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エクイタブル・デザインとは・意味

エクイタブル・デザイン

エクイタブル・デザインとは?

エクイタブル・デザイン(Equitable design)とは、すべての人が公平にアクセスし、利用できるような設計をすること。人種、民族、国籍、社会経済、ジェンダー、セクシュアリティなどの要因により、歴史的または制度的に疎外されてきた人々を考慮し、異なる背景を持つ人々のニーズを取り入れることで、課題を解決しようとするデザインを表す。

Equitableとは日本語で「公平な、公正な」と訳され、全ての人々に対して扱い方が同じであることを意味する。

エクイタブル・デザインに期待されるもの

エクイタブル・デザインにおいて重要なのは、出身や能力、少数派の有無に関係なく、個人の違いを受け入れ、共感と理解に重きを置くことである。このアプローチにより、見た目や機能以上に、全ての人のニーズと視点が反映された、より包括的で快適な製品や体験が期待される。

またエクイタブル・デザインは、たとえば障害があるというだけで不必要な困難にさらされるのを未然に防ぐことにもつながる。

ユニバーサル・デザイン、インクルーシブ・デザインとの違い

ユニバーサル・デザインとは、障害や年齢、国籍などに関係なく「全ての人が使いやすいように」デザインする手法のことを指す。インクルーシブ・デザインとは、デザインをするうえで、これまでデザインの対象から排除されてきた人々を巻き込み一緒にデザインを行っていくイギリス発祥のデザイン手法のことを指す。

デザインを通じて包括性を目指すという点はいずれも共通しているが、微妙に意味合いが異なる。

たとえばユニバーサル・デザインは、誰でも使いやすいようなデザインを「デザイナーが」考案する。一方、インクルーシブ・デザインでは、デザイナーだけでなく、「これまで社会から排除されてきた人(エクストリームユーザー)」を巻き込み一緒にデザインをしていくのが特徴だ。

ユニバーサル・デザインの手法では、一つの商品で幅広いユーザーを取り込めるよう対象を広げていくのに対し、インクルーシブ・デザインでは「極端なニーズ」から(マジョリティが気づかないような)潜在的ニーズを掘り起こし、多くの人が使いやすいデザインを見出そうとするのが特徴である。

エクイタブル・デザインは、歴史的に疎外されてきた人々のニーズが確実に満たされることを重視する、とアメリカのソフトウェア企業LogRocketは説明する。ユニバーサル・デザインが誰もが利用できるデザインの作成を目的とし、インクルーシブ・デザインが全ての人が使いやすいデザインを見出すことを目的とするならば、エクイタブル・デザインは社会的な過ちを正すことに焦点を当てている。

これらのデザインはそれぞれ微妙に意味合いが異なるものの、デザインを通じて包括性を目指すという共通の目標を持ってお互いに関係し合うことで、誰もが楽しめるデザイン、製品、体験を生み出している。

オンラインプラットフォームMediumに掲載された記事「Designing for All: Universal, Inclusive, and Equity-Focused Design」では、ユニバーサル・デザイン、インクルーシブ・デザイン、エクイタブル・デザインが関係し合う様をサッカーゲームに例えて以下のように解説している。

ユニバーサル・デザインは、誰もが物事を簡単に行えるようにすることからゲームを開始する。インクルーシブ・デザインは、人々の違いを尊重し、特別なニーズに対応することによってボールを蹴る。次に、エクイタブル・デザインがそのデザイン設計により、全員が公平なショットを確実に獲得できるようにして、ゴールを決める。

エクイタブル・デザインの具体例

UXのエクイタブル・デザイン

まずはUXデザインについて。UXはUserExperienceの略で、製品やサービスを使用して得られるユーザー体験のことを指す。

Mediumに掲載された記事「What happens when equitable design isn’t at the forefront of UX」では、オンラインフードデリバリーアプリFoodtopiaとFoodieLandのデザインを例に出し、エクイタブル・デザインとそうでないものの違いを解説している。

ここで紹介されるFoodtopiaのデザインは、公平さが最初から重視されていなかった例である。たとえば視覚障害のあるユーザー向けのオーディオビジュアルオプションはなく、英語を母国語としないユーザー向けの翻訳機能もなかった。アレルギーや食物不耐症のあるユーザーは、料理にグルテンや乳製品が含まれているかどうかの情報を必要とするにもかかわらず、成分に関する情報も不足している。

