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コミュニティガーデンとは・意味

コミュニティガーデンとは?

コミュニティガーデンとは「地域の庭」を意味し、地域に住む個人またはグループが自主的に集まって花や野菜、果物、ハーブなどの植物を栽培するオープンスペースのこと。またはその活動や取り組みを指す。

行政が主体となって運営する公園などの公共スペースとは違い、地域コミュニティが中心となって場所の選定から企画、設置、運営、維持管理までを行うことが特徴だ。行政の支援を受けながら取り組みが進められることもあるが、基本的には地域住民の自発的な活動によって運営される。

その定義は幅広く、街角の花壇や公園、建物の中庭や屋上、学校や病院などの共用スペース、空き地や未使用スペースを活用した畑、都市型農園など、場所も大きさも形も地域によって多様だ。地域住民の誰もが参加できる公共の栽培スペースのほか、個人に一部分の区画を貸し出して植物栽培の機会を提供する半プライベートスペースが設けられている場合もある。

また自然の生態系や食について学ぶ教育スペースやイベントスペース、心身疾患を持つ人の治療や治癒サポートとして設計されたセラピューティック・スペースなどが設けられている事例もある。

コミュニティガーデンは地域住民の交流の場となるだけでなく、治安、高齢者保護、空き地対策、食糧安全保障、健康、環境、教育などにおいて様々な効果が期待できることから、持続可能な都市政策・環境再生・地域活性化の手段のひとつとして、近年、世界的に注目されている。

コミュニティガーデンの歴史・動向

コミュニティガーデンは1970年代にアメリカのフィラデルフィアやニューヨーク、サンフランシスコを中心として始まったといわれている。当時、不景気から街全体が荒廃しゴミや犯罪の温床となっていたニューヨークにおいて、一人の女性が周囲に働きかけてごみを撤去し、木や花を植えて空き地を再生したことがきっかけとなり活動が広がったとされている。

ヨーロッパには古くから都市部で農地をリースし共有する「市民農園」が存在しており、コミュニティガーデンとの類似点もある。その違いとしては、コミュニティガーデンはより公共の栽培スペースが中心となっており、誰でも、いつでも参加できる形で運営されることが多いことが挙げられる。

日本では少子高齢化が進み人口減少社会に入ったことで、公共スペースの利用ニーズの見直しや、管理状態が悪化しつつある空き地活用策の一つとして近年、注目度が高まっている。

コミュニティガーデンの役割・機能

コミュニティガーデンは、単なる植物の栽培スペースには留まらない様々な役割・機能がある。

地域コミュニティの交流の場

様々な年代、背景の人が集まり、コミュニケーションを取りながら、共に作業をする場所や機会を提供する。特に地域コミュニティとのつながりが希薄化している都市部においては、住民同士の貴重な交流の場となる。

食料供給の場

野菜や果物をはじめとして、コストやエネルギー負荷の低い地域の食料生産の場となりうる。また欧米では、都市に住む人が気軽にオーガニック野菜などを栽培するスペースとして活用されることもある。

世代を超えた学びの場

子どもには自然・環境学習や食育の場となり、社会的弱者にとっては職業訓練、高齢者にとっては庭づくりやコミュニティ交流を通しての生きがい作りや生涯学習の場となる。

災害対策

空き地などを活用した一定サイズ以上のコミュニティガーデンは、災害時の避難場所としても機能するほか、近隣の助け合いの場、情報交流の拠点となりうる。また火災時の延焼防止対策にもなる。

都市の緑化、美化

コミュニティーガーデンは空き地や未使用のスペースを活用して都市の緑化向上につなげられるほか、生態系の維持・保全、景観の改善などの役割も果たす。

コミュニティガーデンのメリット

コミュニティガーデンはビジネス型の都市農園などとは異なり、地域住民の自主的な活動を中心に運営されることから、少ないコスト・リソースで地域社会や環境に大きな利益をもたらすことができると言われている。コミュニティガーデンによりもたらされる社会的・環境的メリットとしては、以下のようなものがある。

より強力で安全なコミュニティの構築

コミュニティガーデンが社会交流のきっかけとなって住民同士のつながりを生み、地域愛を育みながらコミュニティへの帰属意識や結束感を高めることができる。また高齢者には外出機会の創出につながるほか、地域の治安改善・向上の効果も期待される。

