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トランスヒューマニズムとは・意味

トランスヒューマニズム

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トランスヒューマニズムとは?

トランスヒューマニズム(Transhumanism)とは人間の能力を増強するために、現在および将来のテクノロジーを利用することを提唱する哲学的・科学的運動のこと。トランスヒューマニズムに関連するテクノロジーの例には、遺伝子工学、人体冷凍保存、人工知能(AI)、ナノテクノロジーなどがあげられる。

トランスヒューマニストは、このようなテクノロジーを、責任を持って応用することで、人間の老化を遅らせることや若返らせること、寿命を延ばしたり、人間の認知能力や感覚能力を高めたりすることが可能になる未来を描いている。

トランスヒューマニズムの歴史

1950年代

トランスヒューマニズムという言葉は、イギリスの生物学者ジュリアン・ハクスリーが1957年に発表した同名のエッセイで広まる。ハクスリーは主に、社会的・文化的変化を通じて、人間の条件を向上させることに関心を寄せていた。その後、コンピューター技術の発展や人間の卵子や胚の凍結保存の成功など、重要な科学的進歩に伴って生まれたトランスヒューマニズム運動によって、ハクスリーが提唱した人類が自らを超越するという概念が採用されるようになる。

1980年代〜1990年代

1980年代には、新たに結成されたトランスヒューマニズムの学派や団体が、人間の延命、人体冷凍保存などを提唱した。

さらに1990年代、テクノロジーによって人間の限界を克服することを提唱する「エクストロピアニズム(Extropianism)」が、トランスヒューマニズム運動の最前線に登場する。

エクストロピアニズムとは、より高度な技術や、より一般的な技術進歩の利用を支持する哲学的な学派のことだ。エクストロピアニズムの動機となる価値観のひとつが、人間の寿命を無限に延ばすことで人間の条件を向上させようと努めることである。エクストロピアンは現代のテクノロジーが延命の実現を約束するなど、人類との前向きな共生関係を約束するものとしてテクノロジーを好意的に捉えている。

イギリスの哲学者マックス・モアは、エントロピーと対立する概念を示すためにエクストロピーという言葉を使って、人間の可能性を拡張するというトランスヒューマニズムのあり方を強調。1990年代初めに、アメリカの哲学者トム・W・ベルとともにエクストロピー研究所を設立している。

1998年、スウェーデンの哲学者ニック・ボストロムとイギリスの哲学者デイヴィッド・ピアースは、トランスヒューマニズムを本格的な学問分野として推進する国際組織、世界トランスヒューマニスト教会(WTA)を設立。WTAは2008年に、トランスヒューマニズムのより多様でまとまりのあるビジョンを示すため、「Humanity+」という名称に改名した。「Humanity+」は、先で紹介したエクストロピー研究所(2006年に閉鎖)とWTAの両方の思想を含んでおり、人間の能力を拡張するためのテクノロジーの安全で倫理的な利用を提唱するものである。

2000年代〜現在

トランスヒューマニズムは、グーグルの共同設立者であるラリー・ペイジや、アマゾンのジェフ・ベゾス、テスラのイーロン・マスクなど、シリコンバレーの起業家たちから支持を得た。ペイジは2013年に、先端技術によって人間の寿命を延ばすことを目的とした研究開発会社「キャリコ・ライフ・サイエンシズLLC(キャリコ・ラボ)」を立ち上げた。2022年初頭には、ベゾスをはじめとする支援者たちは、若返りの方法を研究するバイオテクノロジー企業「アルトス・ラボ」に30億ドルを投資している。マスクは2016年に、埋め込み型ブレイン(脳)チップを開発するニューリンク社を立ち上げた。

2022年7月には、ブレインチップ企業のシンクロンが、アメリカでALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の脳にチップを埋め込むことに成功したと発表。このチップは、重度の下半身不随患者が自分の思考でウェブを見たり、電子メールやテキストでコミュニケーションしたりできるようにするため設計されたものである。

トランスヒューマニズムを象徴する人、物

ニール・ハービソン

ニール・ハービソンは頭にアンテナを結合している。生まれつき色覚障害者だったハービソンは、その感覚を補うために検知した色を音波に変える人工器官を頭蓋骨に埋め込んだ。

ジェームズ・ヤング

2012年に事故で手足を失ったジェームズ・ヤングのために、日本の大手ゲーム会社コナミと義肢デザイナーのソフィー・デ・オリベイラ・バラタが、ヤングが好きだったコナミのビデオゲーム「メタルギアソリッド」にヒントを得て、美しい義手と義足を設計、完成させた。

決済インプラント

イギリス・ロンドンに拠点を置くイギリスとポーランドの企業「Walletmor(ウォレットモー)」は2021年、世界で初めて「決済インプラント」を商品化した。このインプラントは近距離無線通信(NFC)技術を使用している。NFCは電波を使ってデジタル情報を共有し、それを数センチメートルの距離で送信する非接触無線通信技術である。皮膚の下に決済インプラントを埋め込むと、NFCで駆動し、手や手首をかざすだけで決済できる。