またユーザーにクリックを促すCTAボタンには見にくいフォントが用いられ、読みにくいうえ、文字の読み書きに困難を抱えるなどの学習障害を持つ人にとって視覚的な手がかりとなるアイコン表示もない。商品の名前と一緒に写真が掲載されていないことも課題として取り上げられている。

Foodtopiaに比べて、よりエクイタブル・デザインに近いものとして紹介されているのがFoodieLandのデザインである。同アプリのデザインには、アプリのコンテンツを聞くためのオーディオビジュアルオプションもあれば翻訳機能もあるからだ。

ただし、本文中にもある通り、同アプリにはエクイタブル・デザインに到達していない部分もある。

例えば、課題の一つとして、アレルギーや食物不耐症に関する情報がないことがあげられている。グルテンフリーや乳製品フリーの商品をフィルタリングする機能が追加されれば、これらのユーザーのUXによい影響を与えることが期待される。

また、色のコントラスト比は比較的見やすいものの、色覚異常があるユーザーにどのように見えるかがテストされていない点も指摘されていた。

他には、写真が拡大できないことやユーザーがトッピングをカスタマイズしたい時、その操作を行うためのボタンが「カートに追加」のCTAボタンの下に隠れているため見つけにくいこともあげられている。

建築のエクイタブル・デザイン

建築分野の代表的なエクイタブル・デザインにクイーン・エリザベス・オリンピック・パークがあげられる。これはイギリスのロンドンにある、2012年ロンドンオリンピックおよび同パラリンピックのために建てられたスポーツ複合施設である。五輪期間中はオリンピック・パークと呼ばれ、五輪閉幕後に現在の名前に改称された。

社会的公平性を重視して設計されたこの公園には、あらゆる交通機関と接続できる交差点、降車/乗車ポイント、駐車場を設置。敷地全体には緩やかな勾配が設けられており、車椅子などのモビリティ機器が通り抜けしやすいよう工夫されているなど、誰もが簡単にアクセスできるような空間づくりがなされている。

また公園内には、オールジェンダートイレが設置されているほか、あらゆる信仰の要件に対応するために礼拝室などの文化的・宗教的エリアも用意されている。

さらに、オリンピック・レガシー(オリンピック開催後に残る有形無形のもの)の持続可能性に配慮し、ロンドンの歴史的・社会的に恵まれない地域に向けて、緑地や手頃な価格の住宅、教育やスポーツの機会、包括的なワークスペースなどを提供している。

また、カリフォルニア美術大学はウェブサイトで、建築設計を通じて社会的公平性を改善するプロジェクトの例として、共有スペースを備えた共同住宅地、医療サービスを組み込んだ低所得地域の学校、障害のある退役軍人のためのバリアフリー施設、空いた地上階の小売スペースを再利用したコミュニティサービスなどをあげている。

同大学は、歴史的または制度的に疎外されてきた人々への社会的公平性が担保されていない現状も紹介。

その一例として、気候変動や環境悪化による影響は、経済的に不利な立場にある人々や少数民族コミュニティに集中していることを挙げた。これらのグループは、海面上昇や気候変動の影響を受けやすい地域に住むことが多く、環境的リスクに特に脅かされている。

さらに、経済的な要因も、特定のコミュニティがリスクの高い居住地域に住むことを余儀なくされる一因となっている。この背景には、「レッドライニング」と呼ばれる、金融機関による融資差別がある。レッドライニングは、低所得層や人種的マイノリティが多く居住する地域に対して、住宅ローンやその他の金融サービスを制限または拒否する慣行だ。この結果、特定の地域の経済発展が妨げられ、住宅市場における公平性が損なわれているのだ。

例えば、ニューオーリンズのロウワー・ナインス・ワード地域は、ハリケーン・カトリーナの際に甚大な被害を受けた。この地域の大部分の住民はアフリカ系アメリカ人で、ハリケーン発生時、社会経済的な不平等により、特に深刻な影響を受けた。今日に至るまで、この地域の復興は完全には達成されていない。

建築分野のエクイタブル・デザインでは、気候変動や環境悪化の影響に対して脆弱なコミュニティを支援するなど、こうした社会的公平性が担保されていない現状を認識し、改善に向けた取り組みが求められている。

エクイタブル・デザインのために心がけたいこと

アメリカのソフトウェア企業LogRocketは、エクイタブル・デザインのための4つの戦略と題し、エクイタブル・デザインを実践する際に把握すべき事象について記している。