食文化の充実と食糧安全保障の強化

コミュニティガーデンにより、地域住民がより安全で健康的な食料を低コストで確保することができるほか、都市部の人も地元で採れた新鮮で安全な農産物を口にすることができるようになる。貧困地域においては食糧不安や、食習慣の悪化による健康問題への対策としても活用が期待される。

心身の健康改善、向上

植物栽培を通して体を動かすことは健康上のメリットも多く、高齢者の歩行機能やバランス感覚の維持、認知機能の低下防止などにも役立つ。また自然に触れる機会が精神的な癒しとなり、ストレスレベルが軽減されて幸福感が高まり、精神疾患の緩和や予防にもつながると言われている。

環境課題の解決と持続可能な地域づくり

コミュニティガーデンは緑地を増やすことにより、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出削減、大気汚染やヒートアイランド現象の緩和、生物多様性の回復、土壌や自然環境の再生など、環境にも様々な効果が期待できる。また有機栽培の促進や、生産地と消費地を近づけることにより、食料輸送にかかるCO2(フードマイル)の削減などにもつながる。

海外のコミュニティガーデン事例

コミュニティガーデンの取り組みは、アメリカやヨーロッパをはじめとして世界各地の地域に広がっている。その中でも、実際に環境や社会課題の解決策として機能し、注目された例をいくつか紹介する。

米国「クリントン・コミュニティガーデン」

地域住民によって1978年に、ニューヨークのマンハッタン、ヘルズキッチン地区内の28年間放置されていた空き地を利用して設立されたコミュニティガーデンだ。110に分かれた個別の庭区画と公共の芝生、花壇、ハーブ栽培エリアが広がり、住民によってミツバチの飼育も行われているほか、60種類以上の野鳥の生息地にもなっている。

庭園内では教育ワークショップや美術展示、地域イベントなども開催され、地域コミュニティ活性化や持続可能な都市生活の拠点として機能している。

英国「ハルム・コミュニティガーデン・センター」

英国・マンチェスターの貧困地域に位置し、非営利団体が中心となって持続可能な方法で調達された低価格の植物や環境にやさしい園芸製品の販売も行われている。

様々なボランティア活動やトレーニングセッション、教育プログラムが実施されており、地元住民に園芸スキルや雇用の機会を提供する場としても機能している。

ナイロビ「キベラ・オーガニック・ガーデンズ」

ケニア・ナイロビ最大のスラム街に設置された都市農園で、住民たちの食糧不安やスラムの若者の失業問題の解決策として取り組みが進められている。

住民は肥料や土、排水のための石が入った袋の中で農作物を栽培する「サックガーデン(袋農業)」と呼ばれる方法でケールやほうれん草、トマトなどを育てており、低コストで安全な食料の確保、住民の収入向上、生活の安定などにつながっている。

オランダ「デ・グルーネ・ゾン」

オランダ・ハーグの住民によって運営されているコミュニティガーデン。パーマカルチャーの原則に基づき、全ての人、動植物、自然が共生していくことを目指して、住民が世代を超えて野菜や果物などを栽培している。ガーデン内で採れた農作物は近隣住民だけでなく、通りすがりの人も必要であれば持ち帰ることができるという。

日本のコミュニティガーデン事例

一方、日本では遊休地の有効活用や、地域活性化・まちづくりの一環としてコミュニティガーデンの取り組みが進められている事例が多い。高齢化社会の中で日本の多くの自治体が抱える過疎化、空き地問題、地域のつながり希薄化、高齢者の孤立など、様々な地域課題の解決策として期待が高まっている。

横浜市「今宿コミュニティガーデン」

神奈川県横浜市の住宅地で、残土置き場となっていた市有地に作られたコミュニティガーデン。横浜市旭区との協働でまちづくりを検討・実践する「まちづくりサロン」において、2004年に提案が受理され活動が始まった。当初、不法投棄のごみに溢れ、ソバしか育たなかったという貧しい土壌が今では農薬を使う必要がなくなるまでに肥沃になったという。

