Browse By

再野生化(Rewilding)とは・意味

再野生化(Rewilding)

再野生化(Rewilding)とは?

再野生化(Rewilding)とは、傷ついた生態系を修復する際、人間の介入度合いをできる限り弱めて生態系本来の働きに委ねる、自然保護に対する先進的なアプローチである。

生態系を修復することを目的に生態系の保護や管理といった人間による介入をある程度は行うものの、その後徐々に介入を減らし、生態系本来の力にその修復を託すのが特徴だ。

人間が介入する度合いを減らすために、再野生化の取り組みでは、保護・管理対象のエリアに生息する頂点捕食者や相互作用の強い種を保護または再導入するといった手法がとられる。また、世界自然保護基金(World Wildlife Fund、WWF)のウェブサイトでは、絶滅した野生の草食動物の代わりに家畜を利用する事例も紹介されている

再野生化に取り組む団体ごとにその定義や理念にはそれぞれ違いがあるが、いずれも持続可能な生物多様性と生態系の健全性を回復させることに焦点を当てていることに変わりはない。

再野生化と他の保全活動の違い

従来の保全活動では、既存の生息地や種の保護に重点を置くことが多い。

再野生化のアプローチは、従来の保全活動がとるアプローチと多くの点で重複する。だが再野生化は他の保全活動と違い、既存の生息地や種の保護などを終えた後、“人間の管理や介入の度合いを減らす”といった明確な目標がある。保全活動後の人的管理の削減まで見据えたもの、それが再野生化だ。

再野生化の事例

再野生化のわかりやすい例の一つとして、アメリカのイエローストーン国立公園の取り組みが挙げられる。同公園では、再野生化のためにオオカミの再導入が行われた。

1900年代半ばまでにオオカミが一掃されていたイエローストーンでは、大型捕食動物であるオオカミがいないことで生態系のバランスが崩れてしまう。中間捕食者のコヨーテによって小型動物が集中的に食べられ、その一方で大型草食動物であるシカ科のエルクが増え、植生に多大な影響が及んでいた。

1995年にハイイロオオカミが導入された際には、オオカミがエルクを絶滅させるのではないかと危惧されていたが、2020年に公開されたナショナル・ジオグラフィックの記事によれば、オオカミによって弱った個体や病気になった個体が間引かれることで、むしろエルクの群れが安定するようになったという。

また、イギリスの再野生化を促進することを目的として 2015 年に設立された慈善団体Rewilding Britainは、ウェブサイトにて再野生化の事例をこのように紹介する

  • 天然林の保護、拡大などにつとめ、多様な野生生物の定着・分散、炭素貯留量の増加を促進する。
  • 放牧動物の個体数を減らすことで、樹木やその他の植生が成長するようにする。
  • 湿地帯を復元し、ビーバーを導入することで、生物多様性の向上や炭素の貯留、洪水防止に役立てる。
  • 失われた種を復活させ、捕食者と被食者、捕食者の間など種間の重要な関係を再構築し、生態系における重要なギャップを埋める。
  • ダムを撤去し、魚が自由に移動できるようにするだけでなく、川の三作用(浸食、運搬、堆積)が再確立できるようにする。
  • 河川と氾濫原を再び結びつけ、自然の流れを復元することで川の流れを緩やかにし、洪水を緩和したり、魚類やその他の水生・湿地性の野生生物の生息地を創出したりする。
  • 底引き網漁を止めるなどして漁獲による漁業資源への影響を減らし、海の生物が回復して繁栄できるような適切な海洋保護を行う。
  • 生物多様性の向上や、自然界の炭素循環を機能させるため、コンブ林、海草、カキ養殖場などの主要な海洋生態系を復元する。

再野生化への賛否

再野生化については賛否両論が巻き起こっている。WWFがまとめた否定的な反応は以下の通り。

  • 再野生化は農業の停止や農村から人を追い出すことを意味するのではないかという懸念。
  • 再野生化は伝統的な農村の生計や生活様式、特に高地における畜産業への攻撃を意味するという考え。
  • 再野生化は「植民地的」なアプローチであり、外部組織による土地の買収などを通じて、農村地域の支配権が地域社会から奪われるのではないかという懸念。
  • オオカミやオオヤマネコなど、捕食動物や相互作用の強い種を再導入する再野生化の形態に対する懸念。
  • 再野生化が未来に向かって前進することではなく、過去の特定の地点に戻ることを意味する、という意味合いへの反発。
  • 再野生化が食糧安全保障に影響を与えるのではないかという懸念。

地元住民と十分な協議を行っていない再野生化プロジェクトでは、このような懸念がさらに悪化しているケースもある。

WWFは、白黒はっきりつけるといった選択を避け、多くのニーズのバランスをとるといった許容可能なアプローチをとることで、これらの懸念を解消し、対立を緩和できると説明

再野生化の取り組みは、再野生化自体の特徴のように、時間をかけて前へ進めていくものといえる。

冒頭で紹介した通り、再野生化ははじめから人間が介入しないわけではない。従来の保全活動同様、生態系の保存のために人間が介入するが、徐々にその介入度合いを弱め、生態系本来の働きに委ねるのが特徴だ。再野生化に取り組む際は、その地域に関わる人々の懸念に耳を傾け、一つずつ解消していくことも大切である。

私たちにできること

生態系を修復するという再野生化の取り組みは、一見すると敷居が高く感じられるかもしれないが、実際には誰もが参加できるものだ。

たとえば自宅の庭や学校で、自然を主役にする方法を考えてみる。雑草を抜くのではなく、草が生えている場所をあえて残してみる。また、自然のために自分がしていることをどうやったら拡大できるか考えることも、再野生化の取り組みの一つといえよう。地域の自然保護団体と連絡をとったり、彼らが主催するイベントに参加したりするのもいい。

また再野生化を理解するうえで、人間が手を加えた景観の中に自分たちが住んでいることを忘れない、ということも重要だ。花の多い草原などの中には、過去に人間が管理したからこそ存在する場所もある。再野生化は最終的に人間の介入ができる限り少なくなるよう努めるものだが、生態系の修復には一切人間が介入しない方がよい、という考えとは異なることも覚えておきたい。

【参照サイト】Rewilding | WWF
【参照サイト】What is Rewilding? Dave Foreman and The Rewilding Institute Definition
【参照サイト】Defining rewilding
【参照サイト】What is rewilding?
【参照サイト】ブックガイド2:再野生化(リワイルディング)について | 生環境構築史
【参照サイト】Yellowstone Wolf Project




用語の一覧

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行

ま行
や行
ら行
わ行
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
L
M
N
O
P
Q
R
S
T
V
W
X
数字

FacebookTwitter