気候危機とは・意味
気候危機とは?
気候変動は私たちが思っているよりも急激に進み、一刻も早く対策を打たなければ手遅れになる。そんな考えから、気候変動よりもより緊急性を上げて使われるようになった言葉が気候危機だ。英語では「Climate risk」「Climate crisis」「Climate emergency(気候非常事態)」などと呼ばれる。
気候変動から気候危機へ
気候変動とは「長期的な気象パターンを意味する気候の変化」を指す。
気候変動の要因には自然的なものと人為的なものがあり、自然の要因には大気自身に内在するもののほか海洋の変動や、火山の噴火や太陽活動に起因するものなどがあげられる。一方で、1800年代以降の気候変動の要因は主に人為的なものとされ、その要因には人間活動に伴う二酸化炭素などの温室効果ガスの増加や森林破壊などがあげられる。
2019年9月、国連総会にあわせて開かれた温暖化対策サミットの中で、国連のグテーレス事務総長は、「気候変動はもはや気候危機であり、気候非常事態である」と呼びかけ、各国の動きを加速するよう促した。
なお、同年5月にはイギリスのガーディアン紙が、世界が直面する環境危機をより正確に表現するために、気候変動(climate change)から気候非常事態、危機、崩壊(climate emergency, crisis or breakdown)を使うと発表。またオックスフォード英語辞典を出版するイギリスのオックスフォード・ランゲージズは、2019年の「今年の言葉」に気候非常事態(climate emergency)を選出している。
日本でも2020年6月、環境省が発行した2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」の中で、初めて気候危機という表現を使用している。
今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって、今後、豪雨災害等の更なる頻発化・激甚化などが予測されており、将来世代にわたる影響が強く懸念されます。こうした状況は、もはや単なる「気候変動」ではなく、私たち人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われています。
ついに出された「気候非常事態宣言」
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、下記のような気候変動のリスクを予測している。
- 気温の連続的な上昇
- 極端な気象現象の発生
- 農作地の減少
- 生態系の変化
- 疫病の蔓延スピード上昇
- 北大西洋ドリフトの減衰
特に、気温上昇は人々の最大の関心事といえる。IPCCの報告書では、気候変動が今のまま続くと、2040年ごろには世界の平均気温が産業革命前より1.5度上昇し、さらなる自然災害や環境面での弊害が出ると指摘している。
そんな折、ついに気候非常事態宣言が出された。気候危機が迫っている今は非常事態だと宣言し、それに対する具体的な取り組みが自治体単位で行われている。
世界で最初に宣言を出したのはオーストラリア・デアビン市である。草の根活動家が政治家に個別に働きかけを行い、2016年に議決にこぎつけた。その後、欧米に拡大し、特に2016年に熱波で93人が死亡したカナダのケベック州では300以上もの自治体がこの宣言に参加。今や世界中で2,364以上(2024年9月時点)もの地域や自治体が宣言を出しており、対象となる市民はおよそ10億人にのぼる。
日本では、長崎県壱岐市が2019年9月に初めて気候非常事態宣言をし、神奈川県鎌倉市がそれに続いた。日本初のこの宣言は「2050年までにCO2排出量を実質的にゼロにする」など野心的な目標が掲げられたとして、話題となった。
【関連記事】長崎県壱岐市が日本初の「気候非常事態宣言」。2050年までにゼロエミッション、再エネ自給率100%目指す
気象危機の厳しい現状
非常事態宣言を出し、気候変動に対する取り組みを行っている自治体は決して少なくないが、現状は厳しい。
2023年4月、世界気象機関(World Meteorological Organization:WMO)の年次報告書によると、気候変動は2022年も世界中で進行を続けた、と書かれている。
たとえば、世界の平均気温は、2022年に1850〜1900年の平均気温を1.15℃上回り、2015年から2022年にかけては、過去3年間にラニーニャ現象による冷却効果があったにもかかわらず、記録上最も温暖な8年間となった。
先述の通り、IPCCの報告書が「気候変動が今のまま続くと、2040年ごろに世界の平均気温が産業革命前より1.5度上昇し、さらなる自然災害や環境面での弊害が出る」と指摘。2015年に行われた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)にて、世界各国は世界の気温上昇を2度未満に抑えるための取り組みに合意し、長期的な世界の気温上昇分をできる限り1.5度に抑えようとしている。
しかし残念なことに、EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」のデータを用いたイギリスの公共放送BBCの分析によると、2023年はこの「1.5度」目標を超えた日数が過去最多となった。さらに、1850年以降最も温暖な年となってしまったのだ(2024年1月現在)。
WMOの報告書では他に、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素という3つの主要な温室効果ガスの濃度が、1984〜2021年において、2021年に観測史上最高値を記録したことが記されている。2020〜2021年の年間メタン濃度の増加量は過去最高であり、3種類の温室効果ガスのレベルは2022年も上昇し続けている、ともある。
気候危機は社会経済にも影響を及ぼす
スウェーデンの首都ストックホルムにあるレジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム氏らによって2016年に提唱された「SDGsウェディングケーキ」は、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標を「生物圏(Biosphere)」「社会圏(Society)」「経済圏(Economy)」の3つの層に分類したものだ。
一番下の層が生物圏、その上に社会圏、さらにその上に経済圏が乗った「SDGsウェディングケーキ」から分かる通り、私たちの社会やお金を生み出すための経済は地球環境の基盤があることで成り立っている。
すなわち、気候危機は社会経済にも影響を及ぼす。
