チャイルドペナルティとは・意味
チャイルドペナルティとは?
出産や育児といった子どもを持つことによって生じる労働所得の減少など、社会的・経済的に不利な状況のこと。男女ともに起こりうることではあるが、主に女性の就業率、賃金、労働時間などが低下することなどから、「マザーフッド(Motherhood)ペナルティ」と呼ばれることもある。チャイルドペナルティはジェンダーギャップの要因の1つともされ、また少子化の原因にもつながることから、近年世界的に注目されている。
育児のために退職や育休の取得、時短勤務や非正規雇用としての就業などによる収入の減少だけでなく、復職後に重要なポジションや仕事を任せられなくなる、昇進のチャンスがなくなるといったキャリアロスもチャイルドペナルティの要因となる。
チャイルドペナルティの現状
出産時の労働所得の減少についての研究はこれまでにも行われてきたが、2019年にアメリカ・プリンストン大学の教授ヘンリック・クレベン氏が論文を発表し提起したことから認知が広がり、さらに2023年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカ・ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏の研究によってさらに注目度が高まった。
クレベン氏の研究は、1980〜2013年の期間に第一子を持った男女について出産の5年前から出産後10年の間における労働所得の変化を追ったデンマークの行政データを利用している。このデータによると、出産以前は男女の所得に大きな差はないが、女性は第一子を出産後、所得が約30%落ち込み、その後も回復はあまり見られず10年後でも男女で約20%の所得差が続いている(※1)。
また同じデンマークで、ジェンダーギャップを子どもに由来するものとそうでないものに分けて約30年間の変化を分析した研究がある(※2)。これによると子ども由来でない分野に関しては格差が小さくなっているのに対して、子ども関連のものはほとんど変化していない。これはデンマークにおいて子どもに由来する要因がジェンダーギャップを生んでいること、言い換えればチャイルドペナルティが長い期間ジェンダーギャップの大きな要因となっていることを示している。
日本でも、財務省財務総合政策研究所の古村典洋氏が厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」のデータを基に分析したものがあり、同様のパターンが見られる。しかし、デンマークと決定的に違うのは、出産後の所得の落ち込みが30%程度に過ぎないデンマークに比べ、日本では70%前後という結果が出ていることだ(※3)。また、日本では結婚を機に退職するケースなども比較的少なくなく、出産の数年前から所得が落ち始めていることが特徴として挙げられる。この特徴は特に非正規雇用の人に当てはまることが多い。ただ、日本では男女間の所得格差が大きく、その要因がチャイルドペナルティ以外にも解消されずに残っていることにも留意する必要がある(※4)。
チャイルドペナルティの理由
もともとチャイルドペナルティは男性、女性で差があるものではないが、マザーフッドペナルティとも呼ばれるように、特に女性にとって負担の大きいものになっているのはなぜだろうか?女性は先にも述べたように、第一子出産後に仕事を辞めるケースもあることや、出産後に復帰したとしても、時短勤務にする(余儀なくされる)、管理職にならない(なれない)など雇用形態を変更せざるを得ないことなどが理由として考えられる。そうした背景には、「育児は母親が中心となるもの」といった育児や家事などの家庭内労働を主に女性側に期待する社会通念や、子育てをする母親に対する仕事の評価や能力に対するバイアスなどが存在している。
チャイルドペナルティを解消するには
チャイルドペナルティが科されることによって、労働意欲の低下や、あえて出産しないといった出生率の低下にもつながり、長期的に組織や国にとって大きな問題となることが考えられる。
では、現在の状況を改善し、チャイルドペナルティを解消するためにはどういった取り組みが必要になるのだろうか?男性の育児参加への理解促進や保育施設の拡充といったことだけにとどまらず、長時間労働の是正や選択できる働き方の普及、若い時期からのキャリア形成や成長支援、公的な育児支援など多方面において対策を行うことが求められる。また、男女ともに育児を分担するといった家庭内での役割を見直すことだけでなく、企業や自治体、国がそれぞれジェンダーギャップが存在することを理解し、状況や立場に応じたサポートや制度を継続して提供していく必要があるだろう。
すべての母親にとって、また父親にとっても、子育てがペナルティにならない社会をつくるために、多方面からの柔軟な対応が求められる。
※1、※2 CHILDREN AND GENDER INEQUALITY:EVIDENCE FROM DENMARK
※3 古村 典洋(京都大学) | Child Penalty と Gender Gap
※4 リクルートワークス研究所 | Works175号 特集 女性活躍推進から、ジェンダー平等へ
【参照サイト】リクルートワークス研究所 | Works175号 特集 女性活躍推進から、ジェンダー平等へ
【参照サイト】 NHK | 視点・論点 – “チャイルドペナルティー”の実態
【参照サイト】大和総研 | 出産・育児が生み出す男女の所得格差の実態
【参照サイト】Business Insider Japan | 女性が子どもを産むとその賃金は激減し、取り戻すことは難しい…ノーベル経済学賞を受賞したゴールディン教授の研究で判明
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