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プラネタリーヘルスとは・意味

planetary health

プラネタリーヘルスとは

プラネタリーヘルスとは、地球環境に多大な影響を及ぼしている人間の政治経済、社会システムに向き合い、人と地球環境の密接な関係に注目することで、人間と地球の健康のバランスが取れた状態を指す。

プラネタリーヘルスの考え方の前提として、ロックフェラー財団のランセット委員会は以下のように記している。

  • 人間の健康と地球の健康は密接に関係している
  • 人類の文明は、豊かな自然と賢明な資源管理に依存する
  • 現在の自然環境は前例にないほど悪化しており、人間の健康と地球の健康はともに危機的状況にある

これらを念頭において、2017年にロックフェラー財団と気候変動枠組条約(UNFCCC)は、プロジェクトとしてプラネタリーヘルスを発足させた。それ以降、世界中の300以上の大学や非政府組織、研究機関、政府機関などが協力して取り組んでいる。

地球の健康と人間の健康

人間と地球の健康が密接にかかわっていることが前提にあるプラネタリーヘルスという考え方。人間の行動が地球の健康に与える影響としては、大まかに下記の9つのカテゴリに分けられる。

  • 水不足
  • 食料システムの変化
  • 都市化
  • 生物多様性の変化
  • 自然災害
  • 気候変動
  • 土地利用の変化
  • 地球規模の汚染
  • 生物地球科学的な流れの変化

特に気候変動は、地球温暖化による平均気温の上昇、極端な天候の頻発、海面上昇など、地球全体の環境に大きな変化をもたらしている。これらの変化は、自然生態系のバランスを崩し、食料生産や水資源へのアクセス、生物多様性の損失に直接的な影響を及ぼすため、プラネタリーヘルスにとって最も重要な課題の一つとなっている。

また、都市化、農業拡大、森林伐採などによる土地利用の変化は、地表のカバーを変え、生態系の機能を変質させることがある。これにより、生物多様性が低下し、炭素貯蔵能力が減少するなど、地球の自然調整能力に影響を与える。また、土地の乱開発は、洪水のリスクを高めるなど、自然災害の危険性を増大させることにもなる。

水資源は、人間の生存に不可欠な要素でありながら、その利用と管理は多くの地域で課題となっている。過剰な地下水のくみ上げ、不適切な水資源の配分、汚染の問題は、飲料水の安全性を損ない、農業や産業活動における水の利用効率を低下させる。これらの問題は、健康だけでなく地域社会の持続可能性にも影響を及ぼすため、適切な管理が求められている。

健康への影響

こうした地球の健康状態の悪化は、同時に人間の健康を損なうことにもつながる。つまり、私たちが地球環境を破壊することは、自分たちの健康を阻害することにもなるのだ。

一つめは、疾病の発生と広がりだ。環境の変化、特に気候変動は、病原体やベクター(感染症を媒介する生物)の生態に影響を与え、新たな疾病の出現や既存の疾病の地理的な広がりを促進することがある。例えば、温暖化によりマラリアやデング熱などの熱帯病のリスクが増加している。

また、プラネタリーヘルスを損なうことは、人間の食料システムが崩れることをも意味する。気候変動は農作物の生育条件を変え、食料生産の減少を招くことがある。これにより、食料の安全性と栄養の質が損なわれ、地域によっては飢餓や栄養不良が問題となることがあるのだ。

さらに環境問題は、公衆衛生インフラにも影響を及ぼし、特に低所得地域における衛生設備の不足や医療アクセスの悪化を引き起こす。自然災害の増加は、感染症のアウトブレイクや公衆衛生危機のリスクを高める可能性も高い。

プラネタリーヘルスを回復させた事例:ハイチ共和国におけるプラスチック問題

ここでは事例として、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)による「国連グローバル気候変動行動賞」のプラネタリーヘルス部門を受賞したハイチ共和国での取り組みを紹介する。

課題:プラスチックによる地球と生態系の健康状態の悪化

貧困国の一つであるハイチ共和国では、資金不足などを理由にプラスチックごみの廃棄システムが非効率であり、整備されていない。プラスチックの処理方法としては、直接水路に捨てる、もしくは燃やすことが多く、川などに捨てられたプラスチックは、コレラなどの熱帯病を蔓延させる蚊の繁殖地になっていた。また、プラスチックを燃やすことにより空気中に放出されたダイオキシンなどの有害物質は、人間の健康に悪影響を及ぼしてきた。

こうしたプラスチックによる健康被害は、人間だけでなく生物多様性にも関係する。たとえば、燃焼後のプラスチックが埋め立てられる場合、プラスチックの破片から有害物質が地下水に溶け込んで海に流れる恐れがあるほか、処理途中で海に流れたプラスチックは太陽光などで微粒子となり、魚が餌と間違えて摂取することがある。これまで、少なくとも267種の生き物がプラスチックを誤って食べたり、漁網などに絡まったりして苦しめられてきたという。

解決策:プラスチック銀行

この複雑な問題を解決するために生まれたのが「プラスチック銀行」だ。地域住民がプラスチックを拾って持っていくと、現金や子どもの学校の授業料などと交換ができるというもの。回収した廃棄物をグローバルなサプライチェーンへ繋ぐことでリサイクルし、ハイチにも利益がもたらされる仕組みになっている。

プラスチック銀行は、ただシステムを導入するのではなく、現地でリサイクル業界の起業家を育成するために金融リテラシーや会計などの教育を行っており、環境と人間に対して下記のようなメリットをもたらすとされている。

環境に対してのメリット
  • プラスチックが水路から除去されることで、汚染物質が地面や海に流れ込まず、海洋生物がプラスチックの破片などを誤食しないため、生物多様性の回復に繋がる
  • プラスチックのリサイクルが進むことで、新たなプラスチックの製造量が減り、気候変動の抑制に繋がる
人間に対してのメリット
  • プラスチックを燃やさずに回収することで、大気が綺麗になる
  • プラスチックを水路から取り除くことで、伝染病の蔓延を防ぐことができる
  • プラスチック銀行で得たお金で子どもを学校に通わせられる
  • リサイクル業界の人材育成で、地域住民で経済を回せるようになる

まとめ

人間と地球の健康は互いにかかわり合っている。それは、私たちが自分たち人間だけの健康だけでなく、他の生物はもちろん、地球全体の健康をも守っていく必要があることを意味する。

さまざまな問題が複雑に絡み合っている地球環境の問題。その解決は難しいと感じられるかもしれないが、誰もが当事者であることだからこそ、一人一人が知恵を振り絞り、多角的な観点から解決を目指すことが大切だ。

【参照サイト】PLANETARY HEALTH – Planetary Health Alliance
【参照サイト】Planetary Health | UNFCCC
【参照サイト】UN Global Climate Action Awards | UNFCCC
【参照サイト】UN Climate Change Cleaning our Oceans of Plastic | Haiti
【参照サイト】一般社団法人 日本国際保健医療学会




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