庭園内は農園ゾーンとイベントゾーンに分かれており、コンポストや雨水タンクなども設置されている。収穫祭、ハーブティーサロン、押し花教室、蕎麦打ち体験など、季節ごとに様々なイベントが開催され、収益はコミュニティガーデンの維持費用として活用されている。

東京都墨田区「たもんじ交流農園」

東京都墨田区の北部に位置し、NPO法人の寺島・玉ノ井まちづくり協議会によって運営されている。江戸野菜である「寺島なす」を活用した地域活性化プロジェクトから活動が始まった。収穫された茄子は地域住民や飲食店に提供されているといい、資金は助成金やふるさと納税を用いたクラウドファンディング、ナスの苗や収穫物の販売などで賄われている。

庭園内は大きな農園区画のほか、花壇、芝生、ウッドデッキ、ピザ窯なども設置されており、じゃがいも掘りや季節ごとの収穫祭、ピザ作りイベントなども行われる。

富山市「街区公園コミュニティガーデン事業」

富山県富山市では、高齢化や人口減少により利用者も管理費も減少し、再整備できずに使われなくなる公園の利用ニーズ見直しを背景に、2013年に市民協働型のコミュニティガーデン事業がスタートした。

公園愛護会の主導のもと、市内の様々な地域の街区公園内に花壇や畑が設置され、野菜や花などが栽培されている。コミュニティガーデンは近隣小学校の授業で活用されることもあるほか、収穫された農作物は児童クラブや地域の夏祭りやクリスマスパーティに使われているという。その他、地域の老人クラブが主体となって介護予防センターなどでもコミュニティガーデン活動が実施されている。

コミュニティガーデンの課題

コミュニティガーデンはあらゆる環境問題や社会課題の解決策となりうるが、設置・運営の過程で様々な課題に遭遇する可能性もある。例えば、しばしば起こりうる問題として挙げられるのは、コミュニティガーデンに適した土地の確保、資金やリソース不足、また参加メンバーの意欲維持や対立の防止などだ。

土地の確保については自治体と協力したり、学校やコミュニティセンター、民間企業などと提携して土地を利用させてもらうといった対策が考えられる。また資金やリソース面に関しては助成金を利用したり、コミュニティメンバーで協力金や寄付を募ったりといった対策が有効だろう。行政も地域住民が活動を気軽に始めて継続していけるよう、さまざまな制度を検討しながら積極的に支援していくことが大切だ。

また地域住民が主体となって行われる活動だからこそ、円滑な関係性を維持していけるよう、住民同士の定期的なコミュニケーションを図り、対立を最小限に抑えながらコミュニティを長期的な視点で管理・育成していく努力も求められる。

その上で、それぞれの地域ごとに適した形で、まちづくりやコンポスト、雨水管理、有機農業、土壌保全、教育の機会づくりといった持続可能なコミュニティガーデンの運営を模索していくことが好ましい。

コミュニティガーデンのこれから

コミュニティガーデンは現在、社会全体として薄れかけているコミュニティ意識を回帰させながら、地域社会のつながりを育み、人々が自然と共生しながら本来あるべき姿で心地良く暮らしていける環境・社会づくりの一端を担うことができるかもしれない。

実際の事例にもあるように、一つの地域の小さな庭から始まった活動がより広域に広がっていけば、町全体、国全体の再生や活性化につなげていくことも可能となるだろう。

しかし、コミュニティガーデンはあくまで地域住民の自発的な行動があってこそ成り立つ取り組みだ。住民の意思がないところにトップダウンで場所だけを整備しても、先述したような環境や社会へのメリットはもたらされない可能性が高い。

これからの時代にあった都市空間の形成や、まちづくりのあり方として、住民の意欲を引き出し見守る形で政府や自治体、民間企業、NPOなど各種機関が柔軟に活動をサポートしていけることが望ましい。

【参照サイト】What Is Community Garden
【参照サイト】Community Gardens
【参照サイト】American Community Gardening Association
【参照サイト】How to grow food in a slum: lessons from the sack farmers of Kibera
【参照サイト】今宿コミュニティガーデン友の会
【参照サイト】NPO法人による空き地活用型コミュニティガーデンの設立経緯と運営方法
【参照サイト】農作物栽培を取り入れた富山市街区公園コミュニティガーデン事業
【関連記事】都市農業とは・意味




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