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デ・グロース(脱成長)とは・意味

デ・グロース(脱成長)とは?

社会全体におけるエネルギーや資源の使用量を計画的に減少させる政治的・経済的変革のこと。経済成長を強く信仰する現代消費社会の価値規範そのものを問い直し、資本主義の世界の中で疎外されてきた、経済以外のものに価値を置いた生活を再評価・模索することである。

脱成長では、大胆な再分配やグローバル経済において使用されるエネルギー・資源の削減、ケアや連帯、自治を共通の価値とすることで、これまでの大量生産・大量消費の様式から、生態系のウェルビーイングを優先させた、よりサステナブルでローカルな経済・政治活動への移行を目指しており、エコロジカル・フットプリントなどの環境負荷の削減、不平等や排除などの社会的不公正の是正が提案される。したがって、コントロールの効かない不況とは区別される変化である。

「持続可能な脱成長」が実現された社会においては、物質的なモノの蓄積は人々の中での主要な価値とみなされず、効率性よりも充実性、テクノロジーの革新だけでなく、人々が生き生きと、シンプルに生きるための技術や社会的革新が追求される。

脱成長が注目される背景

脱成長は、21世紀の初頭から南ヨーロッパを中心に広がった新たな思想運動であり、フランスの思想家、セルジュ・ラトゥーシュらによって消費社会のグローバル化による生活の質の悪化を是正するための、様々な理論や実践が提唱された。

それが今注目されている背景の一つには、気候変動の深刻化と、各国が掲げる気候変動対策が達成される見込みが低いことへの課題意識があるだろう。多くの政府は、環境負荷を大幅に下げながら経済を発展させていくことをゴールに掲げている。これは経済発展から環境負荷を切り離す、デカップリングを前提としている。しかし、これが長期的にあらゆる環境負荷を相殺する形で起きた事例は、これまで見つかっていないと指摘されている。この現状に対して、着実に環境負荷を減らすことができるであろう脱成長にも注目が集まっているのだ。

また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの蔓延も議論を押し進めた一因である。パンデミックの最中で、人間の健康とウェルビーイングが重視されるようになったほか、危機に対して、自己犠牲や連帯の精神、自己と集団の利益などを組み合わせて立ち向かうことが求められることとなった。これらは、脱成長が重要視するコモンズ(資源を共有する生活システム)や、それを共に管理するコモニングの実践を加速させた。

脱成長の「8つの再生プログラム」

脱成長において重要視されるものの一つに、地域の中で資源やお金を回し、生産地と消費地、生産者と消費者、人々と自然界の距離を縮め、地域の人々が自分たちで自立して経済を回す「ローカリゼーション」への移行がある。これに必要なプロセスを8つの段階にしたものが、ラトゥーシュによって提案された、以下の「8つの再生プログラム」だ。

1. 再評価
これまでと異なる価値観を再評価すること。例えば、競争よりも協力、消費よりも社会生活、合理性よりも思慮深さを優先させる新たな考え方を認めること。また、自然と人間の調和を目指すこと。

2. 概念の再構築
価値観を変革し、新たな概念で未来を構想すること。大量消費を賞賛するような考え方から、自然がリジェネレーションする速度以下の消費速度に抑えるべきとする価値観への転換などを意味する。

3. 社会構造の再転換
新たに構想された社会の価値に基づき、社会構造や社会関係を調整すること。

4. 再分配
公正な社会実現のため、社会関係の再構造化を通じて,再分配を行うこと。 階級間、世代間などのの各社会の内部に加え、富及び自然資源へのアクセスの分配も含む。

5. 再ローカリゼーション:
経済活動だけでなく政治的、文化的な決断を地域規模で実行、地域のガバナンス能力を高めること。商品と資本の移動を必要最低限の範囲に制限し、資源の消費を抑制することで地域が潤うことが前提にある。

6. 削減
自然環境や社会関係に対する負荷を削減すること。資源の浪費を可能な限り減らす他、エコロジカル・フットプリントや不平等などをなくすこと、保健衛生上のリスク削減や労働時間の削減なども目的とされる。

