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アンダークラスとは・意味

アンダークラス

アンダークラスとは?

アンダークラスとは、収入が低く長期的に極端な貧困状態にある人々の層を表す言葉。ケンブリッジ英語辞典では「underclass:社会の他のすべての階級よりも低い社会的および経済的地位を持つ人々の集団」と定義されており、米国では、特に都市の貧困層を指す言葉として使われてきた。

日本では早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二氏が『アンダークラス(筑摩書房、2018年)』、『新・日本の階級社会(講談社、2018年)』といった書籍で論じたことをきっかけに、長期的な貧困状態にあり、自助努力ではそこから抜け出せない層を表す言葉として広く使われるようになった。

アンダークラスには、一般的に非正規雇用者やパートタイマーであったり、身体的・精神的な理由から就労が困難であったりする人々が含まれやすい。そうした人々は心身の健康など、貧困に伴う多くの困難をかかえる場合が多い。こうした貧困状態が世代を超えて固定化され、さらに全体の人口に対する割合も年々増加していることから、深刻な社会課題として捉えられている。

日本におけるアンダークラスの実態

橋本健二氏の定義によれば、アンダークラスには非正規労働者、パート、アルバイト、派遣社員が含まれる(※)。同氏の推計によれば、その数は2015年時点で928万7,000人(2012年就業構造基本調査)にのぼり、就業人口の14.9%を占めるという。

※ 正規雇用の配偶者を持つ非正規雇用者はこれに含まれない。

個人の平均年収はおよそ186万円、世帯の平均年収は343万円となっており、資産ゼロの世帯の比率は31.5%にも上る。賃金は現在の日本社会で子どもを産み育てるには不十分であり、未婚率も男性は66.4%、女性は56.1%と他の層と比べ高くなっている。

生活に不満を持つ人の割合も非常に高く、「自分は幸せだ」と考える人は他の層と比べ少ない。2016年首都圏調査によれば「うつ病やその他の心の病気の診断や治療を受けたことのある人」の割合も20%にのぼるなど、多くの人が精神的に厳しい状態に追い込まれていると言える(※)

※ データはすべて、2015年SSM調査データ、2016年首都圏調査データより橋本氏が算出。

同氏は現代社会ではアンダークラスが階級の1つとして確立されていることを提言し、そうした社会を「新・階級社会」と呼ぶ。以下がその5つの階級だ。

  • 資本家階級:経営者、役員など(個人の平均年収 604万円)
  • 新中間階級:被雇用の専門職、管理職など(個人の平均年収 499万円)
  • 正規労働者階級:単純事務職、サービス業など(個人の平均年収 370万円)
  • 旧中間階級:自営業者など(個人の平均年収 303万円)
  • アンダークラス:非正規労働者、パート、アルバイト、派遣社員など(個人の平均年収 186万円)

アンダークラスが存在する社会的背景

日本においてアンダークラスと呼ばれる層が生まれた背景には、非正規雇用の増大があると橋本氏は言う。

バブル経済が崩壊し、経済危機に陥った1990年代後半、企業は新規雇用を減らし、大卒の若者を正社員ではなく非正規労働者として雇うことが一般的になった。いわゆる「就職氷河期」である。当時の時代背景では、新卒時に一度非正規雇用で雇われた人が正規雇用者になるのは難しかった。このため、その時代に大学を卒業した人々が長く非正規雇用のまま働くしかなく、現在のアンダークラスの大部分はこうした人たちが占めていると言われる。

こうした背景がある一方で、現在の日本では税による所得分配がほとんど行われおらず、相続税の税率も低い。また高等教育(大学など)の学費が高いこと、奨学金制度も整っていないことなどが理由で、こうした格差が世代を超えて固定化され、アンダークラスがひとつの階級として存在するまでに至っているのである。

アンダークラスに陥るさまざまな要因

アンダークラスと呼ばれる階級が生まれた背景は前述の通り国レベルでの経済的背景が大きく関わっているが、より詳細に見ていくと、そうした極度の貧困に陥る原因は数多く存在する。

例えば代表的なのが、配偶者と死別・離別した女性の貧困問題だ。1990年代ごろはまだ女性は結婚し専業主婦になるケースが多かったため、専業主婦として数年、もしくは数十年を過ごしたのちに何らかの理由で配偶者と離別、あるいは死別した場合、そうした女性は一気に貧困に陥るケースが多発したという。

