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環世界とは・意味

テントウムシの写真

環世界とは

環世界とは、生物がそれぞれ独自の時間・空間として知覚し、主体的に構築した世界のこと。1900年代初頭に、ドイツの生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した。生物を取り巻く普遍的な時間や空間を一般的にドイツ語で「Umgebung(環境)」というのに対し、ユクスキュルはこの概念を「Umwelt(環世界)」と呼んだ。

「Umwelt」は、主体にとっての感覚器によって知覚できる世界(Merkwelt)と、身体を使って働きかけることができる作用世界(Wirkwelt)によって構成される。おそらく、どの生物も自身の環世界がすべての世界だと思い生きている。また、ユクスキュルによると個々の環世界はシャボン玉のようなものに包まれているという。それぞれ接してはいるが、摩擦なく全体の中で調和を取りながら存在していると定義している。

それぞれの生物の環世界

ユクスキュルは著書『生物から見た世界』の中で、同じ空間に対して、人間と犬とハエとではその捉え方がそれぞれ異なることをひとつの絵を用いて紹介している。絵の中には、テーブルの上に載ったワイングラスやお皿のほか、椅子やソファ、照明、本棚など人間の日常的な暮らしのワンシーンを表す風景が描かれている。私たちにとってはどれも意味があるものであり、すべてに色が付いているように認識する。

しかし、この部屋に犬が入ってきたとしたら、同じ空間をどう捉えるのだろうか。椅子やソファは、飼い主である人間が座るもので、その匂いを感じられたり、自身も寝そべったりする場合もあるので必要なものだ。また、テーブル自体には興味はないが、上に乗っている食べ物や飲み物には関心がある。一方で、本棚などは犬にとってはまったく意味のないものとみなされるし、視力が良くない犬には照明が付いているかどうかもあまり関係ない。

さらに、一匹のハエが入ってきた場合はどうか。ハエにとって関心のあるものは食べ物のみである。また、光には反応するので照明は煌々とついていると感じるだろう。しかし、テーブルや椅子、本棚などはまったく意味のないものであり、無きに等しいものと思われる。このように、生物が環境を主観的にどのように認識しているかによって、そこにあるものは変わらないのに、まったく違う世界が生まれるのだ。

また、本の冒頭に書かれているマダニの話も有名だ。木の上などに生息するマダニは、視覚や聴覚を持たない。しかし、嗅覚を頼りに、下を通りかかる哺乳類から発する酪酸の匂いを感じ、木から落ちる。鋭敏な温度感覚によって温血動物の上に落ちると、そこから触覚を働かせ、なるべく毛の無い場所へ移動し、その動物の血液を吸い自身の体内に取り込む。

つまり、その3つさえあれば、生きるために必要なものは満たされ、子孫も残せるため、花が咲いていようが、鳥がさえずっていようがマダニには関係ない。ただひたすら獲物となる哺乳類が自分の下を通りかかるのを待つ、というダニだけの世界をつくっている。

ユクスキュルの視点で今の時代を見る

ユクスキュルはまた、生物と環境について独自の見解を展開した。人間を含む動物は、自分が周囲を取り込み、自然や環境と共生している、または征服し自分たちのものになっていると思い込んでいる。しかし、実際にはその逆で、私たちの目に映る「客観的」だと信じるこの世界は、自然界全体から「主観的」なある一部分を型抜きしたものにすぎず、そのように世界を見るべきではないかと唱えている。

人間は、あたかも地球は自分たちのもののように振る舞い、経済発展や快適性を求め続け、気候変動や生物多様性の損失、また地球資源の枯渇など、さまざまな環境問題を生み出している。ユクスキュルは、生物の「知覚世界」はそれぞれが意思を持って構築したのではなく、あらかじめ自然設計に組み込まれたもの、と考えた。今、改めて我々がその感覚を持ち、従来の価値観や行動様式から脱却することが必要なのかもしれない。

また、環世界は人間同士においても存在するものである。同じ物や場所を共有していても、感じ方や意味合いが全く異なり、同じ瞬間に別の環世界にいることも多くある。こうした環世界の存在を知ることは、多様性を受け入れ、それぞれが自分に必要な環世界を実現し、この混沌とした現代を生きやすくしてくれるのではないだろうか。

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【参照サイト】ダイヤモンド・オンライン | 私たちの誰もが世界を正しく知覚できない | 天才科学者はこう考える
【参照サイト】本田財団 | 「環境と環世界」
【参照サイト】松岡正剛の千夜千冊 | 0735夜 『生物から見た世界』 ヤーコプ・フォン・ユクスキュル
【参照サイト】WATARIGARASU |【環世界入門】ワタリガラス | 釜屋憲彦(環世界研究者)/ 岡村さくら(キュレーター)SESSION ZERO 分断を再接合する、環世界的な世界観
【参照サイト】緒方 壽人 (Takram)|note | 生物から見た世界〜「環世界」とは何か
【参照サイト】THE PHILOSOPHER | Jakob von Uexküll’s Concept of Umwelt
【参照サイト】New World Encyclopedia | Jakob von Uexküll




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