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バイオリージョンとは・意味

バイオリージョン

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バイオリージョンとは?

バイオリージョンとは、地形や生物学的特徴(山脈や生態系など)によって自然に境界が定められた地域を指す。バイオリージョンは「生物文化地域(bio-cultural region)」の略称で、日本語では「生命地域」と訳されることもある。

バイオリージョンの定義はさまざまで、気候や地形、流域や土壌、野生生物などといった生態的なつながりをもつ地域のみを指す場合もあれば、その中に住み、行動する住民の文化的特徴が考慮される場合もある。後者の場合には、自然と人間が織りなす一体的な地域を指す。

バイオリージョンは、環境保全や地域社会の持続可能な発展を考える上で重要な視点を提供するものだ。

バイオリージョンの定義

自然が形作る「バイオリージョン」

山脈や川などの自然地形や、地域特有の動植物、生態系によって定義されるバイオリージョンの場合、人間が作った行政区分とは異なり、自然の境界によって区切られる地域単位を表す。この場合のバイオリージョンは「流域」や「エコリージョン(生態地域)」と呼ばれる範囲と密接に関連しているが、それよりも大きなスケールを持つ場合が多い。

なお、流域は雨水が一つの河川や湖に流れ込む範囲を指し、エコリージョンは特定の生態系を中心とした地域を指す。バイオリージョンはこれらを統合した枠組みだ。複数の流域やエコリージョンがモザイクのように絡み合う空間として捉えられる。

自然と文化を融合した「バイオリージョン」

バイオリージョンは自然環境だけでなく、そこで暮らす人々の文化や生活とも深く関わる。そこで暮らす住民が自らの地域をどう定義し、活用するかが、バイオリージョンを形作るうえで重要な要素だ。この場合、地域特有の言語、慣習、価値観は、その土地と人々のつながりを深め、地域のアイデンティティを構築するものとなる。

国境を越える「バイオリージョン」

バイオリージョンは一つの国に限らず、時には複数の国境をまたぐ広大な領域となる場合がある。たとえば、アマゾン川流域は、その水源や生態系によって、南米の複数の国にまたがるバイオリージョンとみなされる。

バイオリージョンは国家や行政区分を超えて自然の境界を尊重する考え方を体現するのだ。

定義によっては異なる用語が同義になることも

先述した「エコリージョン(ecological region、生態地域)」は、バイオリージョンと同義で用いられることもある。いずれも生物的過程、地学的過程、人間的過程を含めて領域を定義しているとされている。

市原あかね『バイオリージョン経済(1)-エコロジー経済学の「場所」的展開一』(金沢大学経済学部論集 p.103-115、2000年)には、“どちらもすでに生物の多様性にかかわる政策上の用語として用いられている”とあった。ヨーロッパではエコリージョンが、オーストラリアやニュージーランドではバイオリージョンが多く用いられるなど、国や地域、団体によってどちらの用語を使用するか分かれていることが記されている。

同論文においては、バイオリージョンとエコリージョンを使い分けており、それぞれの概念の違いをこのように記している。

  • バイオリージョン:生物的自然を中心システムとした地域概念。無機的地学的自然を前提として扱う。
  • エコリージョン:社会と生物学的自然、地学的自然を地域の構成過程とする地域概念。人間と自然のつながりを一般的にとり上げる際に用いる。

参照元:市原あかね『バイオリージョン経済(1)-エコロジー経済学の「場所」的展開一』(金沢大学経済学部論集 p.103-115、2000年)

バイオリージョンではないもの

バイオリージョンではないものは以下の通り。バイオリージョンがより理解しやすくなる。

  • 地図上の恣意的な線:国境や行政区域といった人工的な区分
  • 国家:国家は政治的な概念であり、生物圏の定義とは異なる
  • 州や県:州や県も行政単位であり、生物圏で生じる自然な境界とは一致しない
  • 郡や都市:上記同様、行政単位であり、人間の活動によって形成されたものだから、異なる
  • 単一の生態系:生物圏は多様な生態系が複雑に絡み合ったものを指すため、異なる

