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脱未来(デフューチャリング)とは・意味

脱未来

脱未来(デフューチャリング)とは?

脱未来(デフューチャリング、Defuturing)とは、存在しうる持続可能な未来を否定し、人間の未来の可能性を高めるのではなく低下させる活動やプロセス、製品などを表す概念である。これは、デザイン理論家のトニー・フライが提唱した造語だ。

デフューチャリング(Defuturing)という言葉は、接頭辞「de- (〜から離れて)」と名詞「future(未来)」 が動詞化したものから成り立つ。トニー・フライは脱未来という言葉を用いて、「人間の行動と未来は予測不可能である」という一定の理解のもと、自分たちの決断が未来に及ぼす影響を考えずに行動することで、かえって人類の持続可能な未来が制限されることを表した。

デザインから見る脱未来

トニー・フライは著作『Defuturing: A New Design Philosophy』(1999年)で、大量生産と大量消費という経済原理に根ざした伝統的なデザインが非持続的であることへの危機感を訴える。

例としてあげられるのが1913年にヘンリー・フォードが効率的な自動車生産のために導入した「フォードシステム」である。フォードシステムは、自動車生産用にベルトコンベヤーを採用し、大量生産を可能にした生産方法だ。作業者が行う仕事が細かく分けられ、自動車の部品が生産ラインに沿って流れていき、順番に組み立てられて製品が完成する。時代が進み、作業者が人から機械(ロボット)に置き換わったが、効率化や最適化という概念に支配される生産活動の状況は今日まで続いている。

大量生産と大量消費という経済原理は人々の生活を物質的に豊かにしたといえる。だが人々の消費への満足感を高める一方で、環境負荷と資源消費を増大させることにもつながった。

フライは、大量生産・大量消費に根ざした伝統的なデザインを用いたものづくりが今日の経済活動と深く関わりを持ち続けている限り、デザインがもたらす未来は決して「持続可能」なものにはならない、と考えている。

人新世から見る脱未来

フライは脱未来の概念を紹介する動画の中で、人新世について批判的な意見を述べている。

人新世とは、ノーベル化学賞受賞者のドイツ人化学者パウル・クルッツェンとアメリカ人生態学者ユージン・ストーマーが提唱した「人類の時代」という意味の新しい時代区分を指す。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代であり、現在である「完新世(かんしんせい、地質時代の新生代第四紀の後半の時代のこと)」の次の地質時代を表すものだ。

“人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代”とする人新世において、フライは「私たち(人間)が世界を作ってきた」という考えに表れる“私たち”が、ある意味でヨーロッパ人に限定されていること、すべての人間をヨーロッパ中心主義的に投影したものになっていると注意をうながす。

西洋的な世界の捉え方は、歴史的な植民地主義の力とテクノロジー開発の概念を通じて世界全体に伝えられたものであるが、ヨーロッパ中心主義的に投影したものをすべての人に押し付けるべきではないとフライは考えている。フライは、多くの先住民文化がヨーロッパ中心主義的に捉えられた人間観とは全く異なる人間観を持つことを例にあげる。

人々が世界を理解するうえで人新世は有用な概念だ。だが、すべての人間、人種の異なるすべての人々が世界を理解するためには、人新世の概念は今まさに修正する必要がある、とフライは考える。

加えて、人新世に暗示された「破壊」の流れも捉える必要がある。人類が繁栄し、地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった今、私たちは持続可能な世界を目指そうとしているが、その中で「破壊」も行っている。

フライが例にあげる「破壊」の最も極端な形態は戦争だ。

戦争は環境破壊と人的損失をもたらすが、同時にテクノロジーの発展を加速させるものでもある。例えば、フォードシステムのような大量生産技術は軍事装備の製造に応用され、戦争に必要な機材を大量に生産するのに役立てられている。つまり、技術の発展が戦争を支える一因となっているのだ。

フライは、人間が行う活動が世界を維持し、同時に破壊していること、そして、多くの場合、その破壊的な側面を見過ごしていることを指摘する。つまり、経済成長や技術の進歩がもたらす利益に注目しながら、それらが環境に与える負の影響を無視しがちだということである。

未来を損なわれないために

脱未来の概念は、単に問題を指摘し、悲観的な見方を提示するものではなく、持続可能な未来を実現するために、行動や思考を転換させるきっかけとなるだろう。自分たちの行動が未来に及ぼす影響について批判的に振り返りながら、具体的な解決策を模索していかなければならない。

 

【参照サイト】Encyclo – Green construction – Sustainable development terms
【参照サイト】Futuring and defuturing, Design Futures, Politics, Tony Fry
【参照サイト】Futuring | Encyclopedia.com
【参照サイト】持続可能な消費に向けてのアプローチ
【参照サイト】Make: Japan | ものをつくらないものづくり #8 — 未来から遠く離れて
【参照サイト】Defuturing: A New Design Philosophy




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