炭素隔離とは・意味
炭素隔離とは?
炭素隔離とは、二酸化炭素の大気中への排出を防ぐこと。炭素を個体や溶解した状態で安定させることで、気温上昇の抑制が期待される。炭素隔離には「生物学的な方法」と「地質学的な方法」の2種類があるが、これら以外にも、炭素隔離技術の開発が進められている。
なぜ大気中に、二酸化炭素が増えるといけないのか
気候変動
二酸化炭素は自然界でも人間の活動によっても発生する、熱を閉じ込める気体である。二酸化炭素のような温室効果ガスが大気中に増えることで気候変動が引き起こされ、様々な問題が発生するとされる。
海洋酸性化
大気に放出された二酸化炭素は森林だけでなく、海にも吸収される。このことを「ブルーカーボン」と言い、人間の活動によって年間で排出される二酸化炭素の約25%を吸収している (※1)。海洋中の二酸化炭素が増えることで、水のpHが低下して酸性化が進み、サンゴや甲殻類の成長や繁殖に影響が及ぶため、海洋の生態系が大きく変化する恐れがある。
地球温暖化による気候変動に加えて、海洋酸性化も防ぐ方法として、大気中に二酸化炭素を排出させないことは重要であることがわかるだろう。
炭素隔離の方法
炭素隔離の方法には、自然の力によるものとテクノロジーを使用するものなどの人為的なものにわけられる。
生物学的な隔離
草原や森林などの植生や、土壌、海洋などに二酸化炭素を貯蔵すること。大気中に排出される二酸化炭素の約45%はそのまま空気中に残り、約55%は草原や森林、海洋中に自然に吸収される(※2)。
草原や森林には光合成によって合わせて約25%の二酸化炭素が取り込まれている(※3)。森林などは呼吸もしているため、二酸化炭素を放出しているが、出ていく量より取り込む量が多いため、差し引きすると炭素の貯蔵量のほうが多くなる。
カリフォルニア大学デービス校の研究によると、森林よりも草原や牧草地のほうがより回復力のある炭素吸収源であることがわかっている。
森林は木質バイオマスや葉に炭素を貯蔵するのに対し、草原はほとんどの炭素を地中に貯蔵している。森林火災で樹木が燃え出すと、それまで蓄えられていた炭素が再び大気中に放出されるが、草原が火に焼かれても地下に固定された炭素は根や土壌に留まる傾向があるため、気候変動への適応力が高くなることがわかっている。
大気中に放出された約30%は海洋の表層部に貯蔵されている(※4)。海洋と大気の間では、二酸化炭素のやり取りが行われており、CO2を吸収する海域と大気に放出する海域がある。海全体で平均すると炭素を取り込んでいる。
前述したように、海洋に炭素が多く取り込まれると海洋酸性化が懸念される。「ジャイアントケルプ」と呼ばれるカリフォルニア沖に繁茂する巨大海藻は、南カリフォルニアでは回復力が高く、海洋酸性化に繁殖を阻害されないことがわかっている。海洋酸性化を海洋環境に関する研究は進められており、気候変動への対応が期待されている。
地質学的な隔離
工場や発電所で燃焼させた化石燃料から排出された二酸化炭素を地下の地層や岩石、海底に貯留することで、CCS(炭素回収貯留技術) と呼ばれる。
技術的な炭素隔離
科学者たちは、革新的な技術を使って大気中に炭素を排出せずに貯蔵する方法を探っている。そのうち2つを紹介する。
グラフェンとは、炭素原子から作られる物質で、スマートフォンなどハイテク機器のスクリーンの材料として使用される。二酸化炭素を海中などにただ隔離するのではなく、資源として利用しようと試みている。
直接空気回収技術とは、大気中のCO2を直接回収するテクノロジーの総称。国際エネルギー機関によると、2020年6月時点で、ヨーロッパ、アメリカ、カナダに合計15のDAC工場があり、1年間に約9000トンのCO2を吸収している。
回収方法には液体を用いてCO2を吸収し、地中に埋めるものと、固体を用いて二酸化炭素を炭酸カルシウムにするものがある。
DAC技術の利点は、限られた土地と水の使用で空気中のCO2を回収できることであるが、SDGsを達成する量の二酸化炭素は膨大であり、大規模な実証実験の必要性やコストがどのくらいかかるか明らかにすることが求められている。
日本での炭素隔離における方針
2019年6月に経済産業省によって「カーボンリサイクル技術ロードマップ」が策定された。二酸化炭素を資源として分離・回収して炭素塩(鉱物化)などに利用することで大気中のCO2排出量を抑制することに向けて期待が高まっている。炭素塩は、無機物であり、7万年以上炭素を貯蔵できるという。
まとめ
気候変動や海洋酸性化などの問題を食い止めるには、二酸化炭素を大気中に排出しないことが大切だ。しかし、すぐにCO2の排出をゼロにすることは非現実的であることに加え、すでに排出された二酸化炭素はなくならないため、炭素隔離への期待が高まっている。
温暖化防止のための技術革新に期待したいものの、自然界のルールを人工的に解決しようとすると弊害が心配される。海中や地中に埋めた二酸化炭素が何かの過ちで放出されたら、固有種の生態系を脅かし、結果的に人間にも悪影響が出ることは、誰もが予想できることだろう。
大切なのは、科学技術に任せるだけでなく、二酸化炭素を減らすために自分でできることから始めることではないだろうか。
※1~4 UC Davisより
【参照サイト】UC Davis Carbon Sequestration
【参照サイト】UC Davis Grasslands More Reliable Carbon Sink Than Trees
【参照サイト】UC Davis How Giant Kelp May Respond to Climate Change
【参照サイト】気象庁 海洋酸性化の影響
【参照サイト】気象庁 海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布
【参照サイト】経済産業省 カーボンリサイクル技術ロードマップ
【参照サイト】林野庁 森林の地球温暖化防止機能について
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