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地域通貨とは・意味

地域通貨

地域通貨とは?

特定の地域や目的を同じくするコミュニティ内などで流通し、その限られたエリアの中で提供される商品やサービスと交換できる通貨のこと。英語ではregional currencyやcommunity currencyなどと言われる。

資金がその地域内で還流する仕組みであることから、地域経済の活性化や、コミュニティの発展、環境への配慮などを目的とするものが多い。発行形式としては紙幣や商品券のような紙タイプのものやプリペイドカード型、最近ではスマートフォンアプリなどを利用したデジタル通貨など様々である。

法定通貨との違い

法定通貨とは円やドルなど国家や中央銀行によって発行・管理され、法律による強制通用力を持つ通貨のこと。一方、地域通貨は、自治体やNPO、地元の企業や地域商店街などによって発行される。また、法的な強制力がないため、その利用にあたっては信用力の醸成が大きな鍵となる。

地域通貨が法定通貨と大きく異なる点として、利子がつかない、または利用期限を設けるなど、時間とともに貨幣価値が下がるマイナス利子となることだ。これは貯めることより使うことを重視し、消費活動を促進して地域やコミュニティ内での資本を循環させることを目的としている。また、単なる経済活動の手段としてではなく、相互扶助をベースにした人の感情の部分に訴求する経済外活動を内包しているところが、地域通貨の特徴と言える。

地域通貨の歴史

地域通貨の概念は19世紀にイギリスで生まれた労働通貨が起源とされることも多いが、日本の江戸時代に発行された藩札も地域通貨のひとつとして考えられる。その後1900年代に入り、ドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルによって消費を促進し、貯蓄ではなく循環に向かう「減価する通貨」の概念が提唱された。

世界大恐慌後、不況に喘ぐ1930年代のヨーロッパにおいて、この考えを元にオーストリアやドイツなどで経済対策として地域通貨が発行された。経済の復興とともに一旦衰退するが、1980年代以降、カナダで「LETS(Local Exchange Trading System)」や、アメリカでは「タイムダラー」「イサカアワー」などの地域通貨が次々と発行され、世界各地に広まった。

日本では、1999年に緊急経済対策として「地域振興券」が配布されたことをきっかけに2000年代前半に多くの地域で地域通貨が誕生しブームとなった。最大で300を超える地域通貨が国内で同時に流通するまで拡大したが、2005年をピークにその数は減少している(※)。当時は紙の通貨を使用しているものが多く、発行や管理の負担が大きいことや、利用者数の伸び悩み、不正利用などがその原因と言われている。

デジタル地域通貨

紙で発行・運用されていた地域通貨は利用されなくなったものも多いが、近年デジタル技術が進歩し、ブロックチェーンの導入やスマートフォンやキャッシュレス決済の普及により、2010年代以降デジタル地域通貨として新たな可能性に注目が集まるようになった。デジタル地域通貨のメリットとしては次のような点が挙げられる。

  • 物理的な通貨の発行や発送が必要なく、手続き・運用の効率化
  • プラットフォームの共有や二次元コードの活用により、導入や運営のコストが抑えられる
  • ブロックチェーン技術により、偽造リスクが大幅に低減され、改ざんや不正利用を防げる
  • デジタルのプラットフォーム上に集約することで、ポイントなどのインセンティブの発行が容易になり、消費や利用者の行動変容を促進
  • プラットフォームをメディアとしたコミュニティの活性化や、収集したデータのマーケティングや広報への活用につなげることができる

地域通貨の種類

ここでは世界と日本で流通している地域通貨をいくつか紹介する。

LETS

1983年にカナダのバンクーバーでマイケル・リントンが立ち上げた地域通貨。当時、炭鉱の閉山などにより地場産業が無くなることで法定通貨が不足する懸念があり、地域内で自給自足できるシステムを作り自律性を高めることを目的としていた。紙幣を発行する発券方式ではなく、参加者が共同で口座を管理する口座登録方式を取っている。

