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泊食分離とは・意味

泊食分離

泊食分離とは?

泊食分離とは旅館などの宿泊施設において、宿泊料金と食事料金を別立てにすることで、施設内だけでなく近隣の飲食店での利用を促す施策である。2017年より観光庁が推進している。

特に日本の旅館は「1泊2食」が定番であったが、近年、素泊まりプランや夕食の単品プランを展開し泊食分離を実施する旅館が増えてきている。

実際に、観光庁が観光協会・温泉組合等の団体へ行ったアンケート(※1)では、泊食分離を実施している割合は20.1%。実施していないが今後取り組みたい割合は24.0%、またインバウンド(訪日外国人旅行)に「積極的に取り組んでいるところ」では泊食分離を実施している割合が 40.7%と高かった。

同調査の宿泊施設からの回答でも、泊食分離を実施している割合は32.0%。実施していないが今後取り組みたい意向は20.6%。インバウンドに「積極的に取り組んでいる」ところでは泊食分離を「実施している」が 51.9%と約半数を占めており、特にインバウンドにとっては必要不可欠な施策であることが分かる。

泊食分離の目的

泊食分離の目的は大きく2つ、旅館の稼働率の向上と、地域の活性化である。

平成30年の日本の観光動向調査(※2)における宿泊状況はシティホテルが79.9%、ビジネスホテルが75.3%、旅館が39.0%と旅館の宿泊客が低迷している。旅館の宿泊客が低迷すれば、その地域での観光収益も伸び悩んでしまう。そんな状況を打破する施策が泊食分離であり、下記2つの効用が期待されている。

1つは、多様化するニーズへの対応だ。先述の通り、泊食分離は特にインバウンドにとって必要な施策である。2019年の「外国人旅行者受入数ランキング」(※3)において、日本は3,188万人と世界で12位、アジアで3位にランクインしており、外国人旅行者が多い国である。

外国人旅行者は「コト消費」に重きをおく傾向にあり長期滞在も多いため、従来の1泊2食スタイルではなくバラエティに富んだ食事を自ら選べるスタイルが好まれる。

また、日本人の国内旅行客の旅行形態も、従来の団体ツアーや定番行動から個人化、オリジナル行動パターンへ変化している。SNSやインターネットで近隣の情報に簡単にアクセスできる現代では、個人で選択が可能な自由度の高い旅行プランの需要が高まっているのだ。

2つ目は、泊食分離を実施することで宿泊料金を下げることができる。その結果、旅行者の滞在日数を増やすことにもつながる可能性がある。

以上の効用から泊食分離によって旅館の稼働率を上げ、地域も活性化させることを目指している。

泊食分離のメリット

泊食分離を推進することで、宿泊客側と施設側、双方に以下のメリットが期待されている。

宿泊者のメリット

①より低価格で温泉旅館に宿泊することができる。
特に外国人旅行者に多い、豪華な食事を求めていない観光客は夕食別立ての、より低価格の料金帯で宿泊できた方がお得感を感じるだろう。

②連泊の場合も料理に飽きてしまう心配がなくなる。
外国人旅行者の滞在日数は平均4〜6日間、欧米からの場合、14日〜20日間滞在する旅行者も多く、同じ旅館に連泊するケースがある。旅館で食事をしたり、近隣の飲食店から選択したりできれば、飽きることなく食を楽しむことができる。

③夕食の時間帯に縛られて旅行プランを組まなくてもよい。
例えば、プレミアムフライデーを利用し金曜日の仕事後から旅行に出かける場合や、しっかり丸一日近隣を観光したい場合など、夕食の時間が決まっていなければ自身の旅行プランを自由に組み立てることができる。

地域や宿泊施設へのメリット

①顧客満⾜度の向上
既出の観光庁の調査では、泊食分離を実施したことにより顧客満足度が向上したと回答した観光協会・温泉組合等は34.8%を占める。宿泊施設も21.6%と回答しており、自由度の高いプランが顧客の満足につながっている。

②地域の活性化
宿泊施設以外での消費を促すことにより、地域全体の活性化が期待される。同上の調査でも、泊食分離を実施したことにより地域が活性化したと回答した観光協会・温泉組合等は32.6%と高い。

③連泊宿泊者の増加
旅館の割高感を払拭することで、お得に連泊する宿泊客が増えることも、泊食分離に見込めるメリットである。

④人⼿不⾜の解消・コスト削減
地方の宿泊施設では、少子高齢化の影響や家族経営の旅館も多いことから料理人やシェフの人員不足が叫ばれている。泊食分離により、夕食サービスに従事する人員を削減することができ、コストも削減できる。

