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ケアエコノミーとは・意味

ケアエコノミーとは?

ケアエコノミーとは、家事や育児、介護、看護などのケアワークに関する経済活動のことをいう。ケアエコノミーの推進は、ジェンダー平等の他、雇用の創出や貧困削減など持続可能な経済・社会づくりに貢献すると期待されている。

ケアワークは、報酬の有無やフォーマル、インフォーマルにかかわらず、あらゆる場所に存在している。高齢者やその他支援が必要な人への介護サービス、保育士や看護師、障がい者支援など、有償の公的なケアワークから、家庭内での家事や育児、身内の介護など無償の労働(アンペイド・ケアワーク)まで、幅広いケア関連活動が存在し、それらすべてがケアエコノミーを構成している。

ケアエコノミーの現状

ケアワークは世界の多くの国や地域で、十分な利益や保護がなく、低賃金で割に合わないうえに、身体的、精神的に負担の大きい、最悪の場合は性的に搾取されうる、「価値の低い」仕事だと考えられている。とりわけ高齢化が進む高所得国では、ケア関連の労働者不足を女性の移民に依存することで確保している場合も多いが、労働者たちの人権侵害も多く報告されている。

このケアワーカーの問題は、「グローバル・ケア・チェーン」と呼ばれる現象にもつながっている。これは、低所得国からの女性労働者が自国での家族を親類に任せ、他国でケア労働を行うというものだ。このような女性は、しばしば自身も家政婦を雇う必要があるため、ケアの必要性がさらに連鎖していくのだ。国際労働機関(ILO)の2015年の推計では、全世界の移民労働者約1億5,030万人のうち、約1150万人が家事労働者として働いているとされている。

ケアワークのこれらの問題は、労働者の適切な保護、適正な賃金、労働条件の改善、そして性的搾取や人権侵害の防止を通じて、国際社会が解決に向けて取り組む必要がある。国際的な協力と政策の強化が、ケアワーカーの状況を改善するためには不可欠だといえる。

ケアエコノミーと雇用創出

そのように、今、特に先進国において、子どもや高齢者への介護の需要の高まりに伴い、ケアエコノミーは拡大しており、これから数年の間にケア関連の就労機会のさらなる増加が見込まれている。国際労働組合総連合(ITUC)によると、公的資金をケア産業に投資することで、国の借金を減らすことができるだけでなく、現在のケア関連活動における人手不足やジェンダー不平等の問題解決にもつながるとされている。また、将来的に先進国と途上国双方における大量の雇用創出の可能性も秘めている。

最近の推計では、ケアエコノミーにGDPの2%を投資すると、イタリアでは100万、イギリスでは150万、ドイツでは200万、アメリカでは1300万ほどの雇用機会を生みだし、高所得の7か国全体で2,100万人を超える雇用創出が見込まれている。そのような公共投資は、社会保障給付を伴う、相対的に良質な雇用の創出につながるだけでなく、多くの国で女性の雇用創出を促進すると言われており、日本では5ポイント以上の上昇が見込まれる。

これらのデータは、ケアエコノミーが単に社会サービスを提供するだけでなく、経済成長と社会的公平を促進する有力な手段であることを示している。公的資金の投資により、高品質の雇用が創出されると同時に、経済全体の均衡が改善される可能性があるだろう。

日本における無償ケアワーク(アンペイドイワーク)

日本において、家事や育児・介護・看護の多くが家庭で女性によって無報酬で行われている。この無償ケア労働に費やす時間は、日本人女性が1日平均3時間28分であるのに対し、男性は1日平均44分(平成28年『社会生活基本調査』)。男性が有償労働に費やす時間は女性より長いが、無償・有償労働を合わせると女性の方が長時間働いているとされる。

▶️アンペイドワークとは・意味

このようなジェンダーに基づく労働時間の不均衡は、社会全体の性別役割の固定化と、女性のキャリア進展や経済的自立への障害となっている。無償ケアワークの重負担が女性の労働市場参加やフルタイム雇用の機会を制限し、結果的に職業選択や収入の機会均等に影響を与えていると考えられる。

▶️ジェンダー不平等とは・意味

ケアエコノミーの世界の事例

フィンランドは発展した福祉国家として知られ、特にケアエコノミーにおいても充実した支援体制を整えている。同国では、家庭で子どもを育てる選択を支援するために、3歳未満の子どもを家庭で育てる場合には毎月338ユーロ、3歳から6歳の子どもに対してはより少額の支援金が支給される。これにより、人々が家庭と職業のどちらを選択するかの自由が保障されている。

また、フィンランドは家族や親戚の介護支援も充実しており、介護を必要とする家族がいる場合、最低393ユーロの支援が月に提供され、仕事を一時的に休む必要がある場合は784ユーロが支給される。

これらの制度は、北欧諸国だけでなく、他のヨーロッパ諸国にも見られる。たとえば、フランスでは雇用されている女性だけでなく、求職中または一時的に失業している女性にも妊娠や出産手当が支給される。また、父親に対しても、同様の条件で手当が支給されることがある。フランスでは、家族のためのさまざまな社会保障コードが存在し、無職の家族メンバーにも福祉が提供される。

ケアと気候変動の関わり

ケアエコノミーと気候変動は密接に関連しているといえる。ケア労働は、気候変動によって引き起こされる自然災害などが家庭内でのケアの負担を増大させることから、特に影響を受けやすい分野だ。たとえば、洪水や干ばつ、熱波などは、健康ケアのニーズを高め、家庭内のケア労働者に対する圧力を増大させる。これにより、特に女性や子どもが教育や労働市場から撤退することを強いられることがある。

国連などの国際機関は、ケアを公共財として再定義し、気候変動対策との統合を推進することで、これらの課題に対処しようとしている。具体的には、ケア労働の再分配と公正な労働条件の確保を通じて、ケアと気候変動対策を統合することが求められている。

また、気候変動が進行する中で、ケア労働者が直面する環境的なリスクに対しても、適切な支援と保護が必要である。これには、労働環境を改善し、災害時の緊急支援を充実させることが含まれる。最終的に、ケアエコノミーの強化は、気候変動対策と社会的公正を推進するための重要なステップとなるといえる。

ケアエコノミーの今後

持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット5.4は公共のサービス、インフラおよび社会保障政策の提供を通じて、女性による無償ケア労働を減らし、家庭と社会におけるケアの分担を奨励しており、実現のためには、無償労働の価値の認識、労働の適切な削減や分配が行われる必要がある。現在の無償の育児や介護が、多様なサービス提供の仕組み(ケア協同組合、市民社会、ボランティア活動など)にとって代わることで、これまで家族の無償労働をしていた人の有償労働への参加が高まり、ジェンダーの不平等、労働供給と労働市場における不平等が解消される。

今後は、各国の異なる文化的、経済的現実を考慮しながら、ますます拡大するであろうケアエコノミーにおいて、バランスの取れた形で有給、無給労働ともに促進されることが必要だ。有給のケア提供者への労働条件改善のためのアプローチのほか、ケアワークという用語が持つネガティブなイメージを変えていくことなども求められており、これまで担保されていなかった、ケアを提供する側と受ける側双方の福祉向上のための、適正で持続可能な政策が必要となる。

【参照サイト】European Institute for Gender Equality
【参照サイト】ILO The Care Economy
【参照サイト】LSE Investing in the Care economy
【参照サイト】Inequality.org
【参照サイト】From a care economy to a care society
【参照サイト】Insights into Care Economy
【参照サイト】ILO ILO100周年記念イニシアチブ「仕事の未来」
【参照サイト】岡山大学 持続可能な経済・社会「ケアエコノミー」の研究




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