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新しい資本主義とは・意味

新しい資本主義

新しい資本主義とは?

新しい資本主義とは、日本の第101代内閣総理大臣・岸田文雄が掲げる経済政策のことを指す。コンセプトは「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」だ。

この新しい資本主義が打ち出された背景には、これまでの資本主義において、経済成長が進んだ一方で以下のようなさまざまな弊害が生み出されてきたという事実がある。

  • 市場への依存によって生じた「経済的格差や貧困の拡大」
  • 市場や競争の効率性を重視しすぎたことによる「中長期的投資の不足」
  • 行き過ぎた集中により生じた「都市と地方の格差」
  • 自然に負荷をかけすぎたことにより深刻化した「気候変動問題」

新しい資本主義では、これらの問題を単なる障害としてではなくエネルギー源として捉え、誰一人取り残さない持続可能な経済社会を実現するための成長を図っていくという。

これまでの資本主義の流れのおさらい

18世紀にフランスの重農主義者やイギリスの経済学者アダム・スミスによって「自由放任主義」が提唱された。

自由放任主義とは、経済政策において国家による統制や干渉は必要最小限とし、市場原理に任せるべきという考え方である。個人が市場で自由に競争することで経済社会は発展し、「市場の自動調整機能」すなわち「見えざる手」によって経済の秩序は保たれると考えられていた。

しかしそうした資本主義の無制限な競争により、1930年代ごろには世界恐慌という深刻な不況が起こり、失業や戦争などが続いたことから、次第に政府による社会保障を重視する「福祉国家」の考え方が生まれた。アメリカのニューディール政策やイギリスの「ゆりかごから墓場まで」をスローガンとした福祉国家政策がその代表である。

その後も福祉国家的な考え方が主流となっていたが、1970年代の石油危機による経済的混乱が起因し、アメリカではスタグフレーションが進行して失業率が増大した。こうした行き詰った状況は政府の過度な介入が原因であるという主張が広まり、1980年代には「新自由主義」と呼ばれる自由放任主義に似た考え方が再び台頭した。日本で電話や鉄道事業の民営化が行われたのもこの時期である。

2000年代まで続いた「新自由主義」のもと、グローバル化の進展によって経済は活力を取り戻し、世界経済も大きく成長したと言える。ただし一方で、経済的格差の拡大や気候変動問題の深刻化など多くの弊害も生み出す結果となった。特に2020年の新型コロナウイルスの感染拡大や、2022年のロシアのウクライナ侵攻によって、世界各国のサプライチェーンの脆弱性や国際経済上の地政学的リスクがあらわになった。

そこで登場した「新しい資本主義」は、「国家か市場か」「官か民か」の二元論的な考え方ではなく、新自由主義によって生まれた課題に対し市場・国家・市民社会が一体となって解決を図ることを目指している。

新しい資本主義を実現するための考え方

新しい資本主義を実現するために重要な考え方として、以下の3つがあげられている。

分配の目詰まりを解消し、さらなる成長を実現

分配の目詰まりとは、資本主義がこれまでに生んできた「経済成長の果実」が、次なる投資や従業員の給料などに適切に分配されていない状態を示す。経済のさらなる成長を促すためには、こうした分配が適切に行われていくことが重要だと考えられているのだ。具体的には、デジタル投資の支援や賃上げなどを行うという。

技術革新に併せた官民連携で成長力を確保

AI・量子などのデジタル技術、クリーンエネルギー・マテリアル技術、バイオテクノロジー・医療の分野におけるイノベーションは、多くの社会課題解決の可能性を秘めており、また新時代の競争力の源泉となりうる。しかし日本は世界の国々に比べて、企業の研究開発投資や設備投資において大きな遅れをとっている現状がある。

従来のビジネスパーソン像ではなく、女性・若者・高齢者といった多様な人材が能力を最大限発揮できる社会の実現、個人スキルのアップデートのための惜しみない投資などによって、創造的な経済成長を促していく必要がある。

民間も公的役割を担う社会を実現

昨今、多くの複雑な社会問題を一つの国だけで解決していくことは困難だ。そのため、市場のルールや法を見直すことで、国だけでなく民間が主体的に課題解決に取り組める環境を作る必要がある。

内閣は、既存企業のみならずスタートアップや社会起業家、大学、NPOなど多様な担い手を育て、サポートする取り組みを広げ、新たな官民連携の形を作っていくとしている。

新しい資本主義の実現に向けた取り組み

こうした新しい資本主義の実現に向けた取り組みとしては以下のようなものが挙げられる。

  • 賃上げ・価格転嫁円滑化の取組:賃上げ税制の拡充、公的価格の引き上げなど
  • 人的投資の促進:学び直しや職業訓練、再就職、正社員化などを支援
  • スタートアップ・社会的起業の支援:株式公開価格の設定プロセスの見直し、社会的起業の創出支援についての検討など
  • 地域活性化の取組:地方におけるデジタル基盤の整備・デジタル実装などの支援、観光を核とした地域経済活性化への取組など

世界で広まる資本主義に代わる経済のカタチ

こうした動きは日本だけでなく世界中で広がっている。2023年5月、欧州議会は「Beyond Growth(ビヨンド・グロース)」会議を開催。これまでのGDP成長を目標とするのではなく、エネルギーや物質の使用を減らし、人間のウェルビーイングに焦点を当てた経済活動を推進することを呼びかけた。

物質的な豊かさよりも生態系の幸福を優先し、大量生産・大量消費のパターンから脱却しようとする動きとして脱成長という概念も広まっている。こうした考え方は、21世紀初頭から南ヨーロッパで広まり、消費社会による生活の質の低下を改善するための理論として展開されてきた。そして、気候変動や新型コロナウイルス感染症のパンデミックなど、現代の問題によって再び注目を集めており、さらに世界情勢の不確実性も、よりローカルな活動を求める動きを加速させている。

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一部のグローバルノースの地域では、こうした新しい経済への道が模索されている。たとえばニュージーランドでは、Jacinda Ardern(ジャシンダ・アーダーン)元首相が「ちょうどよい成長」を提唱。経済の目的は成長そのものではなく、環境の制約の中で全ての人ができるだけ良い生活を送れるだけの成長であるべきだと述べている。同様に、アイスランド、フィンランド、スコットランド、ウェールズでは、人々の生活と地球環境を豊かにする「ウェルビーイング・エコノミー」を指標に持つ政府が作られようとしており、GDPではない代替指標が開発されつつある。

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数百年にわたる資本主義の歴史の中で、人々は成功や失敗を繰り返しながらも、テクノロジーの発展やグローバル化などによって経済を大きく成長させてきた。しかし、地球の健康状態を示すプラネタリーバウンダリーは確実に限界を迎えつつある現在、これまでに例のないあらゆる複雑な課題を抱えている。その中で、これまでと同様の資本主義のあり方ではなく、どう新しい価値観を持って課題に向き合うべきかが今問われている。

【参照サイト】政府広報オンライン – 「新しい資本主義」ってなに?
【参照サイト】内閣官房 – 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画
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