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サイバー・フェミニズムとは・意味

サイバー・フェミニズム

サイバー・フェミニズムとは?

インターネット、サイバースペース(コンピュータやネットワーク上に構築された仮想的な空間)、およびニューメディア(新聞・雑誌・ラジオ・テレビなど以外の新しい情報伝達の媒体)技術全般の活用、批評、理論化に関心を持つフェミニストの活動を表す。

この用語は造語で、1994年にイギリスのウォーリック大学サイバネティック文化研究ユニット(Cybernetic Culture Research Unit、CCRU)のディレクターであるサディ・プラントによって作られた。

サイバー・フェミニズムとその運動は性別だけでなく、人種、宗教、性的指向など様々な差異に関係なく、誰もが自分らしくいられることに焦点を当てた「第三波」フェミニズムから生まれている。

なお、20世紀初頭の「第一波」フェミニズムは女性参政権に焦点を当てた運動であり、1970年代の「第二波」フェミニズムは女性の平等な権利に焦点を当てた運動である。

フェミニズムとは・意味

サイバー・フェミニズムの歴史

サイバー・フェミニズムの出現以前、フェミニストたちは「テクノロジーが男性文化の一部として位置付けられている」「テクノロジーの開発に女性の貢献がほとんど認められていない」といった“社会的/文化的に構築されたテクノロジーの発展”について調査してきた。「テクノロジーは男性が興味を持ち、得意であるために女性よりも男性の方が多く関与するものだ」という位置付けについての議論を行ってきたのだ。

そうした流れの中、インターネットとデジタルメディアが急速に普及し始めた1990年代初頭、当時強まっていた第三波フェミニズムの動きもあり、テクノロジーとフェミニズムの理論を組み合わせた新しいアプローチとしてサイバー・フェミニズムが誕生した。

ダナ・ハラウェイ『サイボーグ宣言』

サイバー・フェミニズムへの道を示した代表的なものに、カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校の教授ダナ・ハラウェイが1983年に発表したエッセイ『サイボーグ宣言』がある。

『サイボーグ宣言』は「男性/女性」を含む様々な二項対立を乗り越えること、そして二項対立によって生み出される抑圧やジェンダー規範のない世界を求めている。『サイボーグ宣言』に登場する“サイボーグ”は、部分的に人間で、部分的に機械であり、二項対立を超えた存在だ。機械と人間の要素を併せ持った“サイボーグ”を用いて、ハラウェイは人種的および家父長制的な偏見に挑戦したのである。

オクティヴィア・E・バトラー「Xenogenesis三部作」

アフリカ系アメリカ人のSF作家オクティヴィア・エステル・バトラーもまたサイバー・フェミニズムに強い印象を残した作家の1人である。彼女のXenogenesis三部作(1987〜89年)は、遺伝子取引を行うエイリアンによって支配された黙示録的な未来が舞台である。バトラーの本には、人種や生物学の保守的な概念を打ち破り、男性でも女性でもない第3の性であり、異種間交配を行う異星人が登場する。それらは、当時の社会に蔓延していたジェンダー規範を打ち破るものだった。

1990年代のサイバー・フェミニスト

1990年代のサイバー・フェミニストに、The VNS Matrixが挙げられる。The VNS Matrixは、1991年にオーストラリアのアデレードで設立された女性4人組のアーティスト集団である。同団体の作品は、女性とテクノロジーとの間にある性的で社会的に挑発的な関係を出発点とし、拡大するサイバー空間における支配と統制の言説に対して疑問を投げかけるものだった。

The VNS Matrixは『サイボーグ宣言』を発表したハラウェイに敬意を示し、21世紀に向けた独自のサイバーフェミニスト宣言を書いた。それは長さ18フィート(約5.4メートル)の看板として展示され、オーストラリア中のさまざまなギャラリーで展示された。

メンバーの1人であるバージニア・バラットはデジタルメディア「VICE」のインタビューにて、「私たちはテクノカウボーイからおもちゃを乗っ取り、フェミニストの視点でサイバーカルチャーを再構築するという使命を帯びて、サイバー沼から出てきた」と話している

また、オーストラリアのアーティスト、リンダ・ディメントはアドベンチャーパズルゲームの形式をとったCD-ROM「CYBERFLESH GIRLMONSTER(サイバーフレッシュ ガールモンスター)」を発表した。これには、約30人の女性からスキャンした身体の一部などの情報に基づいて作成されたモンスターが登場。怪物的な女性性を表現したというディメントは、この作品をブラックコメディのようなものと呼ぶ。

ディメントは、自分の作品の多くは男性が抱く恐怖を描いていると話す。彼女の認識では、男性は女性のセクシュアリティを恐れ、権力や知性、殺意や情熱など何らかの激しい感情を持った女性を非常に恐れていると考えている。