インスリン生成インプラント

Mailpan®」と呼ばれるデバイスは、インスリンを分泌する幹細胞が入ったインプラントだ。1型糖尿病患者を対象としており、血糖値を調節するために不足しているインスリンを生成する人工脾臓で、糖尿病患者の暮らしを変えるものとして期待されている。

自分の体への手術を必要としないものも

トランスヒューマニズムのテクノロジーといえば、先で紹介したように皮膚の下にマイクロチップを埋め込んだり、高度な義肢を装着したり、といった内容が印象的だが、自分の体への手術を必要とするものだけがトランスヒューマニズムのテクノロジーではない。人工知能(AI)や仮想現実(VR)と呼ばれるものも、トランスヒューマニズムの信念を包含した技術といえる。

たとえば、トランスヒューマニズム活動家たちとその活動を撮影し、作品集『H+』を刊行したスイス人写真家のマシュー・ガフスはスマートフォンもそのひとつとして取り上げている。ガフス氏はアメリカの月刊誌WIREDの記事の中で「スマートフォンは、わたしたちとテクノロジーが融合していることを示す最もわかりやすい例だ」と語った

現代の人々にとってスマートフォンはとても身近な存在であり、今やそれなしに生活したり働いたりすることはほぼ不可能だ。そんなスマートフォンを使えば、ほとんどのことは簡単に調べることができる。この機能は人々に与えられた「新しい能力」ともいえるはずだ。

トランスヒューマニズムの課題

ここ数年、延命技術に携わるいくつかの企業が抗老化薬を開発するため、いくつかの遺伝子が関与する老化プロセスの作用メカニズムの探究を始めている。実際、この研究の中には有望なものもある。だが、留意すべき点として、これらの研究の多くがマウスで行われていることを意識しておきたい。実験室のマウスと人間では生活環境に違いがあるし、マウスと人間の生理機能は異なるため、前者で見られた効果が後者でも見られると主張することはできない。マウスからヒトへの変換が不十分であることは、開発中のほとんどすべての抗老化薬、そして生物医学研究全般にとっての課題だ。

また、安全性や倫理的な問題もあげられる。2018年、中国の科学者・賀建奎が世界で初めて遺伝子改変を施した“ゲノム編集ベビー”を誕生させたと主張し、議論を巻き起こした。“ゲノム編集ベビー”はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)への耐性を獲得したというが、この一件は他の科学者や倫理学者たちに衝撃を与えるものだった。安全性の課題では、ゲノム編集が本来改変すべき遺伝子とは別の遺伝子を改変してしまうおそれを否定できない点などがあげられる。倫理面では、人為的に人類を改変することへの責任の所在や、親が望む特徴をもつよう遺伝子を改変する「デザイナーベビー」を生み出すことにつながるのではないかといった点が課題として残る。

また、トランスヒューマニズムは人類を救う技術ともいえるが、その重要性を説く人々が、時にその技術を販売する人々でもあるという点にも注意が向けられている。人体が彼らにとっての「新たな市場」となることで、その技術を販売する企業などの経済的利益に基づいて政治的、経済的な決定が下されることはあってはならないからだ。

加えて、「エリート主義と階級主義を助長する」と批判する批評家もいる。トランスヒューマニズムのテクノロジーによる機能強化は斬新で高価なものであるため、それを購入できる富裕層が生活やビジネス、仕事においてさえも優位に立てるのではないかという懸念もある。

【参照サイト】Transhumanism | Definition, History, Ethics, Philosophy, & Facts | Britannica
【参照サイト】Photo Gallery: Meet the Transhumanists Turning Themselves Into Cyborgs | WIRED
【参照サイト】What is Extropianism | IGI Global.
【参照サイト】シンクロン、米国で初めて脳埋め込み装置を患者に移植 マスクのニューラルリンクに先んじる
【参照サイト】Konami Developing a Metal Gear Solid-Inspired Prosthetic Arm for an Amputee Gamer
【参照サイト】When man meets metal: rise of the transhumans | Technology | The Guardian
【参照サイト】Walletmor gets under your skin with their new payment implant | Fintech Nexus
【参照サイト】Safety and function of a new pre-vascularized bioartificial pancreas in an allogeneic rat model
【参照サイト】MAILPAN®, le pancréas bioartificiel de Defymed – Diabete-Infos.fr
【参照サイト】Transhumanism: Savior of humanity or false prophecy? – Big Think
【参照サイト】His baby gene editing shocked ethicists. Now he’s in the lab again
【参照サイト】Transhumanism: “The world’s most dangerous idea” or humanity’s saving grace?
【参照サイト】Le transhumanisme gagne du terrain, malgré les doutes des scientifiques | La Presse




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