バイオリージョナリズム:バイオリージョンを基とした環境思想

バイオリージョンに関連する思想に「バイオリージョナリズム(bioregionalism)」がある。これは1970年半ばに広められた、自然が定義した地域を基盤にした倫理観や行動指針を提唱する環境思想だ。

吉永明弘『人間の経験を媒介とした環境論』(環境思想研究 p.58-70、2005年)では、バイオリージョナリズムの主要な理論家であるカークパトリック・セイルが、バイオリージョンをどう定義したかについて記した後、“バイオリージョナリズムとは、第一に、「自然」によって区分された「地域」を重視する「地域主義」の思想であるといえる”と記している。

バイオリージョンが示す地域

自然が形作る「バイオリージョン」の場合

気候変動と向き合う世界中のプロジェクトに資金援助を行っている非営利団体One Earthは、Eric Dinersteinらが2017年に発表した論文『An Ecoregion-Based Approach to Protecting Half the Terrestrial Realm』で決定した844の陸域生態地域区分に基づき、「Bioregions 2020」と呼ばれる生物圏フレームワークを考案。彼らは、世界の生物地理区(地球上の地理区分のひとつで、生物の分布をとらえて地理区分を行ったもの)内の185 の生物圏を以下の14種類の生物群系(植物、動物、土壌生物の群集の類型を束ねる大分類)に分類している。

  1. 砂漠と乾燥低木地
  2. 山地草原と低木地
  3. 温帯草原、サバンナ、低木地
  4. 熱帯・亜熱帯草原、サバンナ、低木地
  5. 氾濫草原とサバンナ
  6. マングローブ
  7. 地中海性森林、林地、低木地
  8. 温帯広葉樹林と混交林
  9. 温帯針葉樹林
  10. 熱帯・亜熱帯針葉樹林
  11. 熱帯・亜熱帯乾燥広葉樹林
  12. 熱帯・亜熱帯湿潤広葉樹林
  13. 北方林/タイガ
  14. ツンドラ

各国、各地域のバイオリージョン

バイオリージョンは、地域ごとに特有の生態系を構成し、持続可能な管理や保護を通じて、自然環境を守るための重要な枠組みとなっている。

オーストラリア

オーストラリアは気候、地形、植生に基づき89のバイオリージョンに分類。これらのバイオリージョンは、オーストラリア政府が管理する国立保護区システムにおいて重要な役割を果たしており、各地域の保護状況の評価に使用されている。

たとえば代表的なバイオリージョンであるオーストラリアアルプスは、グレートディヴァイディング山脈に沿って広がり、亜高山帯の植生や寒冷な気候が特徴的だ。この地域は降水量が豊富で、夏が短く、冬には雪が降る。亜高山帯林地や亜高山帯草原など多様な生態系が見られ、オーストラリア固有の動植物にとって重要な生息地となっている。オーストラリアアルプスは気候変動の影響を強く受ける可能性があるため、保護活動と管理が重要な地域だ。

亜寒帯ユーラシア

亜寒帯ユーラシアはロシアの大部分と北欧諸国(アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)を含む広大な地域で構成されており、厳しい気候条件が特徴。この地域はツンドラやタイガなど、極端な環境に適応した生物群が生息する場所だ。

たとえば、ユーラシア大陸の北部に広がり、特に北極圏を取り囲む地域が該当する旧北区ツンドラは、低温と長い冬、短い夏といった厳しい気候が特徴で、主に草本植物や低木が生育している。ツンドラでは極地性の動植物が生息しており、その適応力の高さが際立つ。一方で、ツンドラは地球温暖化の影響を強く受けるとされていることから、これらの生態系を守るためには国際的な協力による保護活動が求められる。

世界で最も広大な森林帯の一つであるシベリア・ボリアル森林(タイガ)は、冷涼な気候に適応した針葉樹が主な樹種となっている。動物においては、シベリアトラやオオカミ、シベリアリスなどが代表的だ。シベリアの森林は地球の炭素循環において重要な役割を果たしている。先述のツンドラ同様、地球規模での気候変動対策の一環として、このバイオリージョンの保護はとても重要だ。