物やサービスを提供した側にはプラス、提供を受けた側にはマイナスが記載されるが、原資を必要としない点や、取引は会員同士で行われ相互の信頼関係によって成立していることが特徴として挙げられる。この方式はヨーロッパやオセアニアの地域にも広がり、フランスではSEL(仏: système d’exchange local)、ドイツではタオシュリンク(独: Tauschring)、オーストリアではタオシュクライス(独: Tauschkreis)と呼ばれている。日本では千葉市の地域通貨「ピーナッツ」などがこの方式を取り入れている。

さるぼぼコイン

2017年に飛騨信用組合によってスタートし、運営している地域通貨。岐阜県高山市・飛騨市・白川村で利用が可能。地域内での経済活動の循環や、年間多く訪れる外国人観光客のインバウンド消費の機会損失を無くすことを目的として設立された。スマートフォンアプリを活用し、QRコード読み取り方式による決済のため加盟店の負担も少なく、地域内外の人が簡単に利用できる。チャージによるプレミアムポイントの付与、公共料金の支払いやユーザー間の送金なども可能で地域住民の間でも利用しやすい仕組みになっている。

一方で、情報サイト「さるぼぼコインタウン」を運営し、さるぼぼコインでのみ購入が可能な、飛騨地域ならではの体験や商品を裏メニューとして発信し、地域外の旅行者などの利用を促進する仕掛けづくりも行っている。2023年現在で加盟店数は1,900店を超え、累計決算額は約60億円に上るなど、日本国内では最も成功した地域通貨のひとつと言われている。

まちのコイン

民間企業である「面白法人カヤック」が立ち上げた地域通貨。2019年から鎌倉市で実証実験を行い、2021年から正式にスタートした。地域通貨としての経済外的役割を重視しており、「ひと・まち・地球にうれしい体験で地域をつなげるコミュニティ通貨」と謳っている。地域の人同士のつながりを生んだり、住民にSDGs活動の参加を促すなど、お互いにより良い個性のあるまちづくりに貢献できる仕組みが特徴である。

また地域住民の内需拡大だけに留まらず、仕事で訪れる人やその街が好きな人など地域外の人にもオープンで、関係人口の増加にも一役買っている。現在は鎌倉市や小田原市をはじめ、全国22地域において運用されており、導入地域が増えることで地域間でのコインの交換が可能になり交流人口の拡大も期待できる。今後は広告システムやチャージ機能を構築し、収益を運営団体とシェアすることで、コストの負担を軽減し、さらなる持続可能なシステムづくりを目指している。

まとめ

行き過ぎた資本主義により生まれる様々な格差、高齢化や社会的孤独・孤立、気候危機をはじめとする環境問題。現在の社会を生きる私たちの前には多くの問題が立ちはだかっている。こうした問題の解決のために、地域通貨の重要性が改めて見直されている。デジタル技術の革新により、これまで難しいとされていた運用を持続させるためのソリューションも登場しさらなる発展も見込まれる。法定通貨にはない新たな価値を生み出し、私たちの行動変容や豊かなつながりのある地域社会を実現するものとして、地域通貨は可能性を秘めたものだろう。

日本における地域通貨の現状と課題 -近年の新潮流を踏まえて

【参照サイト】国⽴国会図書館 | 地域通貨の現状とこれから―各地域の具体的な取り組み事例を中心に―
【参照サイト】NTTビジネスソリューションズ | デジタル地域通貨の活用ポイントとは?仕組みやメリットを解説
【参照サイト】Deloitte | デジタル地域通貨の構造的な課題と持続可能性
【参照サイト】さるぼぼコイン|飛騨地域限定の電子地域通貨で暮らしも旅もキャッシュレスに
【参照サイト】まちのコイン | まちのコイン ひと・まち・地球にうれしい体験で地域とつながるコミュニティ通貨




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