たとえば国際労働機関(International Labour Organization:ILO)が2019年に発表した資料では、気候変動による世界的な気温上昇による「熱ストレス」が雇用と生産性の損失に影響を与える、としている。
熱ストレスとは、生理的な障害を受けることなく身体が耐えられる限度を超えた熱を受けることを指す。気候変動により生じる熱ストレス、過剰な暑さは、人を死に至らしめることもある熱中症を引き起こし、労働者の業務上のリスクを高めることになる。加えて、人口増加や都市化によって熱が集中する地域が急増すれば、熱波の影響がさらに強まることとなり、労働者が直面するリスクを悪化させることが予想される。
この熱ストレスは、2030年に世界の総労働時間を2.2%、世界のGDPを2兆4,000億ドル(2023年10月23日時点で約359兆円)まで減少させると予測されている。
2022年10月、科学誌『Science Advances』に掲載された記事では、各国の経済データや毎年の最も暑かった数日間の気温を測定する猛暑指標などを用いて、猛暑が世界経済に及ぼす影響を定量化した結果、人為的な要因によって引き起こされた猛暑による1992年から2013年の世界経済の累積損失は5兆ドル(約749兆円)から29兆3,000億ドル(約4,393兆円)に達する、と書かれている。
国立研究開発法人国立環境研究所を含む複数の国立研究開発法人、国立大学法人などの研究グループは、地球温暖化によって生じる経済的な被害額の推計を行い、成果を論文として公表している。
上記論文では、RCPs(Representative Concentration Pathways、代表濃度経路シナリオ)やSSPs(Shared Socioeconomic Pathways、共通社会経済経路)といった気候変動研究において広く用いられているシナリオ(将来の仮定)の下で、21世紀末(2080〜2099年)における全世界での地球温暖化による被害額(対GDP比)を推計。その結果、気温の上昇が大きい最も悲観的なシナリオの場合、被害額は世界全体のGDPの3.9〜8.6%に相当する結果となった。
ただし、その一方で、COP21において採択された「パリ協定」の2℃目標を達成し、かつ地域間の経済的格差等が改善された場合には、その被害額は世界全体のGDPの0.4〜1.2%に抑えられるという推計結果も得られている。
私たち一人ひとりができること
BBCはウェブサイトにて、気候危機を抑えるために各国がなすべき重要なこととして、以下の6つをあげている。
- 化石燃料は地中に残す
- メタンガス排出を抑制する
- ガソリンやディーゼル(軽油)の使用をやめる
- より多くの木を植える
- 大気中の温室効果ガスを除去する
- 経済的に貧しい国を支援する
私たち一人ひとりにもできることはある。
イギリスの気候変動委員会(The Climate Change Committee:CCC)はウェブサイトにて、イギリスが目標とする温室効果ガス排出量をネット・ゼロにするためのシナリオのため、個人や家庭ができる行動について、以下の内容を示している。
移動手段について
- 車よりも徒歩や自転車、公共交通機関を選ぶ
- 次の車は電気自動車に、そして「賢く」充電する
- 可能な限り、飛行機、特に長距離便の利用を控える
住まいについて
- 家のエネルギー効率を改善する(例:風通しを良くする、断熱性を高める、LED電球や高効率の電化製品を選ぶなど)
- 暖房は19度以下に、お湯の温度も55度以下に設定する
- ヒートポンプなど低炭素型の暖房設備への切り替えを検討する
- 夏場、室内の暑さ対策には日差しを遮る遮光カーテンやブラインドなどを選ぶ
食べ物や買い物について
- 動物性食品を控える
- 生ゴミはできるだけ出さないようにする
- ゴミの分別回収や廃棄物のリデュース、リユース、リサイクルを心がける
- 長く使える良質な製品を選び、長く使い、買い替える前には修理するよう心がける
- 電動工具のように頻繁に使わないものは、購入ではなくシェアリングサービスを活用する
- 車を定期的に使わないのであれば、カーシェアリングを検討する
冒頭でも述べたように、気候変動は私たちが思っているよりも急激に進んでいる。気候危機はもはや他人事ではない。CCCが示すような気候危機対策を生活に取り入れ、身近なことから対策に励みたい。
【参照サイト】気象庁|気候変動
【参照サイト】What Is Climate Change? | United Nations
【参照サイト】Why the Guardian is changing the language it uses about the environment
【参照サイト】Oxford Word of the Year 2019.
【参照サイト】WMO annual report highlights continuous advance of climate change | World Meteorological Organization
【参照サイト】World breaches key 1.5C warming mark for record number of days – BBC News
【参照サイト】Globally unequal effect of extreme heat on economic growth | Science Advances
【参照サイト】複数分野にわたる世界全体での地球温暖化による経済的被害を推計 | 東京大学
【参照サイト】COP27: How do you stop climate change? – BBC News
【参照サイト】What can we all do? – Climate Change Committee
【参照サイト】Climate emergency declarations in 2,364 jurisdictions and local governments cover 1 billion citizens
【参照サイト】Copernicus: 2023 is the hottest year on record, with global temperatures close to the 1.5°C limit
【関連記事】スイスのシニア女性グループが、歴史的勝訴。気候危機への対策不足は「人権侵害」
【関連記事】暑すぎた2023年は何色か?気候変動の“色”が伝える危険信号
【関連記事】地球環境の限界を示す「プラネタリー・バウンダリー」9項目中6つが上限超過。初の全体マッピング公開
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