泊食分離のデメリット

一方で、泊食分離を実施する団体や検討する団体からは下記のようなデメリットも挙げられている。

①稼働率は上昇するが単価が伸びない
宿泊客の夕食需要が旅館以外の地域の飲食店に流れるので稼働率は上昇しても、単価が伸び悩む状況も報告されている。
この課題の対策として、湯田中温泉の事例を後述する。

②地域の連携が必要不可欠
泊食分離を成功させるためには、宿泊施設以外の地域の飲食店や観光スポットとの連携が大きな鍵となる。その土地に訪れる観光客を増やすために、宿泊施設と地域全体が一体となって街全体の魅力づくりを進める必要がある。

泊食分離の成功事例

ここでは、泊食分離に取り組む3つの温泉街の事例を紹介する。

石川県七尾市和倉温泉

石川県和倉温泉では、夜の食事を市街の飲食店で楽しむ泊食分離型商品「まち食STAY」を11の旅館が提供している。「まち食STAY」プランでは観光客が希望の旅館を予約。市街の飲食店を提携先の3コース・13店舗から選択し、タクシーでホテルから向かい、そこで食事を味わうことができる。

また、飲食だけでなく、街でのプロジェクションマッピングや「冬のあかり回廊」など夜の街散策を楽しむ工夫が街全体で行われており、宿泊客に街での夜間消費を促している。

山形県天童市「と横丁」

2020年1月、山形県天童市で温泉旅館が中心となって企画した温泉街の横丁「と横丁」がオープンした。「天童温泉の宿泊者数を増やす」という共通の目的のもと、競合であった旅館・ホテル7社が連携しDMC天童温泉という会社を設立し、「と横丁」を立ち上げ運営を行った。資金は「と横丁」の敷地を提供した天童ホテルの出資、クラウドファンディングで調達した資金、国の商店街活性化・観光消費創出事業補助金で建設された。

八戸や酒田の横丁にヒントを得て、はしご酒を楽しみながら地元の人と交流できる施設となっている。

湯田中温泉

先述の通り、泊食分離により夕食需要が旅館以外の地域の飲食店に流れ、旅館の単価が伸び悩むデメリットもみられる。

その解決策として、湯田中温泉では高付加価値の夕食プランで富裕層などにアピールする試みを始め、飲食店との差別化を図っている。外国人旅行者などの幅広い需要に対応するためベジタリアン向けプランや、グルテンフリープランも推進している。

観光まちづくり会社の「WAKUWAKUやまのうち」は湯田中温泉の商店や旅館だった建物を、オーナーから賃借あるいは買い取って改装し、地域の若者や事業者に賃貸。素泊まり型ホステルや夜遅くまで飲食できるビアバー・レストランとして活用している。商店や旅館だった建物を新しいカタチに生まれ変わらせることで、街ににぎわいが戻りつつある。

先述の通り、泊食分離の成功は土地をよく知る宿泊施設や観光団体、飲食店など街全体で連携する必要がある。それぞれの団体が提案する魅力的な観光要素を、旅行者が自由に選べる泊食分離は、多様化する旅行者のニーズ・旅行スタイルに応えながらその土地の魅力を最大限に感じてもらえる施策となるだろう。それが結果として、過疎化する地域の活性化につながるのだ。


※1 「宿泊施設の地域連携に関する調査」結果(観光庁)
※2 令和元年版観光白書について(概要版)(観光庁)
※3 令和3年版観光白書について(概要版)(観光庁)

【参照サイト】「泊食分離」による訪日客誘致-多様な観光ニーズに応えるために!(ニッセイ基礎研究所)
【参照サイト】旅館の泊食分離 再考 外国人増加、人手不足など環境変化(観光経済新聞)
【参照サイト】訪日外国人の消費動向(観光庁)
【参照サイト】和倉温泉が「泊食分離」に地域一体でチャレンジ!ナイトタイムエコノミーの新たな取り組みがもたらした展望とは(リゾLAB)
【参照サイト】まち食STAY(一般社団法人 ななお・なかのとDMO)
【参照サイト】夕食は横丁で、温泉旅館の新スタイル「泊食分離」:山形県天童市「DMC天童温泉」(日経BP)
【参照サイト】旅館の夕食をなくすと寂れた温泉街がにぎわう?(読売新聞)

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