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環境クズネッツ曲線とは・意味

植林

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環境クズネッツ曲線とは?

環境クズネッツ曲線(EKC:Environmental Kuznets Curve)とは、経済成長と環境負荷の関係を示した逆U字型のグラフのことである。横軸は国民一人あたりの国内総生産(GDP)、縦軸は環境の汚染レベルを表している。EKCが示すのは、経済成長に伴う所得の増加によって環境負荷は増大するが、同時に環境対策が進展することで、ある時点を堺に環境負荷は徐々に低減するという仮説である。

EKCは、1991年に米国にある民間の経済研究機関が発表した論文で始めて提唱された仮説だが、その起源は米国の経済学者、サイモン・クズネッツが1955年に発表した論文で提唱した「クズネッツ曲線」という概念である。クズネッツは、経済成長と所得格差の相関を逆U字型の曲線で説明できるという仮説を提唱した。EKCはクズネッツ曲線にちなんで名付けられ、所得格差は環境負荷へと置き換わっている。

EKCの仮説が示す要点

EKCが示す逆U字型のグラフは、「産業化以前」「転換点の前後」「産業化以後」の大きく3つのフェーズに分けられる。これら3つのフェーズから、EKCの仮説が示す要点は以下の4つである。

    • 経済と環境はトレードオフ

経済成長と環境負荷は、ある時点(転換点)まではトレードオフの関係にある。つまり、産業化以前は、経済成長による環境汚染が避けられないフェーズだと言える。

    • 環境は人類の希少な共有財産

環境汚染の増大に伴って、次第に自然環境は希少な財とみなされるようになる。したがって、環境汚染防止への取り組みや投資が拡大し、経済成長と環境汚染は両立できる。

    • 途上国が持つ後発の利益

途上国は、既に転換点を迎えた先進国から安価で効率的に環境汚染を防止できる機会、つまり後発の利益が得られる。これによって転換点をより早く迎えることが可能となる。

    • 先進国による支援の有効性

産業化以前の途上国にとって、独自の環境政策は必ずしも必要ではない。先進国が率先して行う技術移転や開発援助といった支援が有効である。

異なる環境指標と経済成長の3つの類型

EKCは、1972年にローマクラブが発行した「成長の限界」に代表されるような、1960年代以降の爆発的な人口増加による地球環境への影響に対する危惧への反証として研究者の間で大きな関心を集めた。さらに、世界銀行が1992年に発表したレポートがきっかけとなって社会的にも広く注目され、異なる環境指標と経済成長との関係を以下の3つに分類した。

    • 安全な水と都市の衛生環境(右肩下がりのグラフ)

経済が成長すると同時に、これらの指標は右肩下がりのグラフを描く。人々の所得が増加することで、政府が都市インフラに活用できる原資が増えるためである。

    • 浮遊粉塵量や硫黄酸化度(逆U字型のグラフ)

農業を中心とした社会から、工業化社会への移行に伴ってこれらの指標は悪化するが、所得が増加することで次第にその度合は緩やかになり、最終的には改善へと向かう。

    • 二酸化炭素や窒素酸化物、都市廃棄物(右肩上がりのグラフ)

これらの指標は、所得の増加に伴って増加し続ける。特に、廃棄物を削減するために必要な費用は、廃棄に掛かる費用に比べて相対的に高くなる傾向にあり、改善は困難である。

EKCの仮説に対する批判も多数存在

3つの類型のうち、2つ目がEKCとして経済学者たちの間で広く受け入れられた。しかし一方で、経済成長のためには環境汚染はやむをえないといった解釈も生まれた。その結果、「Polluted and Clean(汚染してから綺麗にする)」という考えや行動に繋がっている。

また、EKCの仮説に対する批判も多数存在している。例えば、環境被害や資源(特に再生可能な資源)には一定の不可逆性があり、一度限界を超えると改善が困難であるといった内容である。しかし、EKCの仮説が提唱されてから50年が経った今でも、様々な地域や環境指標を用いた研究が世界各国で盛んに行われている。

地球の温度上昇に伴って、不可逆的かつ連鎖的な地球環境の変化が生じることが危惧されている現在においては、経済活動が活発になるからこそ、環境汚染は改善されるというEKCの楽観的な見方は必ずしも適当ではない。しかし、これまでの実証的な研究の中には特定の環境指標や地域においてはEKCの仮説の妥当性が認められていることも事実である。持続可能な発展に向けた努力と検証は、グローバル規模でこれからも続いていくだろう。

【参考資料】 途上国の経済成長と環境問題 ―環境クズネッツ曲線は成立するか―
【参考資料】 「環境クズネッツ曲線仮説」に関する論文サーベイ
【参考資料】 Economic Growth and Income Inequality Simon Kuznets The American Economic Review, Vol. 45, No. 1. (Mar., 1955), pp. 1-28.
【参考資料】 Environmental Impacts of a North American Free Trade Agreement
【参考資料】 Economic growth and environmental quality : time series and cross-country evidence
【参考資料】 World Development Report 1992 : Development and the Environment




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