データ・デバイドとは・意味
データ・デバイドとは?
データ・デバイド(Data Divide)とは、データ活用に関する格差のこと。近年、大量のデータを分析するビッグデータやアナリティクス、AIなどの技術発展が進んでいる。その一方で、資金、人材、技術を確保できず、十分なデータ利活用が進んでいない分野や、国、業種、組織もある。
例えば先進国と発展途上国間、営利企業と民間団体、大企業と中小企業との間、人種や所得の差などによって格差が生じやすい。また、効率・収益性・顧客満足度・株主価値などの観点からデータを積極的に活用して商業的価値を追求するビジネス分野に比べ、環境問題や社会問題に関するデータの利活用が少ない傾向にある。
気候変動、貧困、人種や男女間の不平等、公衆衛生といった環境・社会課題は緊急性が高く、データ活用によって課題解決の可能性を広げることが期待されているにもかかわらず、データ・デバイドによって対応に遅れが生じ、さらなる不平等の拡大につながる恐れがあると専門家達は警鐘を鳴らす。
現在も残る情報格差(デジタル・デバイド)
データ・デバイドと関連するコンセプトに、「デジタル・デバイド(情報格差)」がある。インターネットが普及し始めた1990年代以降、地域差、所得差、教育差などを理由に、個人、国、人種、組織、国家間などで通信設備の普及や、情報機器の購入機会、情報機器に関する知識・技術の格差(デジタル・デバイド)が生じていたのだ。
こうした格差はさまざまな機会や所得格差の拡大につながる恐れがあることから、世界的に問題視されてきた。しかし、IT講習や資格習得支援といった政府、民間企業、市民団体の様々な取り組みにもかかわらず、約30年経った現在も、デジタル・デバイドが解消されたとは言い難い。
2021年の国連総会で行われたデジタル協力に関する討論では、依然として世界人口の約半数である37億人がインターネットに接続できず、その多くが発展途上国の女性だとする数字も明らかにされた。こうしたデジタル・デバイドと同様に、データ管理・分析・利活用において新たに生まれている格差がデータ・デバイドである。
データ・デバイドの背景と現状
ビッグデータやアナリティクスへの投資規模は、世界的に拡大傾向にある。IDCの調査(※1)によると、2021年の投資規模は215億ドル(約30兆円)を超え、前年比で10.1%の増加だという。業種別では、金融業、ディスクリート型製造業(組立製造業)、プロフェッショナルサービス業の上位3業種が全体の3割を占め、プロセス型製造業、通信業、政府系がその後に続く。国別では、米国が半数を占め、続く日本や中国は5%前後である。
このように、ビジネス分野でのデータ利用が急速に拡大している一方で、気候変動や教育や健康分野における不平等といった社会課題解決のためのデータ利用は比較的少ない。その一因として、非営利団体等のリソース不足が挙げられる。IBMの調査(※2)によると、非営利団体の67%が、データを活用するための専門知識やリソースを持っていないと回答した。また74%が、予算の不足が主な障壁の一つだと挙げている。政府や公的機関にも、同様の傾向が見られる。
PwC(※3)によると、2030年までにAIによって生み出される経済利益のうち、70%を北米と中国が占める可能性が高いという。現状、世界のハイパースケール・データセンターのほぼ3分の2がこの2地域に集中しているといい、データクラウド・インフラ拠点のほとんどが先進国に偏っている。こうした国家間のリソースの格差がデータデバイドを深刻化させ、さらなる経済格差の拡大につながるとの懸念もある。
データ・デバイドの原因
分野、国、組織間で生じているデータ・デバイドの原因として、大きく以下の点が挙げられる。これらは90年代のデジタル・デバイドの原因と共通する点も多いという。
データの入手やアクセスが困難である
膨大なデータの収集、保存、分析、活用のための技術やインフラ不足から、データそのものの入手やアクセスができない。国際電気通信連合(ITU)の調査(※4)によると、世界の最貧国では、ほぼ3分の2の人がデータへのアクセスが制限されている状態だという。
また、アクセスできるデータの品質にも格差が生じている。発展途上国や小規模な組織、非営利団体などでは、最新性、包括性、正確性が高くないデータにしかアクセスできない場合がある。
データを分析・利用するための資金、技術、知識を持っていない
データテクノロジーが急速に進化する中、発展途上国や小規模な組織では、煩雑化する技術やツールを使いこなすためのリソースや専門知識、人材が限られている。最新テクノロジー導入のための資金もなく、経済的格差からもデータ活用格差が広がってしまう。
データ分析やデータ管理に必要な投資をしていない
官民や分野、業種を問わず、上層部が目先の利益優先で、データ利活用に向けた長期的な視点での技術・知識・人材への投資を実施していないことも原因の一つとなりうる。
コミュニケーションの壁
国・政府・企業・組織間、技術チームと経営陣、その他関係者間の認識の違いやコミュニケーション上の障壁によりデータ活用が進まないこともある。
例えば、ITテクノロジーに精通したミレニアル世代やZ世代が社会課題解決へのデータ活用を訴えても、上部の経営陣によって営利優先、株主優先の判断が下されてしまう場合などだ。
データに基づいた、実行可能な解決策の事例が少ない
まだ環境や社会課題の解決にデータ活用がもたらす可能性を証明する事例が少なく、企業や組織にその重要性や有効性を広く認識させることができていない。
データ・デバイドの解決に求められること
データ・デバイドを解決するためには官民問わず、あらゆるセクターが国や分野、組織の垣根をこえて協力し、以下のような取り組みを進めていくことが求められる。
データ・デバイドの原因に関する理解の醸成
根本的な原因を理解した上で、その解決に向けた実行可能なアプローチを見つけていくこと。データ・デバイドにおける課題をさまざまな角度から調査・研究することが格差解消の第一歩だ。
データ利活用に取り組む非営利団体への技術支援及び人材支援
環境や社会課題に取り組む非営利団体などに対し、データを広く有効利用できるようにするための技術やツール、人材、資金、リソースを提供したり、拡充のための支援を行ったりすることが望ましい。
データ・デバイド解消に取り組む市民団体や企業への投資
データデバイドの大きな要因となっている資金やリソース不足解消のため、各政府や組織が広く連携して協力し、データデバイド解消に取り組む市民団体、非営利団体、スタートアップなどに積極的に投資することも有効だ。
