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ウェルビーイングエコノミーとは・意味

ウェルビーイングエコノミー

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ウェルビーイングエコノミーとは?

ウェルビーイングエコノミー(Wellbeing Economy)とは、人類と地球のニーズを活動の中心に置き、これらのニーズがすべて平等に満たされるようにする新しい経済の考え方である。

なお、ウェルビーイングとは心身と社会的な健康を意味する概念のこと。単なる瞬間的な「幸福(Happiness)」とは異なり、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指す持続的な概念だ。厚生労働省は「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態」と定義している。

ウェルビーイングエコノミーはそんなウェルビーイングを実現する経済のこと。誰もが快適、安全、幸福に暮らせる基盤を提供し、創造的なエネルギーを人類と地球全体の繁栄に向けて活用できる仕組みを意味する。

従来の経済モデルでは経済成長それ自体が目的となっている。GDP(国内総生産)の成長を最重要視し、どんな犠牲を払ってでもそれを追求する形をとってきたために、しばしばその過程で環境破壊や社会的格差を引き起こしてきた。一方でウェルビーイングエコノミーは経済成長そのものを目的とせず、持続可能性と公平性を基盤に、人類と生態系の共存を目指している。

また、2018年に設立された組織Wellbeing Economy Alliance(以下、WEALL)の政策リーダーを務めるAmanda氏は、ウェルビーイングエコノミーについて「経済活動が、社会や自然界の他のものの一部であるとする経済」のことと定義している(出典元:人々の生活と地球環境を豊かにする「ウェルビーイング・エコノミー」とは【ウェルビーイング特集 #37 新しい経済】 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD)。

スコットランドやニュージーランド、アイスランドなどでは、すでに「健康」「生活水準」「労働保障」「自然環境の質」など多面的な指標をGDPに代わる経済の成功指標として採用しつつある。

ウェルビーイングエコノミーが必要とされる背景

世界は危機的状況にある

地球環境と社会の現状は深刻だ。

イギリスの経済学者であるケイト・ラワースが提唱した「ドーナツ経済学」より、彼女が考案した地球の現況を示す図(社会と地球の境界のドーナツ)を見てみる。ドーナツの外側にはストックホルムレジリエンスセンターが提唱する「プラネタリー・バウンダリー(惑星的境界線)」が、ドーナツの内側には「ソーシャル・バウンダリー(社会的境界線)」が配置されている。

私たちは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義し、その限界点を表した概念であるプラネタリー・バウンダリーの4分野(気候変動、窒素・リンの負荷、生物多様性の喪失、土地システム変換)で限界を超えており、一方でソーシャル・バウンダリーの12分野(水、食料、健康、社会的平等、男女平等など)で大きな不足が見られる。

人類と地球の持続可能な未来を実現するためには、先述したような環境分野における過剰と社会的分野における不足をなくす必要がある。この不均衡を是正するためには、ウェルビーイングエコノミーへの転換が不可欠だ。

ウェルビーイングの重要性とウェルビーイングエコノミーの登場

持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3では、「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」が掲げられており、ウェルビーイングは人々の健康的な生活と福祉の促進を目指す重要な概念とされている。この考え方は、社会や経済の持続可能性に深く関わる要素として注目された。

2021年のダボス会議では、持続可能な経済システムを再構築する「グレート・リセット」がテーマとなり、世界経済フォーラムの創設者であるクラウス・シュワブ氏は「ウェルビーイングを中心にした経済」に移行する必要性を提唱。この視点が従来の経済モデルの見直しを促し、人々の幸福を重視した新しいアプローチを提案するものとなった。

また、先述したWEAllがウェルビーイングエコノミーを新しい経済概念として提唱。1970年に設立された民間組織「ローマクラブ」(※)のレポート『Earth for All』でも、環境の安定性と社会的レジリエンスを両立するための鍵として、ウェルビーイングエコノミーの必要性が述べられている。

※ 世界各国の有識者や企業経営者などで構成され、公害や環境破壊、貧困や天然資源の枯渇化といった問題の緩和、回避を目的に、その方法を探るための研究、啓蒙活動を行う団体(参照元:「ローマ・クラブ『成長の限界』から40年」 小島明のGlobal Watch 日本経済研究センター)。

気候変動対策、メンタルヘルスの向上にも寄与

ウェルビーイングエコノミーは気候変動の緩和に寄与する。従来の経済モデルが成長至上主義のもとで環境破壊を加速させたのに対し、ウェルビーイングエコノミーでは気候変動が私たちの自然環境、地域社会、そして将来の世代の安全保障に与える影響を捉え、最終的に緩和しようとするものだからだ。環境の持続可能性と将来の世代に向けた安全保障がウェルビーイングエコノミーの中核をなしている。

メンタルヘルスの向上にも寄与することに注目したい。ウェルビーイングエコノミーでは、人々がより健康的な生活を送り、病気やケガなどを未然に防ぐことができるよう、身体的・精神的な健康の増進、予防、早期介入への投資を支援。また、すでに健康を害している人を適切にサポートし、ケアするための投資も支援する。さらに、安全で包括的な生活環境の整備や、健康的で手頃な価格の新鮮な食品へのアクセスを促進するなど、地域社会全体の身体的・精神的な健康を高める取り組みを重視する。

このように、ウェルビーイングエコノミーは、人々と地球にとって持続可能で調和のとれた未来を築くための新たなアプローチを提供するものだ。

ウェルビーイングエコノミーの基本軸

ウェルビーイングエコノミーにおける良い経済とは、すべての人が快適で安全に、そして幸福に暮らすのに十分なものを確保できるようなルールとインセンティブ(日本語訳:動機、モチベーション等)が設計されていることである。

