Browse By

デジタルインクルージョンとは・意味

デジタルインクルージョン

デジタルインクルージョンとは?

「デジタルインクルージョン(Digital Inclusion)」とは、人の属性(人種、居住地域、所得、家庭環境、年齢、障害の有無など)にかかわらず、誰もがあらゆるデジタルテクノロジーを安全かつ自由に活用できるようにする考え方のこと。

「インクルージョン」は日本語では「包摂」「受容」などと訳される言葉で、誰かが日常的に不利益を被り続けたり、社会から取り残されたりすることのない状態を意味する。日本では高齢者や障害者、そして経済的な理由などからの情報弱者支援の文脈で使われることも多い。

デジタルインクルージョンはなぜ大事なのか?

デジタルインクルージョンが重視されるようになった背景には、深刻な情報格差(デジタルデバイド/Digital divide)の問題がある。

近年、日常生活の様々な場面で、AI、ロボット、SNS、QR決済などのデジタル技術が活用され、便利になっている。一方、「スマートフォンやパソコンを持っていない」「インターネットへのアクセスができない」「デジタルスキルを持ち合わせていない」などの理由で、その恩恵を享受することができない人も多い。

年配の方が携帯の操作が分からなくてショップに駆け込むしかなかったり、訳もわからずウイルスに感染したり、SNSアカウントが乗っ取られたりする例などは、わりと身近だろう。他にも、身体的な理由ですぐに安全な情報にアクセスしづらい人や、家庭環境によってデジタル機器に触れにくい人などもいる。

このように、デジタル機器やテクノロジーに「アクセスできるかどうか」の差や、アクセスしているテクノロジーや情報の「質」において生まれる差のことを「情報格差」と言う。

情報格差は、教育的、経済的、そして社会的な格差を生む一因にもなっている。以下は、デジタルテクノロジーにアクセスできない人が被りうる不利益の一例だ。

  • パソコンを使えないために高収入の仕事に就きづらい
  • インターネットを通じた求人を閲覧できず、働き口を見つけることが難しい
  • オンライン授業の参加や宿題の提出ができず、勉強についていけなくなる。成績が悪化し、将来の仕事の選択肢の幅が狭くなる
  • ネットで流れてくる情報を知ることができず、災害やテロなどの緊急時に迅速な対処ができない

こうした情報格差から生み出されるさまざまな場面での不平等を是正するため、早急にデジタルインクルージョンを推進することが求められているのだ。

デジタルインクルージョンは地球規模の課題の1つとなっており、2019年6月には、国連事務総長の任命した20人編成のパネルが、デジタルテクノロジーへのアクセスの格差による負の影響を最小限に抑えるよう、緊急な協力を要請する報告書を提出。

「誰一人取り残さない」ことを重視するSDGs目標の達成のうえでも、デジタルインクルージョンは大切であると伝えた。また、ビジネスの世界でも、デジタル系の企業を中心にデジタルインクルージョンを実現するための取り組みが進められている。

デジタルインクルージョンに取り組む事例

海外の事例でいうと、2008年にメキシコでNPO団体Fundación Proaccesoを設立した、アレフ・モリナーリは、インターネット接続やコンピュータを所持していない人々のための教育センターを創設。低所得コミュニティの社会的・経済的発展を支援した。

電機メーカー・NECは、自社のビジョンに「Digital Inclusion」を掲げ、生体認証技術やAIによる機械学習を社会課題解決に役立てている。

通信機器メーカー・ファーウェイは、自社のSDGs目標に沿って「デジタルインクルージョン」に取り組んでいる。ユネスコなどのパートナーと協力して、さまざまな地域の人々が質の高い教育を受け、デジタル化に取り残されないようにしたり、60カ国以上の遠隔地に住む5,000万人がモバイルインターネットサービスにアクセスできるように環境を整えたりしている。

また、Webサイトの作成サービスを提供するWix.comは、2021年にウェブアクセシビリティの確保を支援する業界初のアクセシビリティツールを提供開始した。障害のある人にとってのサイト上のアクセシビリティの問題を発見し、それをどう改善していくかまでを段階的に指示してくれるツールだ。また同社の公式ウェブサイトでは、誰にとっても読みやすい、使いやすいサイトにするための「アクセシビリティガイド」も掲載している。

WixのWebサイト

日本では、2021年に総務省が、デジタル活用に関する理解が十分でない高齢者などを対象とした事業である「デジタル活用支援推進事業」を実施。これを受けてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが、高齢者層向けのスマートフォン講座を展開。オンラインによる行政手続きやサービスの利用方法などを教えている。

「デジタルインクルージョン」の課題と今後

デジタルインクルージョンを実現するためには、「手ごろな価格でインターネットに接続できる環境の整備」や「デジタルスキルやデジタルリテラシーの教育」「ソフトウェアの多言語対応/障がい対応」などの取り組みが必要となる。

デジタルインクルージョンの課題は、関係者間の連携だ。コンピュータ、スマートフォンといった物品や教育機会の提供には、時間もコストもかかるため、1つの団体だけでは対処しきれない。政府、企業、市民団体など様々な立場の関係団体が連携し、それぞれの強みを発揮しながら支援する必要がある。

また、「コンピュータやスマホが使いこなせないのは本人の学ぶ努力が足りないからだ」「個人の問題なのでは」と捉えられてしまい、サポートが進まないこともある。しかし実際のところ、デジタルテクノロジーにアクセスできない背景には、貧困、地域、言語、年齢、障がい、教育機会の欠如など様々な問題があり、個人の努力ではどうにもならないことも多い。個々人に責任を押し付けるのではなく、様々なセクターで協力し合いながら、すべての人の包摂を目指していく必要があるのだ。

デジタル化自体は、SDGs目標で取り上げられるすべての課題の解決策になる可能性も秘めている技術だ。あきらめずに「デジタルインクルージョン」を進めれば、多くの社会問題の解決につながっていく。SDGsの「誰も取り残さない」という信念にもつながる「デジタルインクルージョン」は、今後ますます重要になるだろう。

【参照サイト】Wix – ウェブアクセシビリティ
【関連ページ】情報格差(デジタルデバイド)
【関連ページ】デジタルウェルビーイングとは・意味




用語の一覧

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行

ま行
や行
ら行
わ行
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
L
M
N
O
P
Q
R
S
T
V
W
X
数字

FacebookTwitter