「CYBERFLESH GIRLMONSTER」は当初、主に女性の肉体をサイバースペースに投入させることだけを目的としていた。しかし、不快とされる女性的なものを美しく洗練されたテクノロジーに投入することで、「テクノロジーを汚染する」というディメントのアイデアが「Cyberflesh Girlmonster」を生み出した。モンスターは女性の体のあらゆる部位で作られているが、女性性は感じられず、奇妙で肉々しい形が不気味に映る。当時のテクノロジー分野における男性と女性の位置付けやジェンダー規範に疑問を投げかける作品といえる。

また、イギリスの理論家セイディ・プラントは、男性が優先され、歴史的にその役割が無視されてきたテクノロジー分野における女性の遺産(レガシー)を取り戻すプロジェクトを立ち上げた。サイバー・フェミニストはアーティストだけではないことが分かる事例である。

サイバー・フェミニズムが直面した課題

90年代後半に、サイバー・フェミニズムは困難に直面する。

アーティストのフェイス・ワイルディングは論文の中で「インターネットはノンジェンダーのユートピアではない」とサイバー・フェミニズムに対する重要な批判を展開。著書の中でも「サイバー・フェミニズムは自らを包括的であるように見せかけているが、サイバー・フェミニストの著作は、教育を受け、白人で、英語を話し、文化的に洗練された読者層を想定している」と批判した。

また、研究者でアーティストのミンディ・セウは、サイバー・フェミニズムの歴史を、オンライン上に索引として記録するプロジェクトを開始し、成果として書籍『Cyberfeminism Index』を刊行した。

セウは、インタビューの中で、「世界の最大40%の人々がインターネットにアクセスできておらず、90年代初頭のサイバー・フェミニストが訴えた『ユビキタス(遍在、いつでもどこでも存在することを表す言葉)』についての考えは制限される」「Web2.0へと移行する中で、ハッシュタグやソーシャルメディアを用いての活動が増えたが、プラットフォームの寡占によってインターネットの可能性に対する幻滅が広がっている」「サイバー・フェミニズムはユートピアからディストピアへと移行した。アクティビズムが広告ツールとして流用される危険性がある」と述べている。

サイバー・フェミニズムの未来

インターネットやサイバースペースなどの発展とともに、サイバー・フェミニズムも発展し、その定義も広がりを見せている。『Cyberfeminism Index』を執筆したセウは、「サイバー・フェミニズムはそれを必要とする人々によって構築された根茎や、共著のように感じられる」と話した。

セウは2022年に「Cyberfeminism Index」の刊行を記念して行われたサイバー・フェミニスト作品のオンライングループ展「WETWARE」を開催している。グループ展に参加したアーティストのシュー・リー・チェンは次世代のサイバー・フェミニズムについて、「名前をつける必要はない」と意見を述べた。

未来のサイバー・フェミニズムは、サイバー・フェミニズムの名で呼ばれていないかもしれない。だが、男女両方の平等な権利を訴えるフェミニズムの運動が続く限り、サイバー・フェミニズムは存在し続けるだろう。

また、サイバー・フェミニズムを知ることは、テクノロジー分野における男女格差を知ることにつながる。

イギリス・PwCの調査によると、2,174人の学生のうち、テクノロジー分野でのキャリアを検討すると答えた男子学生は61%だったのに対し、女子学生はわずか27%。さらに、それが第一志望であると答えたのはわずか3%だった。

PwCは、女性がテクノロジー業界で働くことについての情報が十分に与えられていないこと、また誰もそれを選択肢として勧めていないためにテクノロジー分野でのキャリアが検討されないことを指摘している。同調査には、女子学生の4分の1以上が、テクノロジー業界は男性優位すぎるため、テクノロジー業界でのキャリアを諦めていると答えている、ともある。

しかし実際には、男性優位の業界に女性が参入したり、女性優位の業界に男性が参入することは、その業界に新しい洞察とソリューションをもたらす。そのような業界においては、性別を問わず従業員の仕事に対する満足度は高まるはずだ。

サイバー・フェミニズムを知ることで、テクノロジー分野への女性の参入を後押しできるだけでなく、テクノロジー分野に根強いジェンダー規範に疑問を呈することができるだろう。

テクノロジー分野におけるジェンダーのあり方に疑問を抱いた時には、「男性/女性」などの二項対立によって生み出される抑圧やジェンダー規範のない世界を求めた『サイボーグ宣言』やジェンダーの階層構造の解体を行う昨今のサイバー・フェミニストたちの活動を思い出してみてほしい。

【参照サイト】Cyberfeminism : Encyclopedia of New Media
【参照サイト】オンライン空間と女性たちによる 表現文化の分析可能性
【参照サイト】A Brief History of Cyberfeminism | Artsy
【参照サイト】VNS Matrix | transmediale
【参照サイト】Cyberflesh Girlmonster – Lab for the Unstable Media
【参照サイト】Mindy Seu: cyberfeminism ‘has shifted from utopia to dystopia’ | Dazed
【参照サイト】Laboria Cuboniks
【参照サイト】Experience the WETWARE art exhibition, curated by Mindy Seu on Feral File
【参照サイト】An Interview with Sadie Plant and Linda
【参照サイト】Women in tech: Time to close the gender gap – PwC UK
【参照サイト】Top 6 Reasons Why We Need Women in Tech in 2022




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