ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは・意味
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは?
すべての人々が、必要な時に必要な場所で、適切な保健医療サービスを経済的な困難なく利用できる状態のこと。適切な保健医療サービスには病気の予防や治療だけでなく、リハビリテーションや緩和ケアといったものも含まれる。生きていくなかのすべての過程において必要不可欠なサービスを受けられることを前提とし、幸福と生活の質の向上を支援することを目指している。Universal Health Coverageの頭文字をとり「UHC」と表記されることもある。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの成り立ち
1948年にWHO(世界保健機関)が設立された際、61か国の代表によって「世界保健機関憲章」が採択された。その中では、健康が基本的人権であることを宣言し、すべての人は立場によって差別なく、達成しうる最高水準の健康を享有できると述べられている。
その後、1978 年の国際会議で、「すべての人に健康を(Health for All)」を世界共通の目標とするアルマアタ宣言が出された。この宣言では、基本的な医療サービスのあり方「プライマリ・ヘルスケア(Primary Health Care:PHC)」の重要性が示されており、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの基礎となっている。
2000年代に入り、MDGs(ミレニアム開発目標)が設定されるなど、保健システム強化の機運が高まり、2005年の保健総会で初めてユニバーサル・ヘルス・カバレッジが提唱された。さらに2012年12月12日、国連総会においてユニバーサル・ヘルス・カバレッジが国際社会の共通目標として全会一致で議決され、2019年9月の国連総会で、歴史的な「UHC政治宣言」が採択された。
また、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)において、MDGsで解決できなかったことや高齢化などの社会的背景も含め、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジはターゲットのひとつとして位置づけられた。ターゲット3.8として「すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・ カバレッジを達成する。」という目標が掲げられ、2030年までの達成を目指している。
実現のために改善すべきこと
こうした国際社会の取り組みにより、少しずつ状況の改善も見られるが、まだまだ目標の達成には程遠い。現在でもなお、世界人口の約半分の人々は基礎的な医療サービスを適切に受けられておらず、また毎年1億人近い人が医療費の負担が原因で貧困に追い込まれていると言われている。医療格差も大きく、都市部と地方・へき地の差や、貧困、女性、障がい者、少数民族など、社会的に弱い立場にある人たちもまた、保健医療サービスを十分に受けられていないのが現状だ。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ の実現には、「保健医療サービスが身近に提供されていること」「保健医療サービスを利用するための費用が障壁にならないこと」という 2 つの環境の達成が求められる。そのためには、医療サービスの質を高めると共に、以下の側面におけるアクセスの改善が重要となる。
1. 物理的アクセス
- 近くに医療施設がなく通えない
- 薬品や医療機器がないため十分な治療ができない
- 住んでいるエリアに医師や看護師がいない
2. 経済的アクセス
- 医療費の自己負担が高い
- 病院までの移動交通費が払えない
- 病気や看病で働けなくなり収入が減る
3. 社会慣習的アクセス
- 知識がなく治療や予防の大切さを知らない
- 家族や周囲の許可が得られない
- 言葉の壁があり受診をあきらめる
日本におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
日本は世界で最も平均寿命が高く、乳幼児死亡率は世界有数の低率国であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現したとして「世界の模範」とも称されている。その背景としては1961年に国民健康保険法が改正され、すべての国民が加入できる国民皆保険制度が確立されたことが大きい。ただ、システムが整っていても、それを支える保健医療人材や環境がなければなかなか普及は難しい。1942年に国保保健婦が誕生し地方医療を支えてきたことや、1973年には当時医学部のなかった県に医科大学や医学部を設置する「一県一医大構想」が導入され、保健医療へのアクセスを改善したことなどが早期の達成につながった。
日本も戦後まもなくは今の開発途上国と同様、もしくはそれ以下の保健医療状態だったが、現在は世界トップレベルの健康指標を有し、平均寿命も30歳以上伸びている。こうした日本の経験を活かし、諸外国での実現の支援にも期待が寄せられている。
日本政府は2015年に「平和と健康のための基本方針」を発表し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進を政策目標や基本方針として掲げている。また、2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、G7として初めて首脳級の会談でUHCの推進を主要テーマに設定。翌2017年には日本政府はWHOやUNICEF(国連児童基金)らと共に「UHCフォーラム」を東京で共催。2030年までに世界でユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成させるための具体的な議論が行われ、国際社会と連携しながら推進をしていくことを表明している。
まとめ
世界が目標として設定した2030年まで、残り時間は少ない。しかし、世界的なパンデミックにおいて、改めて医療制度の不備や社会的な格差、国内や国家間での不平等が明らかになるなど課題は山積みだ。健康はすべての人にとって生活の基盤となるものであり、世界の安全と平和を守ることにつながる。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの「誰ひとり取り残さず医療を届ける(Leave no one behind)」という理念に基づき、持続可能な社会を達成するためには、国際社会が共に手をとり、様々な知見や技術を結集していかなければならない。あたりまえに充実した保険医療サービスが受けられる日本に住む私たちも、人ごとではなく、自分ごととして捉え、積極的に参加していくことが望まれる。
【参照サイト】厚生労働省 | 2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」です。
【参照サイト】FORTH|最新ニュース|2017年|ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(ファクトシート)
【参照サイト】JICA | ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) | 国際協力・ODAについて –
【参照サイト】外務省NGO研究会 | ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と市民社会の取組み
【参照サイト】ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー | UHCとは?
【参照サイト】NCGM NEWSLETTER | Vol.12 2020
【参照サイト】朝日新聞デジタル | ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは?概要を専門家が解説:【SDGs ACTION!】
【参照サイト】WHO | Universal health coverage (UHC)
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