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ブリコラージュ(Bricolage)とは・意味

ブリコラージュ

ブリコラージュ(Bricolage)とは?

その場にあるあり合わせの道具や材料を用いて、必要なものを手作りすること。語源となっているフランス語の動詞「ブリコレ(bricoler)」には「繕う、ごまかす」などの意味の他に「ボールが跳ね返る、馬が障害物を避け道を逸れる」などの意味もあり、偶発的な運動を指す言葉とされている。日本語では「日曜大工」「器用仕事」などと訳されることもあり、またこの仕事や作業を行う人を「ブリコルール(bricoleur)」という。

「ブリコラージュ」はフランスの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)が1962年に発表した著書「野生の思考」の中で示した概念である。彼は南米アマゾン川流域の先住民族を研究していた際に、彼らがジャングルの中を歩いていると、その時には何の役に立つかよくわからないものでも、「いつか何かに使えるかもしれない」とそれを手に入れ持って帰るという習慣に出会った。レヴィ=ストロースはこの「後で何かの役に立つかもしれない」という予測する能力を、予定調和を重んじる科学的思考と対比させ、「野生の思考」と呼び、人類の根源にある普遍的な思考であると説いた。

ブリコラージュとエンジニアリング

ブリコラージュと対比する言葉として取り上げられるのが、エンジニアリングである。
ここではブリコラージュとエンジニアリングの違いを簡単に説明する。

ブリコラージュ

  • 神話的・呪術的性格を持ち、具体の科学と言われる
  • 目の前にあるものを観察しながら、仮説的に組み立て、やりながらゴールに近づけていくという方法。グランドデザインを作らない
  • 「ゆらぎ」や「ズレ」が生じることを前提とする

エンジニアリング

  • 近代西洋の科学的思考(栽培思考)を持つ。概念の科学とも言われる
  • ゴールを設定し、全体から必要なものやことを逆算していく方法。設計図などを必要とする
  • 予定調和的結果を求める

この2つの概念を説明するのに取り上げられるのが料理だ。エンジニアリングはいわゆるレストランの料理で、メニューが決まっていて、レシピがあり、それを作るための材料を仕入れて調理する。一方で、ブリコラージュは家庭料理で、冷蔵庫の中にあるあり合わせの材料を使って、これといった名前はないが最終的においしい料理ができあがる、という違いである。

なぜブリコラージュが注目されているのか

現代は経済危機や戦争、加速度的に深刻化する環境問題、パンデミックなど急激に変化する予測困難な時代に突入している。17世紀以降、人類の発展を支えてきた科学的思考だけでは予想や対応ができないことも起こりうる。そうした中で改めて見直されているのが、このブリコラージュの概念である。

最近、企業経営や組織づくりにおいて「レジリエンス(回復力・復元力)」や「アジャイル(敏捷性)」などの重要性を説く声もあるが、このブリコラージュは、まさに状況に応じたしなやかな対応や、その場にあるものでの素早い対応を可能にする。また既存のリソースを型にはまらない方法で活用するこのアプローチは0から1を生み出すクリエイティブな作業や、イノベーションを起こすのに最適と言われている。さらに、すでにある材料や素材を別のものに応用・活用するという考え方はサステナブルな観点からも注目されている。

ブリコラージュ的思考による事例

では、このブリコラージュの考え方に基づいた取り組みにはどういったものがあるだろうか。いくつかの事例を紹介する。

日産自動車 コンテンポラリー ライフスタイル ビークル(CLV)

作りたいクルマから逆算して設計するのではなく、まずはクルマを徹底的に観察することから始めてつくられた「CLV」。サイドミラーゴミ箱、スライド式テーブル、着脱式ディスプレイ、フルフラットベッド、屋外シアタースクリーン&プロジェクターなど、約30の仕掛けが施されたプロトタイプセダンだ。「食べる」「寝る」「遊ぶ」という日常の体験を可能にする仕掛けを盛り込み、外見からは想像できない機能を実現したことで、消費者に驚きと楽しさを与える新たな価値観を生み出した。これを手掛けた上田哲郎氏(モビリティ&AI研究所 エキスパートリーダー)は、「観察や固定概念に囚われない発想により、すでに存在するものから新たな可能性を見つけだし、より快適な体験の提供に繋げることもイノベーション」と語る。

▶︎日産自動車
YouTube:現代の「食べる」、「寝る」、「遊ぶ」仕掛けを備えた 「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」

GoPro

小型アクションカメラとして人気の「GoPro」。その開発のきっかけは、創業者であるニック・ウッドマンのある気づきにあった。ニックは、サーファーの間で「自身がサーフィンをする姿を自ら撮影したい」というニーズがあることに気づく。そこで彼はサーフィンをする際、ゴムで手首にカメラを固定して自身の姿を撮影してみることにした。この経験から、既存のカメラと防水ケースにリストバンドを付けて手首に装着できる「GoPro」ファーストモデルを開発したのだ。こうした発想と身近にあるものを利用した創意工夫から誕生した「GoPro」は、現在ではスポーツシーンのみならず、撮影が難しいとされている場所での決定的瞬間を捉えるカメラとして世界中で活用されている。

▶︎GoPro

トム・サックス「Tea Ceremony」

トム・サックスは、身の回りの素材や道具を使って作品を創造する「現代のブリコルール」とも呼ばれるアーティスト。彼のアート「Tea Ceremony」シリーズは、例えば、段ボールで彫刻や灯篭を作ったり、綿棒を葉に見立てて松の木を作ったりと、世界のどこででも手に入るような日常品や素材などを用いて茶道具や茶室などを創作したものだ。これは茶道が富裕層やエリートが好むものになっていることに対して、本来の茶道の精神を再定義したアンチテーゼでありながら、ブリコラージュの概念にも通じる千利休が理想とした「見立て」の世界感を、遊び心を持って表現したものである。

▶︎Tom Sachs

まとめ

レヴィ=ストロースが説いた野生の思考に基づく「ブリコラージュ」は、本来人間が持っている知恵であり、生きる術ではないだろうか。西洋の科学によって合理性を追求し、自然と文化の間を大きく分断する思考に支配されがちな私たち現代人にとって、「ゆらぎ」「ズレ」「遊び」を良しとするブリコラージュ的発想を持って、今後の社会や文明のあり方を見つめ直す必要があるのかもしれない。

【参照サイト】The Economic Times | entrepreneurs: Bricolage, a valuable tool for new-age entrepreneurs
【参照サイト】トム・サックスがD.I.Y.で表現した、茶の湯を取り巻く世界──「ティー・セレモニー」展。
【参照サイト】自撮りの達人!?「GoPro」創始者ニック・ウッドマンの成功秘話。




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