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インクルーシブ教育(Inclusive Education)とは・意味

インクルーシブ教育

インクルーシブ教育(Inclusive Education)とは?

人間の多様性を尊重し、障害のあるなしや国籍や人種、性差や経済状況の差別も関係なく、共に学び、共生社会の実現を目指そうとする教育のこと。

最初にこの概念が国際社会の中で提唱されたのは、UNESCOが1994年に開催した「特別なニーズ教育に関する世界会議」において採択された「サラマンカ宣言」である。

その後、2006年の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」の中でもその考え方が示された。この条約では「人間の多様性の尊重等の強化」や「障がい者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能にする」ことをインクルーシブ教育の目的として挙げている。

インクルーシブ教育が必要とされる背景

現在、世界には2億4千万人の障害を持つ子供がいると言われている(※1)。しかしその多くは教育へのアクセスを制限されており、そうして学ぶ権利を奪われた彼らは、地域社会、就職、そして彼らに最も影響を与える意思決定を行う政治の場に参加する機会を奪われているという現状がある。

2015年に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、「誰一人取り残さない」という原則が採用されている。これまでサポートされてこなかったすべての人に同じ機会が与えられるよう支援し、誰もが安心して暮らせる共生社会を作ることに世界の人々が向き合いはじめたことで、インクルーシブ教育にも注目が集まるようになった。また、SDGsの中には「質の高い教育をみんなに」という目標4が掲げられており、障害のある子供のみならず、すべての子供にそのための平等な機会が与えられることが期待されている。

インクルーシブ教育を実現するには

実際の教育現場で、すべての子供たちに開かれた教育を実践するにはさまざまな配慮や取り組みが必要だ。文部科学省の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」の中でも挙げられている視点をいくつか紹介する。

合理的配慮

合理的配慮とは、障害者の人々が障害のない人と平等な権利を享受するために、社会の障壁を取り除く調整や配慮のことで、その実施のために過度な負担がかからないものとされている。画一的な対応ではなく、子供たちひとりひとりの状況を理解し、それぞれに合わせた対処が求められる。

専門性のある指導体制の確保

多様な子供たちを受け入れるには、担任の教師一人だけという環境ではなかなか難しい。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどをはじめとした専門性を持った指導員を配置することで細やかなケアができる体制づくりが必要とされる。

多様な学びの場の環境整備

子供たちが成長する中で、それぞれのニーズに合った環境を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備することも重要だ。通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校の環境の充実に加え、フリースクールやホームスクーリングなど多様な選択肢があることが望ましい。また、そのための予算の確保なども合わせて検討が必要だろう。

日本でのインクルーシブ教育

日本では、2007年に「障害者の権利に関する条約」に署名し、学校教育法が改正された。同年特別支援教育制度が開始され、通常学級においても特別支援教育を実施することが求められるようになった。しかし日本で文部科学省が進めている「インクルーシブ教育システム」はあくまでこれまで行われていた特別支援教育の延長線上にあるものだ。

一方、UNESCOが提唱するインクルーシブ教育は、もっと包括的で、特定の対象者のみではなく、すべての人に開かれたものであるとし、教育システム自体を子供たちの多様性に合わせ変えていくというものである。

根幹的な考え方からそもそも異なっており、似て非なるところも多いのが現状だ。こうした状況の中、2022年8月に日本政府は国連本部にて「障害者の権利に関する条約」に関する審査を受け、国連の障害者権利委員会から「障害のある子供を分離した特別支援教育をやめるように」と勧告が出された。一歩踏み込んだ、形式だけではないインクルーシブ教育の実現のために、UNESCOの定義を踏まえた国家行動計画の策定が求められている。

インクルーシブ教育の課題

インクルーシブ教育の実現のためには様々な課題がある。「インクルーシブ教育」という概念に対する理解の不足や、専門性の高い人材や環境的整備の不足、授業のカリキュラム制や一斉授業の見直しなど。海外の事例なども参考にしながら、国レベルで根本的な見直しを進めることが急務だ。

まとめ

理想とする共生社会は、インクルーシブ教育という概念すらなく、多様性を認め合い、障害のある人もない人も同じ環境で学び、社会に参加することだろう。こうした取り組みによって、我々ひとりひとりがそうした社会が自然でスタンダードなものだとあたりまえに思えるようになることを願いたい。

※1 Inclusive education Every child has the right to quality education and learning.

【参照サイト】UNESCO | Inclusion in education
【参照サイト】文部科学省 | 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要 
【参照サイト】文部科学省 | 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)
【参照サイト】朝日新聞デジタル | インクルーシブ教育とは?実践に必要なことや事例、現状と解決策を紹介:【SDGs ACTION!】
【参照サイト】東洋経済education×ICT | インクルーシブ教育の現状と課題。文科省の取り組みと日本国内外での事例を紹介
【参照サイト】パラサポWEB | インクルーシブ教育とは?専門家が明かす、その特長や課題、実例を紹介
【参照サイト】Yahoo!ニュース | 国連が日本政府に勧告「障害のある子どもにインクルーシブ教育の権利を」(野口晃菜)




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