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シャドウワークとは・意味

シャドウワーク

シャドウワークとは?

誰かが賃労働を行うための生活を維持し、社会・経済の基盤を支えるために必要だが、報酬の支払われない労働のこと。オーストリアの哲学者である​​​​Ivan Illich(イヴァン・イリイチ)が提唱した造語のひとつ。「シャドウ=影」の「ワーク=仕事」であるが、日本では社会学者の鶴見和子によって「影法師の仕事」とも訳されている。似た意味の言葉に、アンペイドワークがある。

専業主婦などの家事労働、妊娠・出産、子育て、介護などをはじめ、通勤やサービス残業、仕事のための自己啓発や、将来賃労働をするために行う学生の勉強なども広い意味でのシャドウワークと言われている。

家事、育児、また介護などは私たちの生活とは切り離せないものであり、社会活動を行う上でも必要不可欠な労働であるが、それに対する報償は支払われず、また社会的に評価されることもあまりない。内閣府によると、主に家事労働を行う専業主婦の仕事は給与換算すると304万円と試算されている(※1)。また日本において妻が家事や育児に費やす時間は夫の7倍とも言われるが(※2)、主婦には休みもなく正当な対価も支払われていない。女性の社会進出や、ジェンダー平等の声が高まるにつれ、近年こうしたシャドウワークが問題視されるようになってきている。

デジタル化する社会の中でのシャドウワーク

一方、デジタル化、DX化する社会の中で、かつては人に依頼をしていた仕事を自分自身でこなすことが増えている。例えば、ガソリンスタンドでは、セルフサービスの形式が普及し、サービススタッフが行っていた給油や窓の清掃は利用者が行うことになった。スーパーなど小売店でもレジにスタッフがおらず、セルフレジで会計を済ませ、自身で袋につめることがあたりまえになりつつある。旅行をする際も、かつては旅行代理店が行っていた様々な手配業務も、今は旅行者がPCやスマートフォンで自らこなしてしまう。

その他、企業の中においても様々なシャドウワークが生まれている。以前は人事スタッフが行っていた勤怠管理を、今は社員自らアプリに入力している。CxOと呼ばれるような役員クラスの人々も、これまで秘書などに依頼していた文書作成の業務などを、各々が自身のPCで対応する。しかしこういった仕事はジョブ・ディスクリプション(職務記述書)に記されている訳でもなく、昇給の対象にもならない見えざる影の仕事だ。

こうしたシャドウワークによって、これまで他人がやっていてくれていた仕事の負担が自分にかかることになり、生産性の低下を懸念する声もある。また、サービス業などにおいて初級レベルの仕事が不要になり、一部の人々の雇用機会が奪われる恐れがある。

まとめ

シャドウワークという言葉を生み出したイリイチは、著書の中で、「シャドウワーク」は「賃労働」の対の存在であり、賃労働を補完するものであると定義している。つまり、賃労働はシャドウワーク無しには成り立たないものであり、また、賃労働とともに生活の自立と自尊を奪い取るものと述べている。

近代産業化が始まり、資本主義や市場経済が誕生する前は、人々は狩りをし、作物を育て、住む場所も自ら作るなど自給自足の生活があたりまえだった。女性も男性と同等の立場で共に暮らしを営んでいたのである。しかし、ひとたびお金を手に入れたことによって、賃金労働が全ての仕事を独占するようになり、それを陰で支えるシャドウワークとともに消費を義務づける支配的構造が作られていった。

そして、現代では行き過ぎた資本主義経済が、格差や、人々の疲弊など様々な歪みを生み出しているのも事実だ。イリイチも問いかけたように、本来人間が行っていた人間らしい暮らしや生活の自立と自尊を取り戻すために、立ち止まって考えてみる時間も必要なのではないだろうか。

※1 「家事活動等の評価について -2011 年データによる再推計」
※2 国立社会保障・人口問題研究所「第 6 回全国家庭動向調査」

【参照サイト】 The New York Times | Opinion | Our Unpaid, Extra Shadow Work
【参照サイト】レタスクラブ | 家事は主婦の仕事? 家事にはなぜ見返りがないの? ゆるっと哲学(7)
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