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インクルーシブ・ウェルス(Inclusive Wealth)とは・意味

インクルーシブ・ウェルス

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インクルーシブ・ウェルス(Inclusive Wealth)とは?

国や都市の豊かさを測る方法のひとつで、人工資本、自然資本、人的資本の合計値からなる経済指標のこと。日本語では包括的富、包括的な豊かさ、新国富、などと言われる。従来、国の豊かさはGDP(国内総生産)などで示されてきたが、そうした指標では自然の価値や持続可能性を十分に測ることができないため、それを補完するものとして考えられている。

国連大学が中心となり、国連環境計画(UNEP)などとともに2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)にて提案を行なった。GDPが一定期間に変動した量を示すフロー指標であるのに対し、インクルーシブ・ウェルスはある特定の時点で蓄積されている量を示すストック指標である。Inclusive Wealth Index(包括的富指標)の略語でIWIと表記されることもある。

それぞれの資本は次のようなものを指す。

  • 人工資本:道路、建物、機械、インフラなど
  • 自然資本:土地、森、漁業資源、鉱物資源、気候など
  • 人的資本:教育、スキル、健康など

これまでの経済指標と異なるのは、次世代への影響に配慮し、気候変動や生物多様性の損失を抑えるため、市場では取引されない自然資本の価値を経済的に評価し、持続可能性を考慮した包括的な指標に組み込んだことだ。また人的資本は労働の質や健康状態に応じて評価され、医療や教育の効果もその向上に反映される。

また国によっての違いや、気候変動による潜在的な影響、資源の価格変動による影響といった、さまざまな影響を及ぼす要素も考慮されており、「豊かさ」を総合的に提示できる指標といえる。

インクルーシブ・ウェルスの考えが生まれた背景

近年、世界において経済成長を求めるあまり、資源を過度に利用して枯渇させ、将来の世代に深刻な被害をもたらす、と懸念されている。自然資本を大きな比率で使い果たして一時的にGDPが増加したとしても、それに伴う持続可能性の低下(自然資本の枯渇)は統計上で明示されず、長期的な視点で捉えると、経済の生産能力の低下につながりかねない。

また、健康や教育、気候変動などの環境や資源問題、貧困や格差の問題の解決など、SDGsに基づいた豊かな社会の実現に向け、その総合的な評価と目標の見直しをするために、新たな指標が必要となった。そうした背景の中、ケンブリッジ大学の名誉教授パーサ・ダスグプタやスタンフォード大学教授でノーベル経済学賞を受賞したケネス・アローらがインクルーシブ・ウェルスの概念を提唱し、国連が採用した。

インクルーシブ・ウェルス・レポート(Inclusive Wealth Report)

2012年に最初の「Inclusive Wealth Report」が発表されてから、その後2014年、2018年と2023年に報告がまとめられている。対象国は最初は20カ国からスタートしたが、2014年には140カ国に広がり、最新の2023年版では163カ国になっている。また2014年からは九州大学の馬奈木俊介教授が国連の代表として中核となってとりまとめを行なっている。

Inclusive Wealth Reportのベースラインとなっているのが1990年で、それぞれのレポートは1990年以降の期間を対象に行われている。2023年のレポートでは1990年以降、世界のインクルーシブ・ウェルスの総額は49%増加したとする一方で、同時期に世界人口が24億人増加しており、それを考慮すると世界の一人あたりのインクルーシブ・ウェルスは5%減少していると報告されている(※)

また、1990年〜2019年の期間で世界の自然資本は28%以上、同期間の一人あたりの自然資本は50%減少したとされている。これは世界的な経済成長は自然資源の枯渇という犠牲の上に成り立っていることを示唆している(※)。また、アフリカ、アジアやラテンアメリカなどいわゆるグローバルサウスと呼ばれるエリアでの自然資本の減少は顕著で、世界での資本の不平等などにつながっていることが読み取れる。

まとめ

これまで、経済の発展に重きを置くGDPが社会の価値体系の中心であった。しかし、行き過ぎた経済発展は、一方でさまざまな問題を引き起こし、私たちや次世代の暮らしを脅かす状況になっている。インクルーシブ・ウェルスはその国の地域、対象のストックを示すことで持続可能性を表す指標である。つまり現在の世代と比較し、将来世代の豊かさの基盤となる富(資本)を十分に担保できているかを示すことができる。持続可能性を担保するためにはこのインクルーシブ・ウェルスを減少させずに、将来世代まで引き継ぐことが大切だ。

SDGsが掲げている2030年までもう残された時間が少ない中、グテーレス事務総長以下、国連も「ビヨンドGDP(脱GDP)」の取り組みを進めている。自治体や企業もそれぞれに持続可能な共生社会への貢献を求められている。社会全体の意識改革によって、インクルーシブ・ウェルスが向上し、すべての人や環境が豊かになる、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を願いたい。

Inclusive Wealth Report 2023

【参照サイト】IISD Earth Negotiations Bulletin | Inclusive Wealth As a Measure of Sustainability and Equity
【参照サイト】国連大学 | 世界の資源は枯渇に向かっていると、「包括的な豊かさに関する報告書」が発表
【参照サイト】aiESG |【解説】IWI(新国富指標: Inclusive Wealth Index)
〜ウェルビーイングを測る新たな指標〜

【参照サイト】政策シンクタンクPHP総研 | 「持続可能性」と「経済成長」は両立できる
【参照サイト】RIETI | 新国富指標の現実政策への応用可能性―社会・経済政策の指標としての活用の拡大
【参照サイト】九州大学 | 国連「脱 GDP」に向けた新国富報告書 2023 を発表




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