データリテラシーの高い人材の育成
データ活用が進んでいない組織が適切にデータを取り扱えるよう、データ活用の先進企業がトレーニングの機会やサポートを提供し、データリテラシーの高い人材育成を進めることも必要だ。
データアナリティクス技術を持つ企業と、市民団体、政府間のパートナーシップ構築
データアナリティクス先進企業と市民団体、政府が密接に連携し、データシステムやツールを広く共有していくことで、アクセシビリティやデータの品質、データ活用技術を互いに高めていくことができる。
データに基づいた解決策の設計
非営利団体に限らず、企業や自治体も気候変動や貧困、人権問題、公衆衛生といった世界的な社会課題の解決に、ビックデータ、機械学習、AIといったデータ技術をどのように活用できるのかを積極的に議論していくことが大切だ。
データ・デバイド解消に向けた取り組み
90年代から国際的な格差問題として話し合われてきたデジタル・デバイドに関連して、近年データテクノロジーの急進により表面化してきたデータ・デバイド。その解決に向けてはグローバルな取り組みが広がりつつある。
世界銀行グループ
国際金融機関の世界銀行はデータデバイド解消に向けて、発展途上国のデータへのアクセシビリティ改善などを中心に、さまざまな支援プロジェクトや技術サポート、融資、人材育成、オープンデータの提供などを行っている。
また、発展途上国の公衆衛生や男女格差の是正に向けたデータ活用のための研究なども進めている。
マイクロソフト
グローバルIT企業のマイクロソフトも、市民団体、政府、企業と協力しながらオープンデータ化と、誰もがデータを使いやすくするためのテクノロジー、ツール、ガバナンスメカニズム・ポリシー作成への投資を進めている。
また政府のデータ共有や経済戦略へのデータ活用などを推進するため、ニューヨーク大学のThe GovLabと共同でOpen Data Policy Labを立ち上げたり、ロンドンの自治体が運営するオープンデータ・イニシアチブである「ロンドン・データ・コミッション」と提携したりしている。
Splunk
アメリカのソフトウェア会社Splunkは、世界の非営利団体や教育機関にソフトウェアライセンスやトレーニング、サポートを無償で提供する取り組みを行っているほか、持続可能性、平等、労働力開発などの課題に、データを活用したソリューションでアプローチするスタートアップ企業への投資を行っている。
格差解消とデータ活用のこれから
資金、人材、技術等のリソースの格差が生む、新たな格差。インターネット普及当時から指摘されてきた情報格差(デジタル・デバイド)に留まらず、データ利活用の格差(データ・デバイド)として、更なる格差を生もうとしている。
気候変動や貧困といった喫緊の課題の最前線に立たされている発展途上国や課題解決に取り組む組織ほど、データへのアクセスが制限されている現状にあり、データ・デバイドはあらゆる社会課題の解決を妨げる根本的な要因にもなりうる問題だ。
技術革新がさらに進み手遅れとなる前に、格差が表面化し始めたばかりの今こそ、早期の段階で隔たりを埋める柔軟な取り組みが求められているのではないだろうか。
環境や社会課題の解決に向けた、データ利活用の将来的な可能性や期待は大きい。タンザニアでデータ活用によって国の貧困データの正確性が高められた事例や、ニュージーランドで児童保護システム革新にAIが活用された事例、インドでの洪水予測へのデータ活用など、あらゆる試みも始まっている。
持続可能で公平な社会実現のため、国、政府、企業、市民団体などあらゆる機関が連携し、データを公平に活用できる環境を整えていくことが求められている。
※1 Global Spending on Big Data and Analytics Solutions Will Reach $215.7 Billion in 2021, According to a New IDC Spending Guide(IDC)
※2 Leap before you lag: Nonprofits with deeper data capabilities see stronger impact,transparency and decisions (IBM)
※3 Sizing the prize PwC’s Global Artificial Intelligence Study: Exploiting the AI Revolution (PwC)
※4 Facts and Figures: Focus on Least Developed Countries | March 2023 (ITU)
【関連記事】情報格差(デジタルデバイド)
【参照サイト】The ‘data divide’ is a new form of injustice. Ending it could help us meet humanity’s greatest challenges(Fortune)
【参照サイト】より公平な未来に向けた、「データ・デバイド」の解消とは(世界経済フォーラム)
【参照サイト】The Data Divide Is Real, And Could Be Highly Destabilizing(Forbes)
【参照サイト】デジタルデバイドとは? 格差解消に向けた取り組みの可能性と課題(日経ビジネス)
【参照サイト】Toward Bridging the Data Divide
【参照サイト】With Almost Half of World’s Population Still Offline, Digital Divide Risks Becoming ‘New Face of Inequality’, Deputy Secretary-General Warns General Assembly
【参照サイト】Closing the data divide: the need for open data
【参照サイト】DATA DIVIDE PART 1: WHAT IS THE DATA DIVIDE?
【参照サイト】Bridging the data divide
【参照サイト】From Data Divide to Data Dividend Harnessing the benefits of government data to solve societal challenges
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