から新型コロナウイルスが流行した際、このウイルスが中国から広まったことを理由に、欧米諸国を中心に「中国ウイルス」「武漢ウイルス」といった呼び方がされるようになった。そのことから、中国やアジア人に対する嫌悪が広がり、アジア人に対する暴動や暴言などのヘイトクライムやヘイトスピーチが各地で起こった。

日本におけるゼノフォビア

日本においてもゼノフォビアによる問題はさまざまな場面で起こっている。

技能実習生に対する人権侵害

日本では、外国人技能実習制度の下で働く労働者が厳しい労働環境に置かれるケースが指摘されている。2023年の調査では、実習生のうち約40%が不適切な待遇を受けていると報告された。就労先や住居など自由な選択ができないということや、以前は妊娠・出産や労働組合への加入は禁止など、人権侵害に関わるようなルールも実際に存在していた。また、低賃金労働やパワハラ、セクハラなども問題になっているが、それらを訴えると実質在留資格を失って帰国せざるを得ないような状況になり、声を上げるのが難しいといった差別的な状況が恒常的に発生している。

警察による外国人への偏見

2020年、愛知県警察の内部資料に「外国人は必ず何らかの不法行為がある」との記述が発覚し、大きな批判を呼んだ。この資料は、外国人に対する警察の取締り方針を示したものであり、一部の警察官の意識にゼノフォビア(外国人嫌悪)が根強く残っていることを示唆。特に、日本では「治安維持」を理由に外国人を必要以上に監視するケースが指摘されており、この問題は国際的な人権団体からも懸念されている。

例えば、都内では外国人が不当に職務質問を受けるケースが多く報告されており、2023年には東京の警察署が「外国人は犯罪を犯しやすい」という認識をもとに、特定の国籍の人々を重点的に職務質問していたことが判明した。これも、ゼノフォビアが制度的に根付いている一例であり、社会的な議論を巻き起こした。

新宿御苑での外国人に対する不当な無料入園処置

2018年、新宿御苑の元職員が外国人に怒鳴られたことがトラウマとなり、「外国人が怖い」という理由で外国人観光客に入園料を請求せず、約2500万円以上の損失を出していたことが発覚した。このケースは、個人レベルのゼノフォビアが実際の業務判断に影響を及ぼした例として注目された。被害総額は少なくとも2,500万円にも上ったという。多言語の案内文を掲示する、通訳を派遣するなどの対応も考えられたと思うが、この元職員が一方的にコミュニケーションを断絶したという点においてゼノフォビアと考えられる。

まとめ

日本でも、今後、高齢化社会に伴う人材不足で外国人労働者の受け入れや、インバウンドの拡大など身近に外国の人々が増えることが予想される。また、世界的にもSDGsの10-2に「2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる」という目標が掲げられている。さまざまな軋轢を生むゼノフォビアをなくすために国連や国レベルで法律や制度の改善や教育などの取り組みも行われている。

それでは私たち一人ひとりは何ができるだろうか。ゼノフォビアは相手に対する知識を持たず、またこちらのことも相手に伝えないというコミュニケーションの回避によって起こりうる。ゼノフォビアを克服するためには、他者への理解と寛容さを育み、互いの違いを尊重する姿勢を身につけることが求められる。

【参照サイト】CNN.co.jp | 今年の単語は「外国人嫌悪」、世相を反映 英語辞書サイト
【参照サイト】朝日新聞GLOBE+ | 外国人労働者が不満のはけ口に 襲撃事件が相次いだ南アフリカから日本が学ぶ教訓
【参照サイト】朝日新聞GLOBE+ | 不法移民1100万人を抱えるアメリカ トランプ氏が掲げた公約「大量強制送還」の現実味
【参照サイト】朝日新聞GLOBE+ | 技能実習制度の廃止を訴える指宿昭一氏「ゼノフォビア(外国人嫌悪)の根源は政府」
【参照サイト】BBCニュース |「外国人が怖くて」入園料ただに、新宿御苑の元職員 2500万円相当
【参照サイト】日本文教出版 | 外国人の人権と教育(その3) ゼノフォビアとしての外国人差別|学び!と人権|まなびと|Webマガジン
【参照サイト】日本経済新聞 | エジル氏の悲劇なぜ? 独トルコ系、翻弄の半世紀 ベルリン支局 石川潤
【参照サイト】nippon.com | 埼玉・在日クルド人の今―暴走する「ヘイト」は止まらないのか
【参照サイト】UNHCR | UNHCR Guidance on Racism and Xenophobia




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