7. 再利用
周期的な破棄を止め、地域の人材や資源を再利用すること。

8. リサイクル
再利用不可能な廃棄物をリサイクルし、次世代に持続可能な生存基盤を残していくことを目的とする。

脱成長の実現を目指す取り組み事例:コミュニティ経済

脱成長を目指し、世界では草の根レベルから自治体レベルまで、さまざまな活動が行われている。下記では、既存の経済とコモンズを組み合わせることで、搾取されてきたコミュニティや環境保護システムが効果を発揮しているスペインの事例を挙げる。

カタルーニャー総合協同組合(CIC)

スペインのバルセロナのカタルーニャー総合協同組合は、多様な生産活動と個人事業主数百人を結び付けている。CICは独自の通貨を発行しており、銀行としての機能も有しているため、新たな事業が生まれる際にはここから資金が融資される。

そのなかで生まれた一つが、工場跡地を利用した共同体プロジェクト。プログラミングのためのラボ、石鹸開発の拠点、プロの音楽スタジオ、大工仕事の工房など、さまざまな活動のために利用されている。

連帯経済ネットワーク(XES)

同じくバルセロナにある組織「連帯経済ネットワーク(XES)」には、約11万人がメンバーとして参加している。同組織は、6,000人の雇用を創出し、400種類の活動を支援しており、多様な市民がそれぞれの目標を実現できるように後押ししている。

XESのなかには、100%再生可能エネルギーによる電力が手ごろな値段で家庭に供給される組合や、電気自動車のシェアリングが可能な組合、保護者が共同で運営し、交互に面倒を見る保育グループの組合など、地域菜園で野菜の共同栽培、農産物の直接購入ができる組合など、さまざまな組合がある。

上記はいずれもバルセロナの事例だが、米国では、カリフォルニア州オークランドにある55歳以上を対象とした自主運営のコハウジング・コミュニティ「フェニックス・コモンズ」や、ミシシッピ州にあるCICと似たネットワーク「ジャクソン協同組合」などがある。

その他、世界中に何百というエココミューンやトランジション・タウン、コリビングやコハウジングのコミュニティがあり、国内外のネットワークと知識を交換しながら活動している。

ジローナ市:脱成長を導入した政策へ

スペイン北東部に位置するジローナでは、2024年4月、市議会が気候変動対策として脱成長を取り入れた政策を実施していくことを公表した。ジローナ大学とバルセロナ自治大学環境科学技術研究所、学術組織・Research & Degrowthと協働して推進される予定だ。

この協定により、1年間で1万ユーロ(約168万円)の予算がつき、様々な実験的取り組みが行われるとのこと。政策面における脱成長の実現については、知見の不足が指摘されており、こうした具体的な実践から蓄積されることが期待される。

人や自然との「関係性の再構築」

脱成長においては、「人とのつながり」、そして人間や自然との共生の大切さを認識して関わり、人としての感性を「取り戻す」ことも大事な要素だとされている。パンデミックや災害発生などの緊急時には、人とのつながりが大きな意味を持つ。脱成長の考え方には、これまで経済成長を追求するあまりなおざりにされてきた「人との関係性」を再構築する役割もあるのだ。

また、これまで経済活動のために人間が身勝手に破壊してきた自然を再生(リジェネレーション)させ、その関係性を再構築することも求められている。脱成長はこれら2つの関係性を回復させ、ケアとコミュニティの連帯をさせながら、より公平で持続可能な未来を形作っていくヒントとなるかもしれない。

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【参照サイト】What is degrowth?
【参照サイト】Research and Degrowth
【参照サイト】セルジュ・ラトゥーシュの「脱成長」理論について
【参照サイト】Girona City Council, pioneering administration to explore degrowth
【参考文献】中野佳裕(2017)『カタツムリの知恵と脱成長』コモンズ
【参考文献】ヨルゴス・カリス/スーザン・ポールソン/ジャコモ・ダリサ/フェデリコ・デマリア(2021)『なぜ、脱成長なのか 分断・格差・気候変動を乗り越える』NHK出版

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