Browse By

エコフェミニズムとは・意味

エコフェミニズム

エコフェミニズムとは?

エコロジーとフェミニズムの概念を掛け合わせた思想や社会・経済活動のこと。人間による自然の搾取が引き起こす環境破壊と、男性優位の社会の中で女性を取り巻く不平等の根本の構造は同じで、この価値観をオルタナティブなものに変えていかなければどちらの問題も解決しないという考え方に基づいている。エコロジー・フェミニズムとも言われる。

エコフェミニズムが生まれた背景

1960〜70年代にかけては、第二次世界大戦後の高度に産業化された社会の中で様々な歪みが生じ、行き詰まりが見られていた。様々な反体制運動や学生運動が各地で起こり、あらゆる差別の撤廃が唱えられる中、日常的に潜む性差別や抑圧に対して声を上げる女性たちによって、第二波フェミニズムの動きが起った。一方で、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」が1962年に出版され、農薬が生態系に与える影響や人間が自然をコントロールする愚かさを説き、人々の自然環境保護に対する機運が高まっていった。

こうした世の中を背景に1974年に出版されたのが、フランスの作家でありフェミニストのFrançoise d’Eaubonne(フランソワーズ・ドボンヌ)による『フェミニズムか、死か(Le Féminisme ou la mort)』である。彼女はこの著書の中で、現在直面している地球環境破壊と女性への性差別や植民地支配の問題を引き起こしたのは西洋的な家父長制社会の考え方だと述べている。それぞれの問題は密接に関係しており、この抑圧的な男性優位の権力システムを壊さない限り、根本的な解決につながらないという考え方を示したのだ。

実際に、気候変動によって難民となった人々の約80%が女性だと言われている。また、特に貧困地域において、男女の役割や教育格差、医療へのアクセスの困難さなどにより、災害時に被害に遭う確率や死亡率は女性の方が高くなっている。このように命にかかわる緊急の場面において、すでにジェンダーギャップが生まれている。

フランソワーズが著書を通して警鐘を鳴らして以降、欧米を中心に、グローバルサウスと呼ばれる途上国や日本などでも、様々な議論や活動が繰り広げられてきた。

エコフェミニズムの種類

フェミニズムにもマルクス主義の影響を受けたものからリベラルなものなど、その思想や支持するものなどによって様々な理論がある。

そこから派生したエコフェミニズムにもいくつかの形が存在しており、アメリカの学者であり代表的なエコフェミニストとしてエコフェミニズムに影響を与えたCarolyn Merchantは、その著書「ラディカル・エコロジー」(1992年出版)の中で、エコフェミニズムを次の4つに分類している。

1. リベラル・エコフェミニズム

基本的には既存の自由資本主義の社会を肯定した上で、教育と経済の機会から女性が締め出されてきたことを訴えるもので、男女平等な社会的な役割を与え、環境運動に取り組むことで問題解決を図ろうという考え方。

2. カルチュラル・エコフェミニズム

男性中心の家父長制が登場する以前の先史時代、女性は生命を生み出すものとして尊敬されるべき存在だったという考えがベースとなっている。こうした女神崇拝や女性の生殖機能と自然との関係性を称える傾向は、スピリチュアリズムの要素も含んでおり、女性原理派などと呼ばれることもある。

農薬の不使用を求めるなど、子どもや地球上の生命体への危害を阻止するために活動を起こす女性たちの考えの背景には、カルチュラル・エコフェミニズムの思想がある場合もあり、「母なる地球」といった母性イメージが訴えられることもある。

3. ソーシャル・エコフェミニズム

エコロジストのMurray Bookchinによるソーシャル・エコロジーの考え方にフェミニズムの考え方を取り入れたもの。女性に対する本質主義を否定し、カルチュラル・エコフェミニズムとは一線を画している。

家父長制的資本主義社会における支配/被支配関係を壊し、あらゆる立場でヒエラルキーのない社会の構築を目指すことで、人間と自然を同時に解放し、共生を可能にするという考え方。また、男性にとっても女性にとっても理性と感性は不可分であるという立場をとり、自然と文化の新しいつながり方を探っている。

4. ソーシャリスト・エコフェミニズム

マルクス主義フェミニズムにエコロジーの考え方を取り入れたもの。資本主義経済システムの中で、女性が担う再生産(家事や育児などの家庭内労働)は、男性たちによる生産よりも低い位置にあるとされてきた。一方、ソーシャリスト・エコフェミニズムでは、利潤を最大化する資本主義ではなく、欲求の充足をベースとした新しい形態の社会主義により、持続可能な社会を運営し、人間と自然の生産と再生産を調和させるという考え方をとっている。

