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生物多様性ネットゲインとは・意味

生物多様性ネットゲイン

生物多様性ネットゲインとは

生物多様性ネットゲイン(Biodiversity net gain : BNG)とは、住宅地や商業地の開発で、野生生物の生息地を開発前よりも良い状態にすること。

生物多様性を保全する手法である「生物多様性オフセット」には2種類の呼び方があり、損なわれる環境面の価値の損失を実質ゼロにすることを「ノーネットロス(※1)」、損失分以上の環境的な価値を生みだすことを「ネットゲイン」という。

※1 ネットロスとは、開発によって生物多様性が失われること

生物多様性ネットゲインにおいては、開発業者は、生息地の種類と状態を事前に評価し、植樹などを通して生物多様性を改善する方法を示すことが求められている。近年では、道路、鉄道、空港、発電施設などにおいて行われることが多い。

生物多様性ネットゲインの実施方法

生物多様性ネットゲインの実施にあたっては、開発地(オンサイト)で行われることが望ましいが、ほかの場所(オフサイト)で実施されることもある。また、オンサイトとオフサイトどちらでも生息地の創出ができない場合、生物多様性クレジットを購入できる。クレジットの購入により、自然に根ざした解決策を長期的にサポートすることができるが、あくまでも開発者には生物多様性ネットゲインを達成することが求められており、クレジットでの取引は最終手段であるとされる。

野生生物の生息地の価値を測る方法として、イギリスでは生物多様性指標(Biodiversity Metric)という指標が用いられており、生物学者などの専門家が使う必要があるとされている。この指標は、「生息地の規模」「状態」「独自性」「場所」の4つの要因を用いて、開発の前後で生息地の範囲や特性の比較を実証するというもの。新しい指標であるため、現在に至るまで頻繁に改定が行われている。

環境保全措置の考え方

新たに土地を開拓する際の計画は、段階を踏む必要がある。この段階は、「ミティゲーション・ヒエラルキー(Mitigation Hierarchy)」と呼ばれ、生物多様性の損失を最小限にとどめるためのステップのことを意味する。具体的には、下記のようなものが挙げられる。

1. 回避:事業の中止や、より自然環境を壊さない場所に変更すること
2. 最小化:工事を行う期間・区間・強度をできるだけ少なくすること
3. 修復:事業者が自然の修復力を活用して修復、再生、創出などを行うこと
4. 代償(オフセット):事業地や代替地で新たに保全対象の生息地を創出すること

「ノーネットロス」「ネットゲイン」は、4つ目の「代償」に当てはまる。しかし、大切なことは、開発の際に「ネットゲイン」の選択肢を取ることが、あくまで最終ステップであることだ。後先を考えずに開発をするのではなく、計画の時点で1.2.3の順に検討し、生物多様性の損失を最小限に抑える努力が必要だ。それでも生物多様性が失われるようであれば、オフセットまたはネットゲインを生みだせるようにプランを設計する必要がある。

生物多様性ネットゲインによるプラスの影響

生物多様性ネットゲインの実現は、単に野生生物だけのためではなく、人間、経済、気候変動の3点にとっても良い影響が生まれる。生物多様性が保たれると自然の力での環境回復が期待されるほか、居住地や職場において自然豊かな場所が増えることによって、人々の健康状態の改善やウェルビーイングに繋がる。

土地の所有者にとっては、生息地の管理をすることで長期的な収入が見込めたり、生息地の管理と維持をするための持続的、かつ長期的な資金を生み出すため雇用の創出にも繋がったりする。さらに、生物多様性ネットゲインを通して生息地を回復することで、グリーンファイナンス(※2)として機能し自然資本の資産価値を高めることができる。

※2 空気や水・土の汚染除去、温室効果ガス排出量削減、エネルギー効率改善、再生可能エネルギー事業への投資など、環境に良い効果を与える投資への資金提供を意味する広範囲の概念のこと(大和証券より引用)

また、緑や水辺が増えることで、地域のコミュニティーが熱波や洪水などの気候変動に適応しやすくなるといった利点があるほか、例えば、森林、公園、河川は日よけや冷却効果があり、都市部では、屋上緑化、街路樹などは洪水のリスクを減らすことができるという特徴もある。

まとめ

イギリスを筆頭に、今まさに進められている生物多様性ネットゲイン。これまで多く行われてきた人間中心の開発ではなく、そこに生息する生物の多様性を損なわないという視点を大事に、進めていくことが求められている。

新たに家を建てることを予定している人は、その土地の生物多様性を失わずに「価値を増やす」ためのプランを立ててみるのはどうだろうか。生物多様性ネットゲインに関わる今後の各国の動きに注目したい。

【参照サイト】環境省-環境影響評価における生物多様性保全に関する参考事例集
【参照サイト】国立研究開発法人 国立環境研究所-イギリスで環境・食糧・農村地域省、住宅・商業地の開発で生物多様性ネットゲインを確保する規則案を公表
【参照サイト】NATURAL ENGLAND-Biodiversity Net Gain
【参照サイト】NATURAL ENGLAND- An introduction to Biodiversity Net Gain
【参照サイト】WSP-Biodiversity Net Gain




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