インターセクショナリティ

インターセクショナリティとは、人種、性別、階級、性的指向、性自認など複数の個人のアイデンティティが組み合わさることによって起こる様々な差別の現状に目を向け、マイノリティの中でもさらに焦点の当たりづらい差別を受けている当事者を可視化するための概念を表す。

LogRocketはインターセクショナリティを主に8つの特徴に分けて紹介している。8つの特徴とは、民族性、性別、宗教、階級、年齢、文化、セクシュアリティ、障害である。これらの特徴は個人に応じてさまざまな形で交差し、人のアイデンティティを形成する。

たとえばUXのエクイタブル・デザインにおいては、そのデザインが対象ユーザーの年齢に影響されるのと同じように、対象ユーザーが障害や宗教的配慮、経済的制限などを抱えている場合も得られるデザインが同様である必要がある。

インターセクショナリティに理解を深め、デザイン設計に適切に落とし込むことで、対象ユーザーが直面している課題の核心に到達することができ、対象ユーザーにとってより包括的でアクセスしやすいデザインの設計が可能となる。

アクセシビリティ

アクセシビリティは日本語で「利用のしやすさ」などと訳される。

アクセシビリティの実現にはさまざまな要素を考慮する必要があるが、最も重要であると考えられるものは以下の4つである。

  • フォント
  • オーディオとビデオ
  • レイアウト

視力に問題がある人でもフォントを読むことができるだろうか?音声は中程度の難聴の人でも聞こえるように十分に調整できているだろうか?テクノロジーに詳しくない人でも簡単に操作できるようなレイアウトになっているだろうか?

このような問いかけを行うことで、誰もがアクセスできるデザイン設計につながる。

表現の原則

エクイタブル・デザインでない表現のデザインには、人種的な表現の偏りがあげられる。

たとえばLogRocketのウェブサイトでは、ヨーロッパで育った黒人系の著者が「テレビの登場人物や服のモデル、漫画のキャラクターがすべて白人で表現されており、一般的なメディアに黒人があまり登場しない」と感じていたことが紹介されている。

著者は漫画で黒人キャラクターを初めて見たときに衝撃を受け、今でもそのキャラクターを鮮明に覚えているという。そして、ターゲットオーディエンスを知り、彼らに向けて表現することがいかに重要であるかを強調した。

たとえばアラブ首長国連邦出身者を対象ユーザーとするブランドをデザインしている場合、他の国出身の人物写真を使用するよりも、地元の画像やアラブ首長国連邦出身の人物写真などを使用する方がはるかに合理的である、と同ページ内では述べられている。

ユーザーが中心となった包括的な調査分析

対象ユーザーが誰であるか、どのようにすればデザインが全ての人にとって公平なものになるか明確に確立することが、エクイタブル・デザインに取り組む際の重要なポイントだ。

しかし、自分が体験したことのある課題に対するデザインだけを行うわけではないので、作り手の視点はどうしても偏る傾向がある。

だからこそ、数多くのガイドラインやツールを使用してデザインの公平性を確認するのはもちろんのこと、多様なユーザーを調査プロセスに巻き込むことも重要だ。これは、デザイナーだけでなく、歴史的または制度的に疎外されてきた人々を巻き込み、一緒にデザインしていく、先述したインクルーシブ・デザインの取り組み方そのものである。

まとめ

エクイタブル・デザインは、人種、民族、国籍、社会経済、ジェンダー、セクシュアリティなどの要因により、歴史的または制度的に疎外されてきた人々を考慮して、課題にアプローチするデザインである。

全ての人に公平なデザインを作り出すことももちろん大事だが、目の前のデザインが全ての人にとって包括的で公平であることを確認することがさらに重要だ。デザインを設計する段階の調査分析の部分でインターセクショナリティ、アクセシビリティ、および表現の原則を念頭に置き、加えてその調査分析自体が包括的で、可能な限り多様なユーザーを巻き込む形で構成されていることを確認することによってのみ、公平な成果をあげることができるのだ。

【参照サイト】Three Equitable Design Considerations | Tighten.
【参照サイト】Principles and strategies for equitable design – LogRocket Blog.
【参照サイト】ユニバーサルデザインとは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
【参照サイト】インクルーシブデザインとは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
【参照サイト】What happens when equitable design isn’t at the forefront of UX | by Emilie Le
【参照サイト】Equity in Architecture: An Inclusive Approach Towards Design – RTF | Rethinking The Future
【参照サイト】How architectural design can improve social equity | CCA




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