女性の身体は、資本主義の中で道具として利用されてきた歴史がある。このソーシャリスト・エコフェミニズムにある女性の再生産の自由と権利を守ろうとする概念は、特に第三世界と言われる途上国でのエコロジーやフェミニズムの運動にとって大きな意味を持つものである。

エコフェミニズムの活動事例等

ここでは、世界各地で起こったエコフェミニズムに関連する事例を下記に紹介する。

チプコ運動

1970年代にインドのウッタラカンド地方で起こった運動。商業利用として伐採され、破壊される予定だった、生活の支えでもある「命の森」を守るため、現地の女性たちが木を切らせまいと自ら木に抱きついた。この非暴力的解決を目指した抗議活動は北インドを中心に広がり、参加したインドの環境活動家でもあるVandana Shivaはエコフェミニズムのビジョンを形成する上で重要な役割を果たした。

グリーンベルト運動

1977年にケニアの環境・政治活動家でノーベル平和賞も受賞したWangari Maathaiによって始まった植林活動。地域の砂漠化を防ぐために考案されたこの活動は、貧困に苦しむ女性たちを中心にのべ10万人が参加し、アフリカ大陸全土で、5,000万本を超える植樹を行った。環境保全はもちろんだが、この植林が人々の貧困からの脱却、女性の地位向上などにつながり、ケニアの民主化に向けても大きく貢献した。

ウィメンズ・ペンタゴン・アクション

1980〜1981年にかけ、アメリカのエコフェミニストのYnestra Kingは約2,000人の女性たちを結集させ、アメリカのペンタゴン(アメリカ国防総省本部)を包囲し、平和的な抗議活動を行った。これは、1979年にペンシルバニア州で起こったスリーマイル島原子力発電所事故に端を発しており、政府によって行われる軍国主義的行や、人々や地球環境からの搾取をやめ、平等な権利(社会的、経済的、生殖に関する権利を含む)を与えるよう要求したもの。戦争を拒否し、子供たちの命を守り、より良い人類と地球の未来を願う女性たちによって推進された活動である。

エコフェミ論争

日本では、1980年代半ばに青木やよひが女性原理を称賛するIvan Illichの考えを踏襲し、「カルチュラル・エコフェミニズム」を広めようとした。一方、マルクス主義フェミニズムを支持する上野千鶴子は、青木の考えを女性原理に偏ったものだと批判し、論争が巻き起こった。結果は、当時の時代の背景などもあり、上野の考えが勝利したという形になり、その後日本においてはエコフェミニズムは大きく発展せず失速した。

まとめ

近年では、さらに多様性は広がり、性的マイノリティを表す「Queer(クィア)」とエコフェミニズムを掛け合わせたクィア・エコフェミニズムなどの理論も登場している。クィア・エコフェミニズは自然・女性・クィアという三者はそれぞれに抑圧されてきたものであり、それらに声を与えて同時解放を目指すという考え方だ。

このように、弱き立場のものたちの声に耳を傾けることで、見えてくるものもあるだろう。今後はこうした議論が活発化することで、よりフラットな視点で、既成概念を軽やかに飛び越えるオルタナティブな思考が生まれていくことを期待したい。

【参照サイト】Global Citizen | The Faces of Ecofeminism: Women Promoting Gender Equality and Climate Justice Worldwide
【参照サイト】CADTM | Feminism and ecology: the same struggle? – The shaping of ecofeminism
【参照サイト】IEMed | What is Ecofeminism?
【参照サイト】Lifestudies.org | エコロジーと女性-エコフェミニズム
【参照サイト】 Asle-Japan/文学・環境学会 | エコフェミニズム/エコロジカルフェミニズム [ecofeminism / ecological feminism]
【参照サイト】ELLE | Vol. 4 フェミニストにあらずんば、エコロジストにあらず【クラーク志織のハロー!フェミニズム】
【参照サイト】PARC | 栗田隆子「エコロジカル・フェミニズム再考─「オルタナティブ」を実践するために」




用語の一覧

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行

ま行
や行
ら行
わ行
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
L
M
N
O
P
Q
R
S
T
V
W
X
数字

FacebookTwitter