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インターナルカーボンプライシング(ICP)とは・意味

石炭とお金

インターナルカーボンプライシングとは

インターナルカーボンプライシング(Internal carbon pricing:ICP)とは、企業が独自に炭素価格を設定し、組織の戦略や意思決定に活用する手法で、カーボンプライシングの方法のひとつである。

なお、カーボンプライシングとは、 酸素排出に価格をつけ、排出者の行動を変革させる政策手法であり、以下のように分類される。

カーボンプライシングの種類

出典:世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等を取り巻く状況(経済産業省)

インターナルカーボンプライシングは、自社が排出する炭素を独自の基準で金銭価値化し、コストやインセンティブとして可視化することにより、自社の経営を低炭素、脱炭素にシフトしていくために活用されることが多い。

価格設定方法のひとつは「Shadow carbon pricing(シャドープライス)」というもので、想定に基づき1トンあたりの炭素価格を仮説的に設定して気候関連リスク・機会の把握や投資判断に用いることを目的としている。2つ目は、気候変動やエネルギーに関する目標を達成するために必要な設備投資を事後的に算出したり、同業他社をベンチマークすることにより、その値を今後の投資判断に役立てるための「Impricit carbon pricing(インプリシットプライス)」である。前者は排出権価格などの外部価格を活用することが一般的であり、後者は数理的な分析にもとづいて価格を設定する。

これらの方法により算出したICPの具体的な活用方法は以下に示す。

インターナルカーボンプライシングの活用方法

ICPの活用方法として、炭素排出による経済的影響の見える化、投資指標への活用(投資基準の参照値・投資基準の引き下げ)、実資金を回収してファンドを形成し、低炭素投資へのインセンティブにする方法が挙げられる。

インターナルカーボンプライシングの活用方法と概要

インターナルカーボンプライシングの価格設定

パリ協定の目標を達成するために必要な価格基準は、1トン当たり少なくとも40~80米ドル、2030年までに50〜100米ドル(2023年の時価では61〜122米ドル)とされているが、実際のICPの多くは、この推奨レベルを下回っている。

企業や自治体などが環境への影響を管理するための国際的開示システムプロジェクト・CDPに基づいてICPの実施を報告した企業のうち、100米ドルを超えた組織は、2021年以降大きく増加したものの、2022年時点で146社のみにとどまるという。

世界銀行が毎年発行している炭素価格に関するレポート「State and Trends of Carbon Pricing」の2023年版によると、ICPの価格は、企業や業種によって大きく異なり、0.01米ドルから3,556米ドルまでと、大きなばらつきがあるものの、ほとんどが130米ドル未満であることが報告されている。

以下は、業界全体において導入されているICPのうち、設定価格(USD/tCO2e)の範囲に応じた組織数の分布である。右端は「130米ドル以上」の組織が一つにまとめられていることから、設定価格の偏りがあることが見てとれる。

急増するインターナルカーボンプライシングの導入

2022年にCDPにて回答した8,402社のうち、15%(1,203社)がICPを実施したと報告し、さらに18%が今後2年以内に実施する予定であると報告した。また報告されたICPのうち、68%がシャドーカーボンを利用しており、最も一般的な手法だったという。

2020年には853社がICPを導入していると回答し、1,159社が今後2年間に採用する意向を示しており、これらの合計数は、2019年に比べて20%増加していた。その後2022年にかけて、さらに導入事例は増加傾向にあることがわかる。

業種別では、金融業界を筆頭にサービス業のICP導入事例が多く、全体の4分の1を占めているという。この背景として、気候変動に関する様々な金融プラットフォーム(例えば「Net-Zero Asset Owner Alliance」、「Climate Action 100+」、「Institutional Investors Group on Climate Change」)が立ち上がり、参加機関が増えていることが挙げられる。

また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言において、ICPの活用が推奨されていることもあり、気候関連リスク・機会を把握するための有効な手法として、ICPを導入するケースが増えてきている。

ICP導入のドライバーとして、国や地域の温室効果ガス規制によってもたらされるリスクに対応するためという理由も挙げられる。実際に、外部からの炭素規制によるリスクが高いと認識している企業は、そうでない企業と比べて、ICPを導入する傾向が5倍以上あるという。

導入企業数は世界的に増加しているが、地域別では、欧州やアジア太平洋諸国での導入報告が多いという。日本でも、アステラス製薬や味の素、大阪ガス、東京電力ホールディングスなどが導入しており、日本企業を対象としたCDPでは1,182社のうち269社(2023年時点)が導入を報告している。

インターナルカーボンプライシングの導入事例

ICPの導入事例をいくつか紹介する。

Total

フランスのエネルギー大手トタルは、2008年よりICPを導入している。価格は30〜40USD//t-CO2(2019年時点)で設定し、 ICPに基づいて低炭素投資プロジェクトの長期的なコストを評価し、投資判断に活用しているという。ICPを活用することで、石炭からガスへの発電資源の切り替えを促進し、CO2排出削減技術への投資促進を狙っている。なお、ICPの価格は原油価格に従って見直しを行っている。

Unilever

ユニリーバでは、100万ユーロを超える全ての設備投資決定のキャッシュフロー分析にICPを適用し、炭素コストの経済的影響を可視化するとともに、各ユニットの排出量に応じて社内のファンド(Clean Technology Fund)に入金し、低炭素化プロジェクトに投資するInternal carbon fee (内部炭素課金)の取り組みも実施している。

帝人

国内繊維大手の帝人は、2021年1月からICPを導入し、グループでの設備投資計画に活用している。ICPを活用することにより、これまでとは異なる投資判断が可能となり(例えば設備投資を検討する際に、CO2の排出量が多いが、30億円で済む設備Aと、CO2の排出量が少ないが、40億円かかる設備Bがあった場合に、ICPを用いることで前者のコストの方が高くなることがあり得る)、今後CO2の排出量などを考慮した投資を後押ししていく狙いがある。

まとめ

企業による脱炭素化の取り組みが加速する中で、ICPの導入は具体的な手法の一つとして位置付けられるだろう。

ICPの導入は世界的に急増しており、日本国内でも導入事例が増えてきている。環境省がガイドライン作りや実施支援を積極的に実施しており、今後ICPも取り入れる企業が増えていくと考えられる。ICPが上手く機能し、実際に脱炭素化への変革を後押ししていくためには、企業間で価格設定を含めた好事例が共有されていくことも重要となるはずだ。

【参照サイト】世界銀行『State and Trends of Carbon Pricing 2021』
【参照サイト】世界銀行『State and Trends of Carbon Pricing 2023』
【参照サイト】CDP 気候変動レポート2023:日本版
【参照サイト】Global carbon emissions pricing raised record $104 bln in 2023|Reuters
【参照サイト】環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」
【参照サイト】東洋経済オンライン「「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ」

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