そんなウェルビーイングエコノミーを推進するために、以下の5つの基本軸があげられる。

  • 自然(Nature):人間は自然と一体であるから、地球が提供する資源を持続可能な形で利用し、その恩恵は地球に還元する。
  • 目的(Purpose):公共機関や社会の制度は共通の利益に貢献し、人類に共通する帰属意識を支える。
  • 尊厳(Dignity):誰もが基本的な生活の質を保障され、快適、安全、幸福に暮らせる社会を実現する。
  • 公平性(Fairness):正義が経済システムの中心に据えられ、富と資源の不平等を解消する。
  • 参加(Participation):地域社会や経済政策に対して市民が積極的に関与し、共に経済を形作る。

そしてウェルビーイングエコノミーを実現するには、政策と実践を以下の4つの原則に導くことが重要だ。

  • 事前分配(Pre-Distribution):富や権力を公平に分配する仕組みを経済の設計段階から取り入れる。
  • 目的志向(Purpose):経済活動の目的をGDP成長ではなく、人類と地球の幸福に限定する。
  • 予防(Prevention):環境破壊や社会的損失を未然に防ぐ施策を講じる。
  • 市民主導(People-Powered):経済の意思決定に市民が直接関与する仕組みを作る。

ウェルビーイングエコノミーの具体的な事例

アメリカ

カリフォルニア州サンタモニカ市は、ビーチや山といった自然のほか、トップレベルの学校を擁する裕福で文化的な地域として知られている。同市は、市民が客観的にも主観的に本当に質の高い生活を送っているかどうかを理解したいと考え、住民の生活の質をより深く理解するためのプロジェクトを開始。2,200人の地元住民からデータを収集し、場所、健康、機会、コミュニティ、学習、人生観の各分野にわたる住民の生活の質を測定するウェルビーイング指数を作成した。

地域特化型のウェルビーイング指数により、市民の生活環境や社会的つながりを評価したところ、同市の住民は、一般的なウェルビーイングは高いものの、近隣との日常的なつながりを十分に感じていないことが明らかとなった。同市はこの結果を基に、市民ウェルビーイング局を立ち上げ、政策全般にウェルビーイングを組み込み、コミュニティのパートナーシップや人種平等に関する取り組みを主導している。

スペイン

バルセロナ市では、住民参加型プラットフォーム「Decidim」を活用。このプラットフォームはバルセロナ市民にオープンな参加型プロセスでの協議、政策提案の提出と追跡、議論への参加の機会を提供することで、政策決定に市民の意見を反映している。なお、このツール自体はオープンソースであり、他の政府による利用および改良が可能だ。

ニュージーランド

オークランド市は、貧困層支援とマオリのウェルビーイング向上を目的とする「Kia Puāwaiプログラム」を実施。地元の失業者をコールセンターで雇用することで、雇用機会を提供し、地域全体の経済的・社会的改善を図っている。この取り組みは高い成功率を誇り、若者のキャリア支援と地域リーダーシップで業界賞を受賞している。

ウェルビーイングエコノミーに期待されること

「ローマクラブ」のレポート『Earth for All』では、アフターコロナ時代の未来を描くシミュレーションとして2つの軌道を提示している。

1つ目は1980年から2020年に至る軌道を反映した未来を示したもので、現在の漸進的な対応が続いた場合に、このような未来になると考えられている。

  • 不平等の拡大により社会や国家は対立する
  • 地球の温暖化は2100年までに2.5℃上昇する
  • 自然環境の悪化や格差の深化によって平均ウェルビーイング指数は低下する など

もう1つは社会的、環境的ウェルビーイングが促進された場合の未来を示したもので、持続可能性とウェルビーイングを重視した社会改革が進むと、以下のような社会的公平性の実現や地球温暖化対策が可能になると考えられている。

  • 富裕層への課税や所得を再分配する政策が導入されれば、全ての地域において、10%の富裕層の所得が国民所得の40%未満に抑えられる
  • 再生型農業など持続可能な農業技術の普及が進み、温室効果ガスの排出量が減少することで、2050年代には気温上昇が2℃を下回る水準で安定する など

ウェルビーイングエコノミーは、経済活動の成功を単なる成長ではなく、人類と地球の幸福に基づいて再定義する挑戦だ。この新しい経済モデルを実現するためには、政策転換、社会意識の変化、市民の積極的な参加が必要になる。

ウェルビーイングエコノミーの取り組みは、人類と地球のニーズが平等に満たされることを可能にする。現在直面する地球規模の課題を克服し、持続可能な未来を築くために、ウェルビーイングエコノミーはその鍵となるはずだ。

【参照サイト】What is a Wellbeing Economy
【参照サイト】NTTデータ – ウェルビーイングとテクノロジー
【参照サイト】The wellbeing economy: Case studies and resources for local government – LGiU
【参照サイト】How to create a wellbeing economy | VicHealth
【参照サイト】Earth for All 万人のための地球『成長の限界』から50年 ローマクラブ新レポート
【参照サイト】アフターコロナの世界を動かす新しい原理-第6回「ウェルビーイング経済で未来を構築する」 | MIRAI Times|SDGsを伝える記事が満載|千葉商科大学
【参照サイト】人々の生活と地球環境を豊かにする「ウェルビーイング・エコノミー」とは【ウェルビーイング特集 #37 新しい経済】 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD




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