コモンズの悲劇とは・意味
コモンズの悲劇とは?
誰でも利用できる状態にある共有資源の適切な管理がされず、過剰摂取によって資源が枯渇してしまい、回復できないほどのダメージを受けてしまうことを指した経済学における法則のことである。本来は自然環境の破壊を指して使われていたが、時代が下るとともにより一般化されて「ある個人の利益を求めた合理的な行動が、全体にとっては不利益となること」を指す場合もあり、「社会的ジレンマ」とも言う。
コモンズの悲劇が起きる場合、以下の2つの条件を満たしている必要がある。
- 共有資源が誰でも利用できる状態であること
- 共有資源が希少または有限であること
気候変動に関して言えば、地球そのものが人類にとっての共有資源であり、そこにある大気や水、土地は希少かつ有限である。経済合理性に特化した土地の開発や森林伐採、そして大量生産における温室効果ガスの排出や廃棄物の問題は地球環境の破壊へと繋がるため、コモンズの悲劇といえるだろう。
コモンズの悲劇が提唱された時代背景
コモンズの悲劇の初出は、1968年に発行された自然科学分野の論文誌「Science」に掲載された論文のタイトルで、著者は米国の生態学者、ギャレット・ハーディンである。60年代は発展途上国を中心に人口が急増しており、1965年から1970年における人口増加率は年率2.06%とピークに達した。同時代には、「人口爆弾(1968年)」「人口教書(1969年)」「成長の限界(1972年)」といった人口の急激な増加を危惧する内容の出版物が多数出され、ハーディンが投稿した論文も人口増加を危惧するものだった。
他の著作と大きく異なる点は、コモンズの悲劇がScienceという世界でも屈指の科学論文誌に掲載されていたということである。数式やグラフは一切登場せず、専門用語も少ないため比較的読みやすい形式で書かれている。
牧草地の例と悲劇の意味
ハーディンは論文の中で、コモンズの悲劇の例として牧草地を挙げている。だれでも利用できる牧草地では、利用者はそれぞれが可能な限り多くの牛を飼うことで自らの利益を最大化しようとするが、それが悲劇を生むとしている。
牛を一頭増やすことを考えた時、正の要素と負の要素の両面がある。まず、正の要素としては一頭増やせばその分だけ利益となって返ってくるため、投資に対する個人の利益は1対1の関係である。一方、牛を増やせば減っていく牧草が負の要素である。しかしコモンズ、つまり牧草は共有資源なので、負の影響を受けるのは牛を一頭増やした本人だけではなく、牧草地の利用者全員で分配されることになる。つまり、投資に対する個人の損益は共有する人数が多ければ多いほど少なくなる。
個人の利益を求めて牛を増やそうとすることは利益と損益を踏まえると自然なことであり、合理的な行動である。悲劇とは単なる不幸ではなくて、合理的な行動であるがゆえに起こる無慈悲なものであることをハーディンは強調している。
2つのコモンズと理論的な回避方法
ハーディンが論文で用いているコモンズは、歴史的には英国で始まった牧草地の管理を自治的に行ってきた制度やその土地のことである。しかし、より一般的は解釈だとコモンズには「ローカル・コモンズ」と「グローバル・コモンズ」の2つの種類がある。
地域コミュニティが集団で所有・管理している土地などを指し、無償で利用できるがアクセスはコミュニティのメンバーに限定されていることも多い。
大気や土地、海といった地球を構成している自然環境のほか、電波といった人工的かつ必要不可欠な環境も含まれている。
ローカル・コモンズであれば、そもそもオープンアクセスでない場合が多く悲劇は起こらないとされている。コミュニティで自治管理しており、土地であれば隣接している別のローカル・コモンズとの衝突を避けるためにルール等が存在しているためである。つまり、コモンズの悲劇におけるコモンズとはグローバル・コモンズを指しており、悲劇を回避するには理論的には2つの方法があるとされている。
土地などのコモンズの利用に関しては政府が一元的に管理する方法、または規制することで資源の枯渇や内部でのトラブルを回避することである。政府による計画的な管理によって資源の枯渇は避けられる一方で、利用者の側から不満がでたり、政府の管理によって生産性が上がらないという別の問題が発生する。
コモンズをいくつかの区画に分けて私有地とすることで、それぞれが自身の利益追求のために利用する方法である。しかし、私有化が行き過ぎると本来共有すべき土地や財産まで囲い込んで利益につなげようとするものが出てくる。そうした状況は「アンチ・コモンズの悲劇」とも言われる。
政府による管理への移行は、市場経済と資本主義が根本的なシステムを形作っている現代においては難しい。また、そもそもグローバル・コモンズである大気や海、電波が行き交う空などは明確な境界線が引けず、分割することは現実的ではない。
現代におけるコモンズと現実的な解決策
ハーディンが牧草地を例にとってコモンズの悲劇を権威ある論文誌に投稿して以来、コモンズが指す意味やその範囲は変化しつづけている。90年代に入ると電話機のネットワークに対して、当初は政府によって管理されていたものが小規模の事業者の手にわたったことでそれぞれが付加価値をサービスに上乗せして提供できるようになった。
その後、インターネットという新しいシステムが登場したことで、コモンズの悲劇に関する議論が再び起こり始めた。現代においては、知的財産権の保護と知識の私有化に対してコモンズの悲劇をメタファーとする問題提起がなされている。21世紀に入ると、気候変動問題がこれまで以上に地球規模の課題、そして全人類に関わることが広く認識され始めたことで、引き続き伝統的な意味でのコモンズの悲劇にも関心が集まっている。
2009年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、エリノア・オストロムは、世界各地にある膨大な数のコモンズを丹念に調べ上げ、従来の一元管理もしくは私有化という二元論ではなく、コミュニティによる共有地の自治が可能であること、そして必要不可欠な8つの原理を示している。
オストロムの研究ではローカル・コモンズに限定しており、コモンズの悲劇とは別の問題として内部要因によるコミュニティの崩壊や共有地の破壊が起こる場合もある。しかし、個人の利益ではなく集団の利益を求めることが、社会にとってはプラスに働くという結論は衝撃をもって迎えられ、コモンズ研究を大きく前進させた。
50年以上経った今でも議論が続くコモンズの研究に火を付けたハーディンの論文には、以下の副題が付けられている。
”The Population problem has no technical solution; it requires a fundamental entension in morality.”
技術的な解決策については、困難ではあるものの存在することはオストロムがすでに示してくれた。しかし、全ての事例にオストロムが提唱する原理を当てはめれば上手くいくわけではない。つまるところ、私たち一人ひとりがモラルをもって行動することが求められているのである。
【参照サイト】 The Tragedy of the Commons
【参照サイト】 コラム「アンチコモンズの悲劇?-知識の私有化の光と影-」(独立行政法人経済産業研究所)
【参照サイト】 The Garrett Hardin Society
【参照サイト】 コモンズの悲劇
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