バイオリージョンの持続可能な管理のために

上記のような広大で多様な生物圏を保護するためには、地域の特性に合わせた管理策が不可欠である。

たとえばオーストラリアでは、IBRA(Interim Biogeographic Regionalisation for Australia、オーストラリアの暫定的な生物地理的地域化)システムに基づき、生物圏ごとの保護状況を評価。必要な保護対策を講じている。これにより、自然環境を守るための資源の配分や政策が最適化されている。

また現代においては、いずれの地域も気候変動による影響を受けやすい。したがって、国際的な協力や科学的な研究といった取り組みが、広大な地域における生物多様性を守るために進められている。

自然と文化を融合した「バイオリージョン」の場合

自然と文化を融合した「バイオリージョン」の場合、指し示される地域とは、その場所の自然とそこに住むコミュニティによって定義される陸地と水域の領域を表す。その場所に基づくつながりが意味をなす最大範囲の地理的限界ともいえる。

この領域は、自給自足でき、生物群集、生息地、生態系の完全性を維持できるだけの大きさである必要がある。その一方で、生物資源の管理や利用、理解に関わる人間のコミュニティを含める必要もあるため、地元住民がその場所を故郷と考えるのに十分な小ささも必要だ。

また、この場合、自然が生み出す境界だけでなく、そこに住む人々の存在、その生物圏と向き合う人々の姿勢もバイオリージョンを定義するうえで重要なものとなる。なぜなら、その地域によって意味のある管理の枠組みや生活様式などを最終的に決定するのは、そこで暮らす人々だからだ。そこで暮らす人々は自然環境を抜本的に変えることができる立場にある。そのため、地元住民の生計や関心が、生物圏の管理や保全活動の出発点となり、地域解決策において重要な基準となるべきともいえる。

バイオリージョンの重要性

バイオリージョンを考えることは、地域性に根ざした新しい生き方や価値観を再構築するために極めて重要だ。

たとえば、バイオリージョンを単なる地理的概念ではなく、私たちがどのように自然と向き合い、共存するべきかを考えるためのフレームワークとして考えることで、バイオリージョンは地球規模の課題と地域の課題の間をつなぐ仲介役として機能する。持続可能性やカーボンニュートラルといった目標は、地域単位で評価しやすい形に落とし込むことができるし、自然の有限性を尊重しながら地域の特性に応じた生活様式などを採用すれば、環境保護と地域社会の持続可能な発展を両立させる枠組みを提供できるはずだ。

このように、バイオリージョンは自然と人間が共生するための指標を提示し、具体的な行動を促すための道筋を示すものになる。

環境問題が深刻化する中、バイオリージョンの保護活動を通じて、私たちの自然環境を持続可能な形で守り、次世代に引き継ぐことが求められている。

また、バイオリージョンを自然と人間が織りなす一体的な地域と捉える場合には、自然と共存するためのフレームワークとしての考え方を取り入れたい。そして、その考えを実践に移すことが、未来の地球にとって重要な一歩となるはずだ。

【参照サイト】「生き物たちとの持続可能な社会を考えよう」(自然調和型社会学習プログラム)
【参照サイト】Bioregion Definition & Meaning – Merriam-Webster
【参照サイト】Defining a Bioregion
【参照サイト】バイオリージョン経済(1)
【参照サイト】吉永明弘 人間の経験を媒介とした環境論|国立大学法人 千葉大学
【参照サイト】What Is a Bioregion And Which Ones Are There?
【参照サイト】What is a bioregion?
【参照サイト】What is a Bioregion? – Brandon Letsinger.
【参照サイト】Australia’s bioregions (IBRA) – DCCEEW.
【参照サイト】Bioregions and EVC benchmarks
【参照サイト】Subarctic Eurasia | Realm & Subrealms | One Earth 
【参照サイト】The Bioregional Learning Centre UK




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