2024年現在では日本の大多数の世帯が男女共働きとなっているためこうした問題は起こりにくくなったとも考えられる一方、未だ男女の賃金格差がある中、子どもを抱えてシングルマザーになった場合など、女性が極度の貧困に陥るリスクは大きい。

他には、これまでは正規雇用者であったが、自身の体調不良や人間関係のトラブル、また親や家族の介護などの事情で仕事を辞めたり変えたりせざるを得なくなるパターン。これは誰にでも起こり得ることであるが、こうした避けられない要因により貧困状態に陥る人々も多く存在する。

親の収入が低かったために高等教育が受けられなかったり、良好ではない家庭環境で育ったりした子どもたちもまた、大人になってから貧困に陥る可能性が高い。高等教育を受けられなかった若者は正規雇用者になれる割合が統計的に低く、不安定な職を転々とする可能性も高くなるためだ。

格差の存在が社会に与える影響

ここまで記載した通り、アンダークラスと呼ばれる状況に陥ることによる当事者の問題については明らかである。一方で、社会の中にこうした大きな格差が存在することで、全体としてもさまざまな問題が起こってくる。

例えば格差が拡大すると、低所得者層の子どもたちが高等教育を受けることができなかったり、十分な職業訓練を受けられない非正規雇用労働者が増えたりするため、人々が能力を向上する機会が失われる。こうした機会損失は、経済活動の低迷にもつながるとされている。

また、格差が大きな社会では所得の差によって全体としての連帯感が失われ、犯罪リスクも上昇すると橋本氏は指摘する。現代の理論 特集「“働かせ改革”を撃つ」の記事「『新しい階級社会』とアンダークラス 格差拡大を止めるのは政治の急務」にて、同氏はこのように述べている。

アンダークラスの絶望は、しばしば犯罪として噴出する。アンダークラスの全体が犯罪予備軍であるかのような偏見は、慎まなければならない。しかし秋葉原大量殺傷事件を思い出すまでもなく、無差別殺傷事件、サイバー犯罪、振り込め詐欺、野宿者襲撃などで逮捕された若者たちの多くが無職や非正規労働者である。切羽詰まったあげくに、犯罪へと追いやられやすい若者たちが、ある程度の数いるのは否定できまい。

アンダークラスと自己責任論の限界

こうした大きな格差を解消するために、格差を縮める政策が必要であると橋本氏は提言する。例えば、最低賃金の引き上げ(1,500円で大学初任給程度)、累進課税の強化、相続税率の引き上げ、所得再配分の強化(資産税の導入など)がその一例だ。

また、『アンダークラス化する若者たち』の編著者である宮本みち子氏は、国が教育へもっと投資すること、また若者の就労支援を国の責任としてしっかりと整えていくことなどを、特に若者の貧困を解消するために必要であると提言している。

こうした政策や取り組みをスピーディーに進めていくためには、自己責任論や自助努力をベースとした考え方から脱却することが、国としても個人としても必要だろう。ここまで述べてきたように、固定化された格差から個人の努力で抜け出すことは難しい。また、現在は問題がなくても、自分の力では避けられない要因により明日から急に貧困状態に陥ることだってあるかもしれないのだ。

私たちが生きたいのは、そうなった時に「自己責任だから」と、見捨てられる社会だろうか。それとも、もう一度立ち上がるために手が差し伸べられる社会だろうか。後者であるならば、こうした問題を一人ひとりがまず自分ごととして捉え、できることを考えていくことが必要ではないだろうか。

【参照サイト】underclass(Cambridge Dictionary)
【参照サイト】若者の2割がアンダークラス 非正規、低賃金、未婚でぎりぎりの生活 ――宮本みち子さんに聞く
【参照サイト】「新しい階級社会」とアンダークラス
【参照サイト】nippon.com もう自助努力だけでは抜け出せない!:ニッポンのアンダークラス
【参照サイト】情報産業労働組合連合会 「アンダークラス」増加という危機 格差拡大は社会に何をもたらすか
【関連記事】自己責任論がうまれるのは「怖い」から。こども食堂支援の第一人者と考える、日本の格差【ウェルビーイング特集 #31 格差】
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