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環境プラグマティズムとは・意味

環境プラグマティズム

環境プラグマティズムとは?

環境プラグマティズム(environmental pragmatism)とは、環境問題についての理論的な議論や倫理的な理想よりも、実際に機能する現実的な解決策を重視する思想のこと。

そもそもプラグマティズムとは、「人間の生活に実際に役立つことを重んじて、さまざまな問題を解決していこうとする思想」である(出典:NHK高校講座 – 倫理 第3章 現代を生きる人間の倫理「社会変革の思想」)。日本語では「実用主義」「実際主義」「行為主義」とも訳される。

環境プラグマティズムは、抽象的な哲学的議論に焦点を当てた「環境倫理学」に対して、現実的に環境問題を解決するための議論に方向転換することを求めた主張である。その後の環境倫理学における大きな流れとなった環境プラグマティズムは、現在でも有力な主張とされている。

環境プラグマティズムの歴史的背景

1960年代の環境保護主義の高まりを受け、1970年代頃には「環境倫理学」という学問が形成された。環境倫理学とは「人間と自然の関係についての道徳的なあり方を考える学問」を指す(引用元:環境倫理学|EICネット)。

「環境倫理学」は当初、人間が世界の中心、あるいは最も重要な存在であると主張する人間中心主義を批判して生命中心主義や生態系中心主義を唱えることが主流となっていた。極端な例には、人間よりも人間以外の生物や自然の保護を重視し、地球環境を保全するためであれば人間の生命を犠牲にしてもよいと考える「環境ファシズム」の考え方も登場した。

しかし、「人間中心主義は正しいか、正しくないのか」といった抽象的な議論をメインに据えた「環境倫理学」などの主張を具体的にどう実践していくかとなると、ほとんど方針が立たなかった。どんなに「環境倫理学」が人間中心主義を批判し、自然や生態系の価値を強調しても、環境に対する現実的な政策にほとんど影響を与えなかったのだ。

そんな折、1980年代後半に登場したのが環境プラグマティズムという主張である。環境プラグマティズムは、環境政策に現実的な影響を与えてこなかった抽象的な哲学的議論から離れること、現実的な環境問題解決のための議論への方向転換を求めた。

現実的な環境政策を考えるために必要な理論について問い直すべきだと主張する環境プラグマティズムの潮流は、環境哲学者であるアンドリュー・ライトとエリック・カッツが編纂した書籍『環境プラグマティズム(Environmental Pragmatism)』(1996年)によって広く認識されるようになった。

環境プラグマティズムに関連する代表的な考え

かつての環境倫理学では、環境保護を唱えるとき、人間中心主義か非人間中心主義か、人間の経済的利益を優先すべきか自然の全体的生態系を優先すべきか、といった二項対立的なものの見方がとられてきた。

アメリカの哲学者で、環境プラグマティズムの代表的な主唱者の一人であるブライアン・ノートンは、そのようなものの見方を批判し、環境倫理学の新たな在り方を模索してきた。ノートンは多様な立場や評価を許容する「多元論」の立場をとり、多様な立場から環境保護へ向かうことを求めた。そしてノートンは後述する「収束仮説」や「弱い人間中心主義」を提唱した。

収束仮説

収束仮説とは、価値観の異なる者同士であっても、生態系に関する自然科学的知見に基づいて最適な判断と合意に達することを意味する。たとえば野生生物の生息地となっている土地を保護すべきかという問題を考える。野生動物にどのような価値を置くかは、環境保護主義者と猟師、人間中心主義者と非人間中心主義者の間で見解が異なるはずだ。だが、地域の生態系を守るためであろうと、狩猟の楽しみのためであろうと、野生生物の生息地を守るという共通の目標は設定できるし、政策上合意することもできる。この例のような考え方が、収束仮説である。

弱い人間中心主義

弱い人間中心主義は、未来の世代や人類に共通する長期的な利益を重視し、自然資源や環境に対する人間の責任を強調するという新たな立場である。この立場は、現世代の短期的な利益を優先する人間中心主義と、自然の内在的価値(自然それ自体の価値)だけに環境保護の根拠を見出す非人間中心主義を巡る議論において対立的ではない新たな立場といえる。

多様な立場や評価を許容して問題解決にアプローチする

環境プラグマティズムは、現実的に環境問題を解決するための議論に方向転換することを求めた主張である。この主張は、人々が自然環境に見出す価値が多様であることを前提に、その多様な価値が開かれた議論を通じて共有され、積極的に環境政策に反映されることを求める。

もちろん自然環境に見出す価値が多様であるということは、それぞれの価値や信念が対立する可能性も考えられる。公共的議論の中で合意に到達しない状況に陥ることもあるだろう。

しかし環境プラグマティズムが重点を置くのは合意できるか否かではない。合意形成が難しい可能性を十二分に理解しながら合意に向けて働きかけ続ける。それは環境問題の解決について、理論ではなく実践を求めているからだ。

環境プラグマティズムは、環境問題の解決に有効な政策や行動が実際に行われることを訴えかけている。

【参考文献】大石敏広『環境プラグマティズムにおける 〈政策の合意〉 の概念について ロールズの〈重なりあう合意〉を手掛かりに』(倫理学研究第47巻 p.123-134、2017年)
【参考文献】中元啓夫『「環境プラグマティズム」における自然の「内在的価値」』(先端倫理研究第11号 p.52-67、2017年)
【参考文献】岡本裕一朗『いま世界の哲学者が考えていること』(朝日文庫、2023年)

【参照サイト】Environmental pragmatism – Tri College Consortium
【参照サイト】学習メモ – 2021-倫理.indb|NHK高校講座 – 倫理 – 第3章 現代を生きる人間の倫理「社会変革の思想」
【参照サイト】環境価値の二極化とブライアン・ノートンの環境プラグマティズム
【参照サイト】「生活環境主義」的発想の批判
【参照サイト】中国における環境倫理学研究
【参照サイト】他者の態度への関心 : 環境プラグマ ティズム以降の環境倫理学の方